少子化で減り続ける若手社員
~膨らむミドルシニア社員の活用が企業の課題に
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
坊 美生子氏
要旨
日本全体の少子高齢化という波は、労働力人口や、正社員・正規職員人口の年代別バランスも変化させている。人口ピラミッドは、30年前には団塊世代を含む中年層と、団塊ジュニアを含む若年層に塊があり、労働力人口や正社員・正規職員の人口分布も概ね同様であった。企業が若い人材を、どんどん採用し、必要なだけ配置できた時代だっただろう。
しかし現在の人口ピラミッドは、高年層と中年層に塊があり、若いほど、どんどん先細りしていく。これを土台とした労働力人口の人口ピラミッドは、働く女性や高齢者の増加により、全体の人口は過去30年で約300万人増えたものの、年代分布はやはり、より中高年に寄っており、概ね若いほど先細りしている。政府の両立支援策などにより、働く女性は、20歳代後半から30歳代前半を中心に、大幅に増加したが、若年層全体の減少を補うレベルには至っていない。正社員・正規職員として働く人の人口分布も、若いほど概ね先細り傾向である。企業から見ると、若手を自由に採用・配置できなくなっている。
しかし、若手の採用難よりも重要なのは、若年労働力人口自体の減少である。現在の10歳代の人口の薄さを考えれば、この問題は今後、より深刻化するだろう。このような状況で、企業が持続可能性を高めていくためには、ボリュームゾーンのミドルシニアを十分、活用するための投資が必要ではないだろうか。具体的には、ミドルシニアへの研修拡充による再教育、重要な職務の割り当て、一律の役職定年の見直し、50歳代からの管理職登用などが考えられるのではないだろうか。
1――はじめに
新卒採用が学生の「売り手市場」と言われるようになって10年近い。厚生労働省と文部科学省の調査によると、今年3月に卒業した大学生の就職率は98.1%(4月1日時点)で、過去最高を更新した。就職率は、新型コロナウイルスの影響を受けた2~3年前はやや低下したが、長期的にみれば、2015年卒以降、90 %台後半の高水準で推移している(図表1)。
そのような中、各企業は、インターンや内定者向け行事を実施するなど、積極的な採用活動をしているが、仮に今年や来年、採用目標を達成できたとしても、今後も達成し続けられるかどうかは分からない。周知のように、国内では、少子化が長く続いてきたことによって、若年層の労働力人口そのものが減少しているからである。だからと言って、外国人材の採用も、そう簡単ではない。
従って、社会全体の持続可能性を維持するためには、労働力の人口ピラミッドの変化に合わせて、中高年の年代層までが、フルに能力を発揮できるような環境を目指さなければならないだろう。各企業単位で見れば、社員の年代別構成比の変化に合わせて、各年代層の役割や活用方法を見直していかなければならないのではないだろうか。本稿では改めて、このような年代別構成比の変化と、各年代層を活用する重要性について、政府統計を用いて説明する。
2――働く人に関する人口ピラミッドの過去30年の変化
2-1│人口ピラミッド
まず国内人口について、総務省の「国勢調査」の結果を基準に、その後の人口動向を反映させた「人口推計」から、過去30年間の変化をみたものが図表2である。総人口はほぼ変わりないが、年代分布が変化したことが分かる。1992年には、「団塊世代」を含む40歳代と、「団塊ジュニア世代」を含む10歳代後半から20歳代前半の2か所に、人口の塊があった。いずれも、5歳刻みで1,000万人前後の大きな塊を形成している。2002年には、塊がそのまま持ち上がって「団塊世代」を含む70歳代と、「団塊ジュニア世代」を含む40歳代後半から50歳代が膨らんでいる。しかし、団塊ジュニアの子ども世代にあたる20歳代から30歳代には塊が発生せず、年齢階級が下がるほど人口が減り続けている。少子化による現象と言える。10歳未満の人口は、5歳刻みで見れば、400~500万人足らずである。
2-2│労働力人口ピラミッド
次に、人口分布に就業環境を反映した労働力人口について、総務省の「労働力調査」より、過去30年の分布の変化をみたものが図表3である。労働力人口自体は、働く高齢者や女性が増えたことにより、過去30年で約300万人増えたが、分布はより中高年寄りになったことがグラフから分かる。
1992年には、労働力人口の塊は、団塊世代を一部含む「40~44歳」と、団塊ジュニアを一部含む「20~24歳」の2か所だったが、2022年には、団塊ジュニアを含む50歳前後の1か所のみになった。団塊世代は70歳を過ぎて次々と労働市場から退出し、塊が消失した。ただし、働き続けている人も多いことから、「70歳以上」の労働力人口は、1992年に比べて約3倍の約530万人に増えた。
また2022年には、団塊ジュニアより若い世代は、年齢階級が下がるほど、概ね減少していく逆階段状となっている。例えば、大学の新卒を含む「20~24歳」は、1990年には700万人を超えていたが、2022年には3割以上減少して約460万人となった。高校の新卒を含む「15~19歳」は、1992年の約179万人から、2022年には約4割減少して約109万人になった。新卒採用の逼迫が伺える。
女性は、過去30年で、20歳代後半以降のほとんどの年齢階級で増加した。特に20歳代後半から30歳代前半では、人口に占める労働力人口の割合である労働力人口比率の上昇幅が20~30ポイントに上った。30年前は出産退職が多かったが、仕事と家庭の両立支援策などにより、減少したからだ。しかし、若年女性の労働力人口が増加しても、少子化による若年層全体の減少幅を補うほどには至っていない。
2-3│正社員人口ピラミッド
次に、企業や団体で正社員・正規職員として働く人の年齢階級分布をみたものが図表4である。過去30年で、契約社員やパート従業員などの非正規雇用が増えたことにより、正社員・正規職員の人数自体は約200万人減少した。年齢階級分布は、やはり、より中高年寄りになっている。ただし女性に限ると、過去30年で、正社員・正規職員の人数は約80万人増えた。2-2で述べたように、出産を機に退職する女性が減ったほか、全年齢階級で、働く女性が増えたためである。
改めて、年齢階級ごとの分布の変化を見ると、まず1992年の正社員・正規職員人口の塊は、団塊世代が含まれる「40~44歳」と、団塊ジュニアが含まれる「20~24歳」から「25~29歳」の2か所にあったが、2022年には団塊ジュニアを含む50歳前後を中心とした1か所のみとなっている。団塊ジュニアより若い階級では、概ね正社員・正規職員は人口減少傾向にある。
2002年に、逆階段状に減っていく若年層のうち「25~29歳」だけが飛び出ているのは、上述した女性の増加がけん引しているためである。女性の「25~29歳」は188万人で、すべての年齢階級の中で最大となった。しかし男性は、40歳代前半以下のすべての年齢階級で、正社員・正規職員の人数が減少したため、男女合わせた全体でも、40歳代前半以下のすべての年齢階級でマイナスとなっている。
シニアの領域を見ると、2-2でみたように、70歳以上の労働力人口は2022年時点でも500万人を超えていたが、シニアの雇用形態は契約社員やパートが多いことから、正社員・正規職員に限れば、「65歳以上」は男女合わせても約120万人にとどまっていた。
2-4│三つの人口ピラミッドの変化に関するまとめ
これまで見てきたことをまとめると、30年前は、人口の年齢階級別分布は、団塊世代の中年層と団塊ジュニアの若年層に塊があり、労働力人口や正社員・正規職員の人口ピラミッドも概ね同様の傾向があった。企業からみれば、将来的に組織の支え手となる若い人材を、どんどん採用し、必要な部署に、必要な人数を配置できた時代だっただろう。
しかし現在は、総人口は30年前からほぼ変わらないものの、分布は高年層と中年層が厚く、若いほど、どんどん薄くなっている。例えば、50歳代前半の人口は5歳区分で約1,000万人弱いるが、20歳代前半はその約3分の2の約600万人に減り、さらに10歳未満だと半数の500万人以下に減るなど、顕著に減少している。
これを土台とした労働力人口はどうかと言うと、働く女性や高齢者が増加したことにより、全体では、過去30年で約300万人増えたが、分布を見ると、50歳前後に塊があり、それより下は、やはり、概ね若いほど細っていく。結婚・出産期にあたる20歳代後半から30歳代前半を中心として、女性の労働力人口は大幅に増えたが、少子化の影響はそれより大きいと言える。
正社員・正規職員として働く人の人口分布を見ても、やはり、50歳前後に塊があり、若いほど概ね先細り傾向である。働き続ける女性の増加により、20歳代後半のみ少し伸びたが、若年層全体の減少を補うほどではない。従って企業から見れば、50歳代は層が厚いが、若手は足りない、離職したら補充できない、将来の幹部候補が足りない—―、というような状況ではないだろうか。
また、人口分布を見れば分かるように、10歳代以下になるとさらに少子化が進み、人口そのものが5歳刻みで500万人前後に減少する。近い将来、労働力人口も正社員・正規職員人口も、さらに若年層は縮小していくと考えられる。企業単位で見れば、新卒採用を前提とした人事マネージメントが難しくなり、配置にも困難を生じるケースが増えていくのではないだろうか。
3――おわりに
日本全体で起きている少子高齢化という大きな波は、労働市場や、正社員・正規職員人口の年代別バランスも変化させている。労働力人口を確保するため、政府や経済界はこれまで、両立支援策や女性活躍推進政策を強化してきたが、これらが奏功して働く女性が増えても、少子化による若年層の減少というドラスティックな変化を補うには至っていない。
このような状況の中で、これから企業が持続可能性を維持していくためには、DX化などによる業務効率化だけではなく、人事マネージメント自体を見直す必要があるのではないだろうか。すなわち、採用や教育などで、若年層に集中的に投資するのではなく、ボリュームゾーンのミドルシニアを、十分活用するための新たな投資が必要ではないだろうか。
具体的に言えば、ミドルシニアに対する研修拡充による再教育、重要な職務の割り当て、一律の役職定年の見直しなどが考えられる。管理職登用についても、若手にもチャンスを与えると同時に、例えば50歳代の社員にも門戸を開放することが考えられる。これらは、本人の年齢ではなく、意欲と能力、仕事の成果に合わせて人事マネージメントを行うものであり、高齢者雇用にも適用できる考え方ではないだろうか。
「ミドルシニアの活用」という考え方は、根拠がない訳ではない。定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年 10 月に行ったアンケート「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、大企業で働く女性社員のうち、管理職昇進を希望している人が、50歳代前半で24.8%、50歳代後半で17.7%に上ることが分かった。つまり、50歳代の女性であっても、仕事への意識が高い人が一定おり、企業は、発掘と活用に取り組む余地があると言える。
ミドルシニア社員から見たら、何歳になっても、能力と意欲、仕事の成果次第で、スキルアップやキャリアアップを続ける機会があり、評価や待遇に反映されれば、やりがいを持って働き続けることができるのではないだろうか。
冒頭で述べたように、経済界全体で、「学生の売り手市場」、「若手の人材不足」という課題は共通認識になっていると考えられる。しかし、それ以上に重大な課題は、長期的な少子化による、若年労働力人口自体の減少である。今の10歳代の人口の薄さを考えれば、この問題は、今後さらに深刻化していくだろう。従って企業にとっては、組織における年代別構成の変化を踏まえて、各層の人材活用を見直していくことが求められるのではないだろうか。
また、本稿で説明してきたように、政府や経済界による、仕事と家庭の両立支援策や女性政策は、働き続ける女性を増加させたが、少子化というより大きな課題をカバーするには至っていない。日本の経済社会の維持のために、未婚化への対応など、根本的な少子化対策を講じる必要があるだろう。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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