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外国人労働者が関係する労組トラブル対応最前線

弁護士 向井 蘭(杜若経営法律事務所)
弁護士 友永 隆太(杜若経営法律事務所)

2.事例に基づく外国人労働者が関係する労組トラブル対応の実務

(1)二つの事例

以下では、外国人労働者に関連して労働組合問題に発展した二つの事例(ただし、当事者の特定を避けるため、一部内容を変更しています)を紹介します。これらの事例は、「外国人技能実習生として実習を行っていた外国人従業員が突如として失踪し、その後、外部の労働組合から当該外国人従業員が労働組合に加入したと連絡があり、団体交渉開催の申入れがなされた」という点において共通していますが、解決金額の点で違いがあります。以下のA社の事例とB社の事例において、明暗を分けたポイントは何でしょうか。

A社の事例

A社は実習実施者として、監理団体を通じ、外国人技能実習生甲を雇用していた。外国人技能実習生甲は、A社の工場において、特に問題なく勤務・実習を行っていたが、外国人技能実習生甲が突如寮から失踪し、所在不明となった。A社は、警察署に外国人技能実習生甲の失踪届を提出したものの、その後も外国人技能実習生甲の所在がわからないまま月日が経過。

外国人技能実習生甲の失踪から約半年後、外部の労働組合から、A社および監理団体に対し、外国人技能実習生甲が労働組合に加盟したことの通知および団体交渉の開催を要求する通知文が送付された。A社(および監理団体)は、これらの通知を受領したものの、当該労働組合に加盟した組合員と外国人技能実習生甲の同一性が確認できていないことを理由に、直ちに団体交渉の開催に応じることはしなかった。

これに対し労働組合は、正当な理由がない団体交渉拒否がなされたとして、都道府県労働委員会に対し不当労働行為救済の申立て(労働組合法上禁止されている使用者による「不当労働行為」に対する救済手続制度)をし、A社および監理団体は、申立てへの対応とともに、労働組合との交渉を開始した。

交渉の中で、労働組合からは、A社から外国人技能実習生甲に対する残業代の未払いがあるためこれを精算すること、外国人技能実習生が利用していたA社の寮費が一部過大に請求されていたためこれを返還すること等の要求がなされた。交渉では、労働組合側より、外国人技能実習生甲はA社から深夜にまで及ぶ長時間労働を強いられていたとの主張がなされ、外国人技能実習生甲が自ら記録していた労働時間のメモに基づく残業代計算書が提出された。これについて、A社は、長時間の作業を行うことを具体的に指示したという認識はないものの、提出された労働時間のメモの時間労働を行っていなかったと反証するに足る資料を持ち合わせていなかった。

また、A社の大口の取引先は、外国人技能実習生の労務管理も含むコンプライアンスを重視する企業であったことから、この紛争が拡大化することを避ける必要があった。

結局、A社が労働組合から要求された金額と同水準の解決金(外国人技能実習生甲の帰国費用を含む)を支払うことで、交渉による合意による解決が図られた。

B社の事例

B社では、監理団体を通じ、外国人技能実習生乙を雇用していた。外国人技能実習生乙は、B社において現場作業に従事していた。ところがある日、外国人技能実習生乙の荷物が寮からすべて引き払われ、同人の所在が不明となった。

失踪から約1ヵ月後、外部の労働組合から、外国人技能実習生乙が組合員になった旨および団体交渉の申入れの通知が、B社および監理団体に届いた。B社および監理団体はこの申入れに応じ、団体交渉が開催された。

団体交渉の中で、労働組合側から過去5ヵ月分の残業代の支払いが求められた。この残業代は、外国人技能実習生乙が自ら手控えに記載していた1日の拘束時間をもとに算出されたものだった。しかしながら、B社においては作業時間を記録しており、提出された記録との間で稼働日等、複数の点で齟齬(そご)がみられることが判明した。また、B社からは、B社の業務はその性質上、手空き時間が多く、当該手空き時間は労働時間に該当しないとの反論を行った。

複数回の団体交渉を経た結果、労働組合側が求めた金額の約6割の解決金により合意解決した。

(2)事例の比較

A社とB社の事例は、外国人技能実習生が失踪した後に労働組合に加盟し、団体交渉が申し入れられたという点において共通しているものの、解決の内容は大きく異なります。両事例の相違点は、表の通りです。

表:2事例の相違点
A社の事例 B社の事例
対象従業員 外国人技能実習生
失踪開始から、労働組合による団体交渉の申入れがあるまでの期間 約半年 約1ヵ月
団体交渉の申入れに対する対応 組合員と当該外国人技能実習生の同一性が確認できないことを理由に団体交渉に応諾せず 実習実施者、監理団体どちらも団体交渉開催に応じる
法的手続の有無 不当労働行為救済申立 なし
主たる要求事項 過去約1年分の残業代の支払い 過去約5ヵ月分の残業代の支払い
未払残業代の支払いに関する主たる争点 労働時間
労働組合が主張する労働時間の根拠 外国人技能実習生本人が時間を記録したメモ
実施機関側からの反論 必ずしも十分な資料に基づく反証がなされず
  • B社が記録していた労働時間の記録に照らし、メモには一部不正確な内容が含まれていることを反論
  • 手空き時間が含まれていることを作業実態を踏まえて反論
他の要求事項(具体的に挙げられたもの) 家賃の一部返還、帰国費用の負担等 特になし
解決内容
  • 当該外国人技能実習生の合意退職
  • 要求金額と同水準の解決金の支払い
  • 不当労働行為救済申立の取下げ
  • 当該外国人技能実習生の合意退職
  • 要求金額の約6割の解決金の支払い
その他の事情 当該紛争の拡大化による取引上のリスク(コンプライアンスを重視する大手企業が重要な取引先)

A社とB社の事例で、その結論の明暗を分けた主なポイントは、以下3点にあるものと考えられます。

  • ①労働組合から団体交渉の申入れがなされた際に、団体交渉に応じていたかどうか
  • ②労働時間の正確な把握および記録をしていたかどうか
  • ③取引先等に公表されることにより打撃を受け得る事実があったかどうか

①団体交渉に応じていたかどうか

労働組合法上、労働組合からの団体交渉開催要求に対して正当な理由なく団体交渉開催を拒否することは不当労働行為となります。団体交渉拒否に正当な理由が認められる場合には不当労働行為には該当しないことになりますが、正当な理由が認められるかどうかの終局判断が得られるまでには、かなりの時間を要するのが通常であり、また正当な理由の有無は事例ごとに総合考慮により判断されるため、見通しが不透明である場合が多いです。そのため、従業員(元従業員を含む)が労働組合に加盟し、労働条件に関する事項についての団体交渉を求められた場合には、使用者は団体交渉の開催には応じ、団体交渉の中で解決を目指すのが原則的な初動対応として適切といえるでしょう。

なお、使用者に団体交渉を申し入れることができるのは、労働組合法上、必ずしも企業内労働組合である必要はなく、企業の外部で組織された労働組合でも団体交渉の申入れができるという点にも注意が必要です。特に、外国人労働者に関する労働問題においては、その大半は企業内労働組合ではなく、外部の労働組合から団体交渉が申し入れられます。

A社の事例では、団体交渉の申入れがなされた際に、A社側が団体交渉開催に応じなかったため、都道府県労働委員会に対し不当労働行為救済の申立てがなされることになってしまいました。A社は、労働組合から外国人技能実習生甲の氏名が記載された組合加入通知書を受領した以上、初動対応として、まずは団体交渉に応じるべきだったといえます。

一方、B社の事例では、労働組合からなされた団体交渉の申入れに対し、B社および監理団体は速やかに団体交渉開催に応じました。その結果として、B社の事例においては任意の話合い(団体交渉)において紛争解決が図られました。

②労働時間の正確な把握および記録をしていたかどうか

使用者は、客観的な方法その他の適切な方法により、従業員の労働時間の把握をする必要があるものとされています。

いずれの事例においても外国人技能実習生本人のメモの記録に基づく残業代の支払要求がなされましたが、A社の事例では、外国人技能実習生本人のメモに記載されているような長時間の作業を行うことを具体的に指示したという認識はなかったものの、この主張を反証するに足る資料を持ち合わせていませんでした。一方、B社の事例では、具体的に何時から何時までどのような作業を行っていたのか、休憩が何時間とられていたのかということが記録されていたため、提出された外国人技能実習生本人のメモの内容を検証し、必ずしも提出されたメモの内容が正確でないと反論を行うことができました。

③取引先等に公表されることにより打撃を受け得る事実があったかどうか

B社の事例では、団体交渉の中で話題に挙がった問題点は、専ら残業代の支払要求に関する事項でした。一方で、A社の事例においては、残業代の支払要求以外にも、送出機関と外国人技能実習生甲との間で保証金の授受があったこと、法定の寄宿舎規則の届出がなされていなかったこと等、監理団体の監理体制や労働時間以外の実習態勢についても問題となりました。A社の大口の取引先は、外国人技能実習生の労務管理も含むコンプライアンスを重視する企業であったことから、取引上の大きな打撃を受けることが見込まれたため、A社としては労働組合や労働基準監督署からの指摘に従って改善を図らざるを得なかったという背景がありました。

昨今、大企業は自社グループ内のみではなく外部委託先にも法令遵守を要請する傾向にあります。最近では、「ユニクロ」を展開する株式会社ファーストリテイリングや、「ワコール」を展開する株式会社ワコールホールディングスが、委託先の工場リストを公開したことが報道されているように、その潮流はより一層の高まりを見せています。委託先企業は、法令遵守違反を犯した場合には、発注元である大企業からの発注が停止されてしまう重大な取引上のリスクにさらされることになります。ここでいう法令遵守には、出入国管理及び難民認定法(入管法)や外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)等の法令も含まれますので、法令違反のある状態で労働者を雇用することは、労務紛争リスクのみならず、取引上のリスクに直結することになります。

対応スキームの確認・関係部署間での共有

以上のように、団体交渉の申入れがあった際の初動対応や日頃の労務管理、実習実施体制の不備の有無によって、解決内容を大きく変わってきます。紛争化しないよう日頃の労務管理を適切に行うことはもとより、万が一紛争が勃発した際にも適切な初動対応ができるよう、対応スキームを確認し、関係部署間での共有をしておくことが、外国人労働者をめぐる組合紛争を泥沼化させない重要なポイントといえるでしょう。

3.予防法務の視点から考える外国人労働者の募集・契約実務上の留意点

(1)募集時の注意点

「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)では、外国人の雇入れの場面において、使用者が留意すべき事項が記載されており、募集にあたっては、「当該外国人が従事すべき業務の内容、労働契約の期間、就業の場所、労働時間や休日、賃金、労働・社会保険の適用に関する事項」を書面の交付等より明示することとされています。

また、同指針では、「母国語その他当該外国人が使用する言語または平易な日本語により労働条件を明示すること」とされており、「事業主による渡航または帰国に要する旅費その他の必要な費用の負担の有無や負担割合、住居の確保等の募集条件の詳細について、あらかじめ明確にするよう努めること」とされています。

これらの事項を明示することによって、雇入れ後に労働条件の食違いに起因する労使トラブルの発生を可及的に防止することが期待できます。

なお、国籍を理由として、賃金、労働条件、その他の労働条件について差別的な取扱いをすることは違法(労働基準法3条)とされている点にも留意が必要です。

(2)在留資格の確認

外国人労働者を雇い入れる際には、必ず当該労働者が日本で労働する資格を有しているかどうかを確認する必要があります。この確認のために在留カードの提示を求めることは差支えありません。また、在留カードの確認に加え、特定技能の在留資格をもって在留する者については特定産業分野を記載した指定書の提示を、特定活動の在留資格をもって在留する者については法務大臣が当該外国人について特に指定する活動を記載した指定書の提示を求め、届け出るべき事項を確認する必要があります。

なお、就労資格のない外国人の雇用等をした場合、使用者も刑事上の罰則の対象となり得る点に留意が必要です(入管法73条の2第1項、同条第2項、同法76条の2)。

(3)労働条件通知書

労働者を雇用する際に労働条件通知書を作成する必要がありますが、外国人労働者を雇い入れる際には、労働条件の齟齬が生じないよう、募集時の募集事項と同様に、当該外国人の母国語等も表記した書面を取り交わす等、当該外国人労働者が理解できる方法により労働条件を明示することが望ましいです。

労働条件通知書等には、賃金、労働時間に関する事項等、主要な労働条件について明記する必要があります。特に、日本の企業文化と外国人労働者の認識との間で齟齬が生じやすいのは、配置転換に関する事項です。配置転換を予定する場合には、配置転換があり得ることを労働条件通知書に明記のうえ、雇用契約締結時に説明を行っておくことが肝要です。なお、在留資格の変更を伴う配置転換の場合には、資格外活動の許可あるいは在留資格の変更許可が必要となりますので、この点には留意が必要です。

(4)ハローワークへの届出

使用者は、外国人を雇い入れた際には、翌月10日までに、当該外国人の氏名、在留資格、国籍等をハローワークに届け出ることが義務付けられています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律28条)。届出違反の場合には罰則が適用されること(同法40条1項2号)に留意が必要です。

『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報を基に解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2019年8月号の記事「外国人労働者が関係する労組トラブル対応最前線」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は、日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】
●向井 蘭(むかい らん)
1997年東北大学法学部卒業。2001年司法試験合格。2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)。使用者側で労働事件を主に扱う事務所(杜若経営法律事務所)に所属。著書に『社長は労働法をこう使え!』(ダイヤモンド社)、『会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!』(日本法令)、『書式と就業規則はこう使え!』(労働調査会)などがある。

●友永 隆太(ともなが りゅうた)
2015年慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。同年司法試験合格。2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。使用者側で労働事件を主に扱う事務所(杜若経営法律事務所)に所属。団体交渉、残業代請求、労働災害や解雇事件等の労働問題について、いずれも使用者側の代理人弁護士として対応に当たっている。

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