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HR業界TOPインタビュー「人・組織」ビジネスを牽引する希代の経営者

人は本来、たくさんの可能性を持っているもの――若い人たちが自分の才能や価値観を大切にし、「仕事を謳歌」していくために必要なこと

株式会社ジェック 代表取締役社長

葛西 浩平さん

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バブル崩壊、営業所閉鎖の危機の中で生まれた「CPM経営」の原点

そうした気づきは、自社の組織マネジメントにも生かされていったのでしょうか。

個人として大阪でトップセールスになり、入社3年目の終わりには、名古屋に新たに開設する営業所の責任者となりました。自分だけでなく、今度はメンバーのお役立ち意識を引き出していくことも求められるようになったわけですね。しかし、赴任2年目にバブルが崩壊しました。商圏が大きい東京や大阪はすぐには影響を受けませんでしたが、名古屋では企業の財布のひもが一気に締められていき、ライバルとの関係も変化しました。

それまではライバルともすみ分けがありました。管理職対象の研修は某競合大手、営業職対象のものはジェックという形で、自然と色分けをすることで、最初からバッティングしないようにしていたんですね。しかしバブル崩壊後は、競合の名古屋拠点とことごとくバッティングするようになりました。彼らが営業職向けの研修にも進出してきたからです。しかも組織ぐるみで、総合力による営業を展開するようになりました。

市場が冷え込んでいる中で競合が戦略を変え、5人ほどいたジェックの営業は「商談へ行けども行けども新規が上がらない」という状態になっていました。本社の役員会では「名古屋営業所を閉めるべきではないか」という議論もされていると伝わってきました。

株式会社ジェック 代表取締役社長 葛西 浩平さん

非常に難しい局面で、営業所の舵取りを任されてしまった、と。

はい。もちろん、このままライバルに負け続けるわけにはいきません。そのときに考えついたのが「情報活用型組織」です。ヒントをくれたのはあのピーター・ドラッカーでした。その5年ほど前に、ジェックの20周年を記念して開催したイベントにドラッカーを招へいしたのですが、その際に彼が語ったのが情報活用型組織の可能性だったんです。

営業がお客さまのもとで聞いてきた情報を私のもとへ集め、お客さまの業界に関することや、場合によってはお客さまのお客さまに関することまで集約する。そうすると、さまざまなギャップや課題が見えてきます。それを解消するための提案を組織ぐるみで考えました。私がホストコンピューターとなって、メンバーが集めてきた情報を分析していたということですね。

しかし、私一人でできることには限界があります。1ヵ月経つころには、ホストコンピューターがパンク寸前になってしまいました。「これは一人では無理だ」と悟り、私だけでなく、メンバーそれぞれが考えられるようインストールしていきました。目的は「お客さまが、その先のお客さまに選ばれ続けるようコンサルティングする」こと。今ではこれに基づいた「CPM(コンサルティング・パートナーシップ・マーケティング)経営」という考え方でジェック全体だけでなく、お客さまへも展開しています。その後は、全国的に業績が低迷する中で、名古屋営業所だけは前年比130パーセントの結果を出すことができました。

現在のCPM経営の根幹は、名古屋営業所時代の苦労があったからこそ磨き上げられたものなのですね。

そうです。さらに根本には、先ほどお話しした営業時代に「お役立ち」を常に意識していたことがあると思います。お客さまの現場でどんなことを実現できれば「お役立ち」につながるのか。それを「コンセプト」として、短い言葉でお客さまと共有することを大切にするようにしていました。

例えば「マーケットイン」という言葉がありますね。当時はプロダクトアウトからマーケットインへの転換が叫ばれていた時代でした。そのため「現場におけるマーケットインの行動化」というコンセプトでお客さまと合意を取り、行動するためのプログラムを提案していったんです。コンセプトでセールスをするという手法の原点です。これをベースにしつつ、名古屋営業所の情報活用型組織の手法をかけ合わせ、最終的にまとめたものがCPM経営の理論となりました。

ジェックが、かつてのハードな風土から、CPM経営の理論と実践を中心とした組織へと変わっていった背景がよくわかりました。

とは言え社内には、新しい手法に対しての反発や抵抗もありました。理解者はほんのひと握りでしたよ。理解してくれる人はいったいどこにいるんだろう、と感じたこともありました。いくら正しいロジックがあって、実際にお客さまの役に立てる手法だったとしても、組織は簡単に変えられません。過去のやり方も、それはそれで業績を上げてきた歴史があるわけですからね。私は社内に向けても「社員一人ひとりのお役立ち意識を引き出したい」という思いを持ち続け、それは役員に就任してからもぶれませんでした。一人ひとりへ地道に働きかけ、少しずつでもいいから成功体験を持ってもらう。険しい道のりでしたね。

2009年には代表取締役社長に就任されました。

社長に就任したときには、CPMという、戦略であり理念でもある考え方を完成させたいと考えました。最終的には理念を実践する組織を形にしたかった。ジェックでは昔から「お役立ち」を大切にするとともに、「生来は、人は働くことが好きであり、環境と条件を整えれば好んで働いてくれるものなのだ」という考え方を受け継いできています。これはアメリカの経営学者ダグラス・マグレガーが唱えた「Y理論」に基づくものです。ジェックが実践してきたY理論は、日本の経営者で言えば松下幸之助さんや本田宗一郎さんが実践してきたものですね。そもそもジェックの創業者がやりたかったこともY理論の方向性でした。この方向性を明確にするとともに、ジェックがずっと言ってきたお役立ちも、部分的にではなく本当に実践していくための「お役立ち道」として中心軸に据えました。また「外発的な動機付け」が中心だったマネジメントも「内発的な動機付け」を中心にし、各々の中にある「お役立ちの意識」を引き出すことを意識しました。それと同時に、悪い部分を改めるのと良い部分を伸ばすマネジメントの比率を変え、良い部分を伸ばす方向に重点を置くようにしました。

「お役立ち道を世界に広める」というビジョンを、社長就任後に明確にしたということですね。企業理念としては「行動理論の改革と集団性格の革新で企業の発展を図る」と掲げられています。こちらについても詳しく教えていただけますか。

実はこれも、ジェックが長年大切にしてきたことなんです。行動理論の改革とはどういうことか。人は誰しも、自分自身のものの見方や考え方で、行動を選択し、その積み重ねが人生をつくっていますが、それは体験によってつくられたものがほとんどです。「仕事は自分の強みを生かせる面白いものだ」と考えている人もいれば、「適当にやり過ごしたほうが勝ちだ」と考えている人もいる。知らず知らずのうちに固定化されているこうした考え方で、自分の人生は形づくられているんです。いつも「渡る世間は鬼ばかり」だと考えて人を見ていると、本当に悪い人が寄ってくるんですよ。

でも、本当はそうではない。人はそれぞれ悪いところもあるけど、良いところもあって、誰しも善意を持っている。そう考えて生きていけば、自然とほかの人の共感を得られるようにもなっていきます。だから人生を良くしたければ、まずは自分のものの見方や考え方を良くすればいい。そうすれば、本来自分が持っている強みや、人とのコミュニケーションなど、いろいろな面で好転するようになっていきます。うまくいかないときにも、ものの見方や考え方を自分で修正できるようになる。仕事を通じて、自己実現の可能性を広げていけるんです。このように「行動理論を自分で変えられる」人材を育てていくことが大切だと思っています。

かつては知識教育やモチベーション教育が重視されていました。でも、ものの見方がずれたまま「やる気」を出すと大変なことになります。ニュートラルに自分の良さを認識して、ものの見方や考え方を育てる。それによって周りが共感してくれるようになり、関係性も好転していく。そうして味方が増えれば、さらに自分の良さを生かしやすくなっていきます。こうした個人が増えれば、集団性格も向上して「みんな良いものを持っているのだから生かし合おう」という組織になるはずです。新たな知恵をみんなで共有し、価値を創造し続けられる組織になる。これが集団性格の革新です。


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