【実効性の乏しい対策では意味がない】
『SNS問題』に関する実務対策と規定・研修の見直し
弁護士
高仲幸雄(中山・男澤法律事務所)
3. 必要な社員教育・研修の方法
(1)教育・研修を実施する側の意識改革も必要
まずは、会社側で問題意識を共有してもらう必要があります。SNS利用に関して問題意識がない人が責任者である場合、社員教育や研修を提案しても「我が社に不適切投稿をするような馬鹿な社員はいない。常識で判断できる」として却下されてしまうかもしれません。
また、「教育や研修をすれば不適切な利用を防げるのか(完全に防げないなら不要だ)」といった悪魔の証明をさせるような反論をされることがあるかもしれませんが、何かあってからでは手遅れであるうえ、その被害は甚大ですから、新人教育や社員研修には何とか盛り込んでいただきたいところです。
(2)研修参加者は、正社員のみでは不十分
教育や社員研修には、正社員はもちろん、非正規社員に加え、子会社等の関連会社の社員にも出席してもらってください。
会社や店舗に出入りし、会社や顧客に関する情報に触れるのは自社の正社員のみではなく、派遣社員や関連会社の従業員もいますので、これらの従業員にも問題意識を持ってもらう必要があるからです。実際、子会社・関連会社の従業員が不適切投稿を行っても「○○グループの会社の従業員による不適切投稿」などと報道されてしまいます。
(3)注意喚起の方法
研修の際は、「会社の利益保護」や「社員としての自覚」といった話から入ると白けてしまいます。
まずは、社員個人に不利益があることを、裁判事例や個人が特定される危険性などから説明します。「不適切な投稿」の事例を説明する際は、どのような内容が問題となったかだけではなく、どのようにして情報が拡散し、企業や店舗、個人が特定されたか、といった点にも焦点を当ててください。
その中で、投稿者は自分が書き込んだ内容に価値がないように思っても、所属団体や業務内容を照らし合わせると話題性・報道価値が出てしまい、そうすると個人はおろか家族まで特定されてしまう危険性があることを注意喚起します。その中で、投稿内容として所属や仕事内容を記載することの危険性を説明します。
さらに、政治的発言や差別に該当するような投稿は、個人として行っているつもりであってもネット上で議論の応酬を重ねるうちにエスカレートし、所属先の見解と誤解される危険性もあることを説明します。ケースによっては、現在のSNSの利用の有無や所属先の記載等についてアンケートを実施することもあります。
下記は、そのような勉強会で使用するスライド資料の例です。
勉強会スライド資料の例
◆従業員の問題行為
- 意識していなくても「○○社の社員」「○○グループの社員」として見られている。
~自分も他人を肩書きで評価・判断していないか?~ - 何気ない発言、持ち物であっても、どのような会社か、特定できることも…。~業界用語、持ち物、服装にも要注意~
- 何気ない行為によって、企業イメージや商品ブランドに傷がつくこともある。
◆投稿前に以下の内容に注意する
~他社に拡散しても大丈夫か(投稿者が自分であることが判明しても大丈夫か)?~
- 自社の情報、取引先情報が含まれていないか?
- 他人の情報、顧客情報が含まれていないか?
- 書籍、ネット上の記載のコピー(著作権法上の問題も)
- 他人や特定団体の批評、政治的な主張・批判
- 根拠の希薄な情報に基づく主張・批判
- 人種、性別、宗教に関する主張・批評
- 自社製品や他社製品への批評
- 仕事内容についての愚痴(会社や顧客が特定される可能性)
◆自覚と注意
- 「悪気はなかった」では済まされない
~ 企業情報をネットに「悪気なく」書き込むような社員のいる会社と取引するか?有益な情報提供をするか?~ - 「匿名なので大丈夫」との考えは大きな間違い
- 問題行為によって失うもの
- 不利益を被るのは「会社」「自分」だけではない
(4)私生活上・表現の自由との関係
従業員の私生活への過度な関与と思われないようにすべきですが、会社としての要望はきちんと伝えるべきです。
会社の情報は、従業員個人が私的にSNSに投稿できるものではなく、勤務時間中に会社で得た情報を「SNSに無断で書き込む法的利益(権利)」も観念できません。
確かに、会社としてSNS利用を一切禁止することは、従業員個人の私的自由(私生活の自由)に対する過度の制約になりますが、就業時間中の従業員は職務専念義務を負っていますし、会社には施設管理権があります。ですから、会社が貸与する携帯電話でSNSへの私的書込みをすることを禁止したり、会社施設内で無断で写真を撮影してSNSに投稿することを禁止したりすることは、何ら従業員の私生活や表現の自由を規制するものではありません。
そもそも、従業員に自由・利益があるのと同様、企業にも権利・保護しなければならない利益があるのです。また、取引先情報や顧客のプライバシーに該当する事項をSNSに無断で掲載することの問題性は、そもそも投稿者の「私生活・表現の自由」の問題として論ずべきものではないのですが、投稿者が「インターネット上は表現(書込み)が自由」などと自分に都合の良い解釈(勘違い)をしている場合もあるので、きちんと説明してください。
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