第88回 ソニー株式会社
異業種へのチャレンジが、個の力を伸ばし組織を成長させる!
社員の“主体的なキャリアチェンジ”をサポートする、ソニーの社内募集制度
ソニー株式会社
人事センター 人事1部 統括部長 北島久嗣さん
人事センター 人事1部4課 統括課長 堀田綾子さん
兼業やFA制度などバリエーション豊富な異動の仕組み
では、現在の社内募集制度について教えてください。
堀田:関連するものも含めると、5種類に分けられます。従来の制度に比較的近いのが、「特別募集」と「大募集」と呼ばれるものです。各部署からの求人を社内サイトに掲載し、関心を持った社員が自らエントリーする仕組みはどちらも同じです。
寄せられた求人は人事部門で精査し、特にビジネス上の重要度の高いもの、あるいは重点的に人材を集めたい案件は、「特別募集」として随時掲載します。一方「大募集」は、幅広い層の社員に対してバラエティに富んだ求人を紹介するもので、毎年2月と8月に実施しています。
新たに加わった制度には、どのようなものがありますか。
堀田:毎月行われているものに、「キャリアプラス」という制度があります。現業を継続しながら別の部署の業務や新たなプロジェクトに参画する「兼業型」であることが、通常の社内募集制度との違いです。社内のガイドラインでは兼業は週1回程度と定められていて、多くても週2回程度になります。新規事業の立ち上げや社内横断的なプロジェクトなどで求人が発生することが多く、「自身の専門性を他の場所でも生かしてみたい」という社員のニーズとマッチしていると感じています。
北島:兼務というと会社から発令するのが普通だと思いますが、自分の意志で名乗り出ることができるのが特徴です。ベテランや中堅など、一定のスキルを持つ社員が利用する傾向があり、現業とうまく両立を図りながら兼務がアサインされています。兼務とはいえ、人事考課の対象にもなります。
堀田:そのほかに、自身のキャリアをデータベースに登録し、関心を持った部署からオファーを受ける「キャリアリンク」という制度も設けています。こちらは上長の了解のもと、毎年秋口に行われるキャリア月間(上長との面談を通じて、自身のキャリアの振り返りや目標設定などを一斉に行う人事イベント)のときに相談するなどして登録を行います。オファーを出した部署と本人の間で合意が得られれば、異動が成立する仕組みです。
FA(フリーエージェント)制度についてはいかがですか。
堀田:プロ野球と全く同様に、優秀な人材に対して会社からフリーエージェント権を付与し、チャレンジしてみたい部署や興味のある部署とのマッチングを図るものです。FA権は年に1回付与され、行使する社員は所定のサイトに登録します。登録内容は自身のキャリアやこれまでの実績、これから取り組んでみたい仕事など。その情報をもとに、他の部署から声がかかる流れです。社員のほうからコンタクトをとりたい部署がある場合は、人事が仲介役となって調整します。権利が付与される社員は毎年数百人いて、2割ほどが権利を行使し、そのうち3~4割ほどが異動につながっています。
北島:FA制度も個の力をいろいろな場面で発揮してもらうことがねらいです。例えばある社員が、所属部署でよいアウトプットを出し続けていたとします。上長との関係が良ければ本人も居心地がいいだろうし、上長も手放したくない。結果的にずっと同じ環境で留まり続けます。しかし、それでいいのだろうか、と考えたわけです。悪い言い方をすれば、優秀な人材が塩漬けにされてしまうわけですから。
変化を成長につなげる策として生まれたのが、FA制度です。部内での評価が高ければ、別の環境でチャレンジする権利を与えられる。上長が手放したくない人材の評価をあえて下げて、FA権が発生しないケースも懸念しましたが、そうした例は今のところありません。部下の成長を願い、フェアに評価するマネジメントを心強く感じています。