企業の海外展開の要諦
――グローバル・リーダーに求められる
「グローバル・マインドセット」をいかに醸成していくのか
早稲田大学 政治経済学術院 教授
トランスナショナルHRM研究所 所長
白木三秀さん
「気づき」の場を与えることの重要性
そういう状態だから、総合商社に就職が決まっても、「海外勤務はしたくない」という新入社員が出てくるのですね。
彼らを放っておいてはダメですね。重要なのは、実際に経験させることです。しかも、それをシステマティックに行うことが大事。そこから、気づきが生まれ、問題意識が出てくるのです。そうした学びは、中学や高校、大学時代に体験するべきですが、企業に入ってからでも遅くはありません。実際、将来海外拠点に赴任する可能性の高い若手社員を選抜し、「海外トレーニー制度」を導入する企業がどんどん増えています。
また、語学力についても、学生に対するインセンティブとして、TOIECで最低限700点は必要であることを、企業からメッセージとして出して欲しいと思います。ところが、多くの企業ではあまりはっきりと言いません。語学力よりも人間力、地頭が重要であると言っている企業が多い。学生が語学力を身に付けるための努力をしなくなるのも、無理もありません。
語学は奥の深い学問なのです。外国語の小説を読むためには、膨大な知識が必要です。英語を特別視するわけではありませんが、現在のビジネスの状況を考えると、公用語としての英語ができないと困ります。一定レベルのボキャブラリー(語彙)があって、読み書きができることが求められていますが、学生が語学をツールとしてが軽く見がちなのは困ったことです。
重要なのは、日本語で物事を考えて自分の意見を言うのと同じ文脈で英語が使えるかどうか、ということですね。
そういうきっかけを与えるのが、大学の仕事だと思います。同時に、グローバル時代においては、日本に関する知識も持っていなければなりません。実はその件で、ショックを受けたことがあります。大学の講義で、明治維新が起きた年号(1868年)を正確に答えられる学生が少なかったんです。江戸幕府が誕生し、明治維新が起きて、太平洋戦争があったというのは常識です。これを抜きにして、近現代の日本を話すことはできません。問題なのは、学生が年号を知らないことよりも、きちんと中学校・高校で教わってこなかったということです。かつての学生は、そんなことはありませんでした。
現在の教育のレベルが下がってきていることが、原因だということですか。
それよりも、そういうことはインターネットで調べればいい、覚えなくてもいい、と思っていることが問題かもしれませんね。知らないことを調べるのは大切ですが、それ以前に、知っておかなくてはいけないことがあることを忘れてはいけません。我々は日本人です。グローバルの場に出ると、日本人であることを意識した言動、日本人であれば当然知っておかなければならない知識が、求められます。これが、言葉の奥底にあるコンテンツだと思います。
こうしたことは、グローバルでビジネスをしていく上の基本です。日本のことを相対的に議論できる知識がなくて、「グローバル・マインドセット」が身につくわけがありません。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。