【解説】「テレワーク」ガイドラインの変更点と実務対応
一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員
今泉 千明
(この記事は、『ビジネスガイド 2018年3月号』(日本法令)に掲載されたものです。)
1 テレワークガイドライン案の公表
厚生労働省は、2017年度に有識者で構成される「柔軟な働き方に関する検討会」を設置し、7回にわたる検討会を開催しました。
検討会では、「テレワークガイドライン」の他に、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」について検討しました。本稿では、このうち、雇用型の働き方を対象とした「テレワークガイドライン」(正式には「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(案)」)についてご説明します。
2 在宅勤務ガイドライン改訂の背景
厚生労働省は、2005年に「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実務のためのガイドライン」(通称「在宅勤務ガイドライン」)を発行しました。
それまでは、在宅勤務という働き方が雇用型の働き方として認められるか否かは必ずしも明確ではありませんでした。在宅勤務ガイドラインが発行されてから、企業も安心して在宅勤務制度を導入できるようになり、在宅勤務が広がりました。
テレワークとは、「情報通信技術(ICT)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のことです。要するに本拠地のオフィスを離れて、ICTをつかって仕事をすることです。
テレワークは、働く場所によって、在宅勤務(自営型の場合は在宅ワーク)、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務に区分されます。在宅勤務は自宅で働く働き方です。モバイル勤務は移動中の公共交通機関や客先、カフェ、出張中のホテルなどで働く働き方です。サテライトオフィス勤務は、自社の拠点内に設置した自社専用のサテライトオフィスや企業が契約したコワーキングスペースで働く働き方のことです。
在宅勤務は通勤を要しないことから、通勤時間分を有効に活用できます。育児や介護を担う労働者にとっては、家庭と仕事の両立がしやすい働き方です。それ以外の労働者にとっても生活に利用できる時間が増えることにより、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすくなります。
サテライトオフィス勤務は、自宅の近くや通勤途中にあるオフィスを利用することによって、通勤時間の短縮ができます。また、在宅勤務やモバイル勤務よりも作業環境が整った場所で就労が可能となります。モバイル勤務は外勤時における移動時間を利用するなど働く場所を柔軟に運用することで、業務を効率化できます。
在宅勤務ガイドラインでは、在宅勤務の導入方法や法的な位置付けについては明確にしていますが、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務については触れていません。
国土交通省の調査によれば、コワーキングスペースなどのテレワークセンターは全国に約1,900ヵ所あります。これらのテレワークセンターの運営者に調査したところ、回答のあったセンターのうち、65%は2011年以降に設置されたものです。
テレワークセンターの利用者はフリーランサーなどの自営業者と企業に勤務する営業担当者などです。営業担当者はサテライトオフィスとして、テレワークセンターを利用するケースが多くなっています(出典:国土交通省「テレワークセンター事例集」平成29年3月)。
以上のような背景があり、近年モバイル勤務やサテライトオフィス勤務などが普及拡大しつつあります。
このような実態に合わせ、在宅勤務だけでなく、モバイル勤務やサテライトオフィス勤務における労務管理を含む総合的なテレワークに関するガイドラインが求められています。
ガイドラインによって、長時間労働を招くことがないように留意しつつ、テレワークを普及拡大することが期待できます。
図表1は、従業員規模別の制度としてテレワークを導入している企業の比率です。全体では13.3%となっています。企業規模が大きい企業での導入率は5割近くと高く、300人未満では8.3%となっています。今後中小企業での導入が課題となっています。
政府は、テレワーク導入率を2020年度までに2012年度(11.5%)の3倍の34.5%にするという目標を掲げています。
図表2は、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」における労働者のテレワーク実施意向です。約4割の労働者がテレワークを実施したいという意向を示しています。
政府も推奨し、労働者も実施意向のあるテレワーク。テレワークの普及拡大には、円滑に導入するためのテレワークガイドラインの策定が望まれているのです。
〈実施してみたいと思う理由〉
- 通勤時間・移動時間が削減できそうだから:69.3%
- 自由に使える時間が増えそうだからだから:67.4%
- 自宅で仕事が可能だから:44.1%
- 家族との時間が増えそうだから:26.8%
出典: 国土交通省「平成28年度テレワーク人口実態調査」
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。