人は本来、たくさんの可能性を持っているもの――
若い人たちが自分の才能や価値観を大切にし、
「仕事を謳歌」していくために必要なこと
株式会社ジェック 代表取締役社長
葛西 浩平さん
小さな成功にスポットライトを当てるマネジメントを実践し、「美点凝視」し合える組織へ
とは言え現実には、企業や組織はもとより、個人もなかなか変えることができずに苦しんでいる現場担当者が大勢いるように思います。
そうですね。行動理論の改革と集団性格の革新を実践する上で、特に苦労するのは「美点凝視」です。人の良いところを凝視し、言い続けるということですが、これが対人関係における重要なキーワードになるのです。素質としてもともと美点凝視ができている人は良いのですが、失敗経験が多い人の場合は、他人の欠点ばかりが目につくようになってしまうこともある。人を味方ではなく、敵だと認識してしまうことが増えていきます。
なぜそうなってしまうのか。私は、企業に入る前の教育にも原因があると思っています。マルかバツかの二極思考で、「100点でなければダメだ」という考え方のもとで育つと、いつの間にか自分に対しての欠点凝視をやってしまうんです。最近の学校教育は、個性を大切にしたり、考える力を伸ばそうとしたりと、随分変わってきています。家庭教育も、ほめて伸ばすという認識が当たり前になってきました。しかし、システムは変わっても、100点主義で育ってきた我々親世代・教師世代が、ついつい子供にそれを押し付けてしまう、ということなのではないかと思います。「私はこれができない」「私には無理」と子供が自分の可能性にフタをしてしまう。本当はそこから変えなければいけません。学校の勉強以外にも、感性や美的感覚など大切にすべき能力がもっとたくさんあります。
最近では「多様性のある組織」の重要性が叫ばれますが、そうした時代にはまさに、美点凝視し合う個人の集まりでなければ対応できないような気がします。
おっしゃる通りです。しかし企業の場合はまず「早く業績を上げなければ」という思考が先に立ってしまいがちです。そうではなく、早い段階で人の可能性に着目し、挑戦させてあげなければいけない。また、挑戦の結果に失敗があっても、マネジメントがそれを叩いてはいけません。「だから失敗するって言ったんだ」「やっても無駄だと言ったのに」などと指摘したり、「余計なことをするな」なんて言ったりすると、もうアウトです。そうではなく、小さな成功にスポットライトを当て、ほめて自信づけを図り、成功の発生確率をさらに高めていくことが必要なんです。本人はもちろん、マネジメントもそうできるように努力しなければいけない。
また、「学び方の多様性」もこれからは重要になっていくと考えています。年齢や性別、国籍といった属性がバラバラの人たちが集まる時代には、学び方にも多様性が求められます。仕事に直接リンクするかどうかにかかわらず、従業員が自分の人生を充実させるための興味・関心の対象を広く持って、自発的・自律的に学べる環境をつくっていくべきです。
学ぶことが楽しいと思った人は、貪欲にさまざまなことを学び始めます。自分の仕事や趣味以外の分野にも興味がわいてくるのです。そのようなときに、いつでも学ぶことができる環境を整えておく必要があります。そして、こうしてたくさんの学びを得て、自分の中に多様性を持っている人は、言ってみればたくさんのアイデアの引き出しを蓄えている状態なわけですから、今までにない状況に直面したときに、「前例・決まりごと」の枠からはみ出した解決策を生み出すことができます。これこそが、イノベーションを起こせる人であり、そういう人が増えると、良い組織が生まれるのです。
これからはどのようなことに注力していきたいとお考えですか。
お役立ちやY理論の考え方は、すでに多くの企業の理念や社是に書かれています。創業者は、利益を上げることはもちろんですが、「お客さまを大切にしよう」「役に立つ会社であり続けよう」ということを考えていたはず。そもそも「役に立つから買ってもらえる」というのがビジネスの原理原則なので、多くの企業がこれを理念や社是として表すのは当然のことであるとも言えます。
ジェックではこうした「すでに掲げられている精神」にもスポットライトを当て、磨き上げる活動を続けていきたいと思っています。これが、ビジネスを通じて世の中を良くすることにつながっていくはずです。こうした理念の実践を支援していくために必要なのが、個人の強みを引き出していくことです。人事部門の方々にとっても重要なテーマだと思うので、ぜひ一緒に取り組んでいきたいですね。
もうひとつ、私は多くの企業が、「価値創造」や、ドラッカーが言う「顧客の創造」というビジネスの本来の姿に立ち返る必要性に迫られていると感じています。ビジネスは新たな価値を作って世の中を良くしていくためにある。そのための人材を育て、大切にすることに意味があります。
しかし経営者はともすれば、「何のために事業をやっているか」を見失いがちです。私はこの年になって、この立場になって、これから日本を支えていく若い人たちに対しての思いを新たにしました。若い人たちが自分の才能や価値観を大切にして、仕事を謳歌できるような場所を作らなければいけないし、そのために事業を発展させていかなければならない。金をもうけるためだけに事業をしているわけではないんです。でも実際の経営は、ついつい道を見失ってしまいがちになります。自社の事業は本来、どうあるべきか。何を残したいのか。経営者はそれをしっかりメタ認知しなければいけませんね。
それはコンサルティング業界や研修事業を展開する多くの企業も同様に認識しておかなければいけないことかもしれません。
そうですね。日本社会が右肩上がりの時代には、単純に社員のモチベーションを上げていくだけでも業績が伸びていきました。しかし今は、本当に良いサービスを生み出し続けなければ企業は存続できません。そんな時代に、単なるテクニック論を教えるだけでお茶を濁しているようでは、組織コンサルティング業の意味がありません。だからこそ、この業界にはまだまだやりがいを感じますね。
最後に、人材サービス業界に携わる若い方々へ向けてもぜひ、メッセージをお願いします。
人間の能力には、いわゆる頭脳(勉強)以外にも、感性や体力などさまざまな要素があります。「テストで良い点を取れなければダメなんだ」と考えていたころの思考のまま自己否定してしまう枠組みは、一度忘れてしまいましょう。
そうしてふと自分を客観視してみてほしいのです。「自分にはこれができる」「自分にはあれができない」と決めつける必要はありません。人は本来、たくさんの可能性を持っているものです。自分自身がそれに気づくことはもちろん、ほかの多くの個人や組織にもその発見を共有できるよう、意欲的な人事企画やサービス作りに挑戦していただきたいと思います。ぜひ、一緒に人材サービス業界を盛り上げ、世界中の働く人々が仕事を謳歌し、価値創造が当たり前に行われている状況を創りましょう。
社名 | 株式会社ジェック |
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本社所在地 | 東京都豊島区東池袋3丁目1-1 サンシャイン60ビル20階 |
事業内容 | 需要創造型実践理念経営への変革支援 ・コンサルティング ・研修・トレーニング ・診断 ・コンテンツ(出版・ツール) |
設立 | 1966年9月 |
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。