【実効性の乏しい対策では意味がない】
『SNS問題』に関する実務対策と規定・研修の見直し
弁護士
高仲幸雄(中山・男澤法律事務所)
2. 問題投稿により投稿者や企業が被る不利益
(1)不適切投稿により被る「投稿者」と「企業(使用者)」の不利益
社内説明では、不適切投稿により「どのような不利益」を被ることがあるかを説明する前提として、SNSの仕組みについての一般的な知識を押さえておく必要があります。
まず、不適切投稿がなされてしまう原因の多くは、投稿者は確信犯ではなく、問題意識が欠如していること、不注意、また匿名性ゆえの悪ノリなどにあります。
かかる観点を踏まえて、社内で注意喚起すべきポイントとしては、(1)SNSへの投稿で他者の名誉を毀損する書込みがなされた場合、民事上の不法行為責任、刑事上の名誉毀損罪が成立することがあること、(2)投稿の態様によっては、使用者である企業の責任も問題となり得ること、(3)名誉毀損等の法的な問題に至らないまでも、マスコミで報道されれば企業イメージが大きく損なわれること、が挙げられます。
また、匿名での投稿であっても、(4)投稿者が過去に行った他の書込み内容を辿ったり関連する書込みや知人の投稿をつなぎ合わせたり、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示が行われることで投稿者個人の特定が可能であること、(5)投稿者個人が特定されなくても、投稿者が勤務する「企業」「店舗」が特定されてしまえば、それだけで企業イメージが損なわれることを指摘し、注意喚起することになります。
実際の研修では、上記のように具体的にポイントを示して注意喚起をしなければならず、マスコミで取り上げられた不適切投稿例を反面教師として、社内研修や社員教育で社員個人の自覚を促すというような内容では、十分な実効性(防止効果)は期待できないでしょう。
◆注意喚起すべきポイント
- 民事上の不法行為責任、刑事上の名誉毀損罪が成立することがあること
- 使用者責任も問題となり得ること
- 企業イメージが大きく損なわれること
- 投稿者個人の特定が可能であること
- 勤務先が特定されることで企業イメージが損なわれること
(2)投稿者の損害賠償責任&使用者が被る不利益
ア 近時の最高裁判決(平24.3.23判時2147.61)は、昭和31年に新聞記事の内容をめぐって示した「名誉を毀損すべき意味のものかどうかは、一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである」との名誉毀損の判断基準が、インターネット上のウェブサイトに掲載された記事であっても異ならないことを前提として、不法行為の成立を認めています。
イ また、携帯電話からインターネット掲示板「2ちゃんねる」に名誉毀損に当たる書込みが行われた事案(東京地判平24.1.31判時2154.80)では、被告は書込み行為をしたこと自体を否認していましたが、裁判所は、証拠上、書込みは携帯電話の所有者である被告が行ったものであると認定し、慰謝料100万円、弁護士費用10万円に加え、投稿者特定のための調査費用63万円の支払いも命じました。
この裁判例では、被告の勤務する会社に対しても使用者責任(民法715条)を根拠に損害賠償請求がなされましたが、書込みが休暇中に個人所有の携帯電話から行われたものであったため、結果的に会社の損害賠償責任は否定されました。この裏返しで言えば、書込みがなされたのが就業時間中であったり、会社貸与の携帯電話やパソコンを利用したものであったりした場合、使用者責任は免れ難いと考えられますし、法的責任追及にまでは至らなくても企業の名誉・信用の毀損は避けられません。
(3)刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)について
最高裁(平22.3.15判時2075.160)は、インターネット上の書込みによる名誉毀損罪の成立について、(1)「インターネット上に掲載したものであるからといって、おしなべて、閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らない」、(2)「インターネット上に載せた情報は、不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもない」(下線は筆者)とし、他の情報媒体を用いた場合と異なる基準により判断すべきでないと判示しています(被害者がネット上で反論することで被害が拡大する可能性があることについては、前田雅英『刑法各論講義〔第5版〕』東京大学出版会201頁(脚注22)参照)。
(4)投稿者の個人情報がSNS上で拡散される危険性
匿名でSNSへの投稿を行っても、投稿者が過去に行った他の書込み内容を辿ったり関連する書込みや知人の投稿をつなぎ合わせたりすることで、投稿者個人の氏名や顔写真、所属、場合によっては居住地や家族関係までも特定できることがあります。一旦情報がSNS上に掲載されてしまえば、膨大な数の閲覧者の目に晒されますから、驚くほど短時間のうちに投稿者を特定することができてしまうのです。
また、投稿が名誉毀損に該当するケースでは、法的手続によって投稿者のパソコンや携帯電話を特定することも可能です(判タ1360号「名誉毀損訴訟解説・発信者情報開示訴訟解説」参照)。
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