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キーパーソンが語る“人と組織”

“幸福学”を知れば誰でも幸せになれる! 従業員が幸せになれば会社が伸びる!
人・組織・経営を変える“幸せの四つの因子”(前編)

前野 隆司さん
(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授)

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幸福はお金で買えるのか――幸せのメカニズムを解き明かす

―― 前野先生が提唱されている「幸福学」とは、どのような学問なのですか。

前野 隆司さん 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授

幸せの研究は従来、哲学者が行うものと思われてきました。最近では、客観的かつ統計的な立場から、幸せを科学として捉えようという機運が高まりつつありますが、それぞれの研究者がそれぞれの知見をバラバラに蓄積しているため、実際に社会で生かすにはまだ十分ではありません。結局、全体としてはどういうことなのか。私は、心理学を始め哲学や工学、政治学、経営学など多様な学問分野を横断し、個別の研究成果を体系化して、人々が幸せになるための心のメカニズムを明らかにしたい。それをより多くの人々に広めたいのです。

そこで、そうした実践までも含めた総合学問を提唱し、「幸福学」と名づけました。幸せなんて人それぞれ――そう思う人も多いでしょう。イメージする幸せの形はいろいろでも、そこへ至るプロセスには共通で単純な基本メカニズムが存在する、というのが私の立場です。ものづくりでは、原理や全体構造を徹底的に知り尽くし、メカニズムを駆使しないといい製品はできません。幸福学も同じです。私はエンジニアらしく、幸せのメカニズムを体系として理解することで、幸福学を誰もが実際に活用できる学問にしようと考えています。

―― 幸福学では、「幸せ」をどのように定義しているのでしょうか。

古代ギリシャ・ローマの時代から知られる、二つの幸福観があります。ヘドニズム(hedonism)とユーダイモニズム(eudaimonism)。日本語では、それぞれ「快楽主義」「幸福主義」と訳します。前者は、「おいしいものを食べて満足」とか、「ボーナスをもらってうれしい」とか、刹那的な快楽や楽しみの繰り返しが幸福だとする考え方。後者は、自らの生き方を顧みて「私の人生は幸せだなぁ」としみじみ感じ入ったり、「人のために尽くすいい人生にしたい」と考えるときのような、人生にわたっての幸せを追求すべきという考え方です。

幸福に関する二つの概念を比べると、それを感じるタイムスパンの長さに大きな違いがあることがわかるでしょう。「おいしいものを食べてハッピー」というとき、それは気分や感情といった短期的な心の動きであって、決して長続きはしません。一方、そうした気分の浮き沈みや喜怒哀楽はあるけれど、全体として「ここ10年は順調」といった幸せは、ロングスパンの心の状態を表す、いわば長期的な幸福であり、これに近いのが「人生満足」という概念です。買った商品に満足するとか、今の上司に不満だとか、“部分”に対する感情ではありません。人生満足とは、個々の身近な満足も不満も含め、人生に全体として満足しているかどうか。この「全体として」というところが、ポイントなんです。

幸福学でも、こうした人生の全体像を「幸せ」と呼びたい。人生満足については、幸福学の父と呼ばれる米イリノイ大学名誉教授のエド・ディーナー博士が開発した、人生満足度を測る質問項目(下表)がありますので、読者の皆さんも答えてみてください。

Q.以下のa~eに対して、それぞれ当てはまる数字を記載してください。

a.ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い……
b.私の人生は、とてもすばらしい状態だ……
c.私は自分の人生に満足している……
d.私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた……
e.もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう……

1 全く当てはまらない 2 ほとんど当てはまらない 3 あまり当てはまらない
4 どちらともいえない 5 少し当てはまる 6 だいたい当てはまる
7 非常によく当てはまる

五つの数字の合計は?……

皆さんは何点だったでしょうか?

五つの質問から得られた点数は、おおむねその人の幸福度を示しています。ちなみに過去の調査では、アメリカの大学生の平均が23~26点だったのに対し、日本の大学生は18~22点という結果が出ています。私の研究では、日本人の平均は18.9点でした。

―― 幸せには、短期的な幸せと、長期的な幸せがあり、私たちが目指すべきは後者だということですね。

さらに、短期的な幸せは「地位財」、長期的な幸せは「非地位財」によってもたらされることがわかっています。地位財とは、カネ・モノ・地位など、他人との比較でしか満足を得られないもののことです。これらは、思いのほか長続きしないのでむなしい。むなしいのに、いいえ、むなしいからこそ、人はつい「もっともっと」と、地位財ばかり求めてしまうのでしょう。ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマン博士の研究によると、短期的な幸せは所得に比例して増大するものの、年収7万5000ドル、日本円にして約750万円を超えると、頭打ちになってしまうことがわかりました。要するに、金持ちになればなるほど、人生の一瞬一瞬がもっと楽しくなるかというと、そうではないということですね。

一方、他人との比較とは関係なく喜びが得られるものを「非地位財」といい、それらがもたらす幸せはより確かで、長続きする特徴があります。非地位財は、その多くが自由や自主性、愛情など、形がない心的要因です。形がないものは実感しにくい。だから目指しにくい。私は、長期的な幸せに関係する要因を、過去の幸福研究から徹底的に洗い出し、日本人約1500人を対象にアンケートを実施しました。そしてその結果をコンピューターにかけ、因子分析という手法で解析したところ、人が幸せになるためのカギはわずか四つの因子に集約されたのです。


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