『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』開催レポート
2016年3月18日(金)お茶の水のソラシティカンファレンスセンターにおいて、株式会社ヒューマンバリューは、『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』を開催しました。
近年、米国を中心に「評価段階付けの廃止(No Rating)やあらかじめ定めた分布率(カーブ)に収めるのをやめる(No Curve)」という動きが、パフォーマンス・マネジメント(人事評価)の新しい潮流として注目を集めています。すでにフォーチュン500の企業の10%以上の企業が年1回の評価・レイティングを廃止しており、2017年までには50%が廃止すると予想する研究者もいます。
『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』は、パフォーマンス・マネジメントの変革に関するトレンドや変化の動向およびその背景にある哲学や原理、自分たちに及ぼす影響や意味を押さえながら、その場に集まった180名を超える参加者が、今後の経営・人事・働き方のあり方および日本企業が取り組むべきことを検討する場となりました。本レポートでは、当日の模様をダイジェストでお伝えします。
当日のスケジュール
当日のスケジュールは以下の通りで、冒頭に株式会社ヒューマンバリューの代表取締役副社長の阿諏訪氏から「レイティングをやめる企業が増えてきた背景と意味」に関する情報提供があり、その後、海外カンファレンスの内容紹介、実際に導入している3社の事例共有、さらに日本においての適応を探求するパネルディスカッション&ダイアログと続きました。
レイティングをやめる企業が増えてきた背景と意味
フォーラムの冒頭で、「パフォーマンス・マネジメント革新」研究会事務局長である阿諏訪氏から、米国を中心に大きく広がりつつあるパフォーマンス・マネジメントの革新にはどのような背景や意図、ねらいがあるかについて、この研究会活動を通じて明らかになった内容が報告されました。
パフォーマンス・マネジメント革新に取り組んでいる企業を調べてみると、変革を行った理由として、従来のパフォーマンス・マネジメントは「社員のエンゲージメントを低下させる」「マネジャーとメンバーの関係を悪化させる」「かけるコストと得られる成果・効果がつり合わない」「ビジネスの実態にそぐわない」といったことが挙げられていたそうです。
そしてニューロサイエンスの進化によって、社員の成長と高いパフォーマンスには、スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授が発見した「グロース・マインドセット」が重要であること、そして、従来のパフォーマンス・マネジメントはその反対の「フィックスト・マインドセット」を助長することが明らかになったとのことでした。
また先行的に実践している企業に共通する重要なポイントとして、(1)フィロソフィーの重要性、(2)生成的な変革プロセスによる推進、(3)カンバーセーションを重視、(4)報酬に対する捉え方、(5)人事の役割、制度のあり方のシフトについて紹介がありました。
さらに、1000名を超えるビジネスパーソンによって明らかになった日本企業における実態調査についても報告されました。日本企業においても、社員のモチベーションや成果、パフォーマンス・マネジメントに関して同様の傾向があり、パフォーマンス・マネジメントの革新について、日本においても今後検討していくことの重要性が確認されました。
なお、「日本企業における実態調査」の詳しい調査レポート(PDF)はこちらのサイトからダウンロードできます。
海外のパフォーマンス・マネジメントの最新動向
昨年、米国で開催されたパフォーマンス・マネジメント革新に関わる二つのカンファレンス報告がされました。一つが、ニューヨークで開催された『NeuroLeadership Summit 2015』で、ヒューマンバリューの川口氏、霜山氏からの報告がありました。二人からは、サミットの概要やそこで議論されていた最新のニューロサイエンスのトピック、イベントの参加者や会場の雰囲気、またニューロサイエンスの研究成果の中でも、特にパフォーマンス・マネジメントの革新に影響を与えている要因について説明されました。
もう一つが、ポストンで開催されたパフォーマンス・マネジメントがメインテーマだった『SIOP Leading Edge Consortium 2015』です。ヒューマンバリューの長曽氏と佐野氏からコンソーシアムの紹介とともに、パフォーマンス・マネジメントの革新の五つのポイントそれぞれについて、どういった企業がどのような意図をもって実施しているかといった紹介がありました。
こうした最新の情報提供を受けて、参加者の皆さんは周りの方とお互いの気づきや発見などを共有し合い、対話を深めました。
日本における先行的な実践の共有
このセッションでは、すでにパフォーマンス・マネジメントの革新を実践されているギャップジャパン株式会社、日本GE株式会社、日本マイクロソフト株式会社の3社の推進者が登壇し、導入の背景、内容、今後について共有しました。
ギャップジャパン株式会社シェアドサービス人事部シニアマネージャーの佐藤陽子氏は、現在取り組んでいる「GPS:Grow, Perform, Succeed」について紹介しました。年度末評価を本当にやめたという話で会場は盛り上がり、実際の従業員の声の紹介では会場は静まり返って、佐藤氏の話を真剣に聞き入っているようでした。
日本GE株式会社人事部人事部長の谷本美穂氏は、パフォーマンス・マネジメントがGEの大きな変革の一部であること、またGEが変革に至った経緯、そして現在の取り組みについて紹介し、失敗を恐れない文化への転換、自分たちの顧客の定義についてあらためて考えたこと、評価にこだわったマネジメントからコンテンツにこだわることの重要性などについて解説しました。
日本マイクロソフト株式会社執行役 人事本部長の佐藤千佳氏からは、マイクロソフトの変革の取り組みの経緯、またこの取り組みを通して得られた気づきなどが共有されました。「いろんなものを完璧な状態にして落とす時代ではなくなったのかなと。このやり方自体がカルチャーを変えていくことになったのかな」という言葉が印象的でした。
いずれの3社の事例も具体的であることと、参加者の企業においても同様な傾向があることから、会場の参加者は熱心に聞き入っている様子でした。
事例発表者3名とのダイアログ
3社の事例共有の後、登壇された3名とヒューマンバリューの阿諏訪氏を交えてダイアログを行い、会場からのニーズが高かった評価と報酬についての各社の話や、企業文化を変えることについて各社でどのように取り組んでいるかなどを、あらためて探求しました。
マイクロソフトの佐藤千佳氏からは、「お互いがこんなに近いことをしているなら、もっと前から一緒に情報共有すればよかったわね」といった言葉もありました。
日本における可能性の探求~パネルディスカッション&ダイアログ
モデレーターの土屋恵子氏の進行で、パネリストそれぞれの方が研究会に関わった経緯や、研究会での気づき、また今日一日の中で印象に残ったことについてダイアログを行いました。
また、会場からの質問を募り、会場とパネリストとの対話も行われました。会場からの「それぞれ自社でどのように取り組まれているのですか?」といった質問に、企業によってさまざまな取り組み方があることが話され、会場との距離がいっそう近づいたように感じられました。
ラップアップ
最後に、株式会社ヒューマンバリュー代表取締役社長の兼清氏が過去30年のパフォーマンス・マネジメントの歴史を振り返り、ピーター・ドラッカーのMBO(目標による管理)やその次の成果主義の導入もまた、本来の意図と実態とに乖離があったことに触れ、今回の新たな潮流について過去と同様のことを繰り返してはならないと述べました。そのためには、最初から完璧なものを入れるのではなく、エビデンスベースド、つまり本当にその施策が効果的なのかを確かめながら、徐々に完成度を上げていくような導入をイメージしたいというメッセージが述べられました。最後に、忙しい時期に終日イベントに参加してくださった会場の皆さまに感謝の意を申し上げて、会場とともにチェックアウトしました。
一日を通して集中力の切れない会場の雰囲気や、徐々に前のめりになってダイアログされている様子を見て、これから何か新しいものが生み出だされるエネルギーが高まっていることを感じることができました。
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