プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社:
P&Gは「スキル」に着目したプログラムを、なぜ他社に無償で提供するのか?――「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」発足の背景と活動内容とは(前編)
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社 ヒューマン・リソーシス マネージャー
小川 琴音さん
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン)株式会社は、ほかの日本企業に先んじて、25年前という早い段階からダイバーシティを推進してきた、ダイバーシティ先進企業です。長期にわたる取り組みを経て、最終的に「ダイバーシティ&インクルージョン」には「スキル」が必要だ、という結論に行き着きました。その「スキル」を身につけることができるトレーニングを社内で開発。2016年、これまで自社の社員に受講させていた、そのトレーニングを他社に無償で提供することを決めました。それが「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」です。そのプロジェクトの意義と革新性が評価され、日本の人事部「HRアワード2016」では企業人事部門 特別賞を受賞しました。同社が導き出した「ダイバーシティ&インクルージョン」の「スキル」とは、どのようなものなのでしょうか。また、その「スキル」を教えるトレーニングを、なぜ他社に無償で提供するのでしょうか。今回は、P&Gジャパン ヒューマン・リソーシス マネージャーの小川琴音さんにインタビュー。前編では、まず、P&Gジャパン社内のダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの変遷とその具体的な内容について迫ります。
- 小川 琴音さん
- プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社
ヒューマン・リソーシス マネージャー
おがわ・ことね●2011年東京大学経済学部経営学科卒業後、新卒で入社。研究開発部門の担当人事として約1年半就事。その後、人材採用・ 開発部門にて新卒採用と社内トレーニング開発・運用を担当。2014年より広報部門・IT部門・消費者市場戦略部門の部門担当人事を担当し、2015年に産休・ 育児休職取得。復職後、休職前と同じ部門担当人事を担当しつつ、コーポレート・ダイバーシティ・アンド・インクリュージョン、東京オフィス担当人事を兼任し、現在に至る。
「ダイバーシティ」は「インクルージョン」とセットでなければ意味がない
このたびは、日本の人事部「HRアワード2016」企業人事部門 特別賞の受賞、誠におめでとうございます。
ありがとうございます。多くの人事の皆さまから評価していただき、大変光栄です。今後も社内だけでなく、日本社会におけるダイバーシティ推進に貢献していきたいと考えています。
受賞された「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」についてお聞きする前に、まず、御社の根本的な人事・HRに関する思想や取り組みについてお教えいただけますか。
当社の人事・HRは「ビジネスを伸張させること」を最大のミッションとしています。組織構造としては、コーポレートHR(プラクティス)部門と組織付きの人事の二つに分かれていて、私は二つを兼任しています。コーポレートHR部門は文字通り、全社的な人事戦略を立案し、実行します。組織付きの人事は、各部門の社員の声を吸い上げ、リーダーと一緒に戦略を考え、実行します。いわばトップダウンとボトムアップの両方にかかわるのが当社の人事だと言えます。
また、当社では「内部昇進制」を採っています。「組織の構築を内部からの昇進によって行い、個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨する」というものです。優秀な人材を採用し、内部で育成し、昇進させていく。同時に将来のリーダーを育てていく。このようにして、組織を強くし、ビジネスを伸張させ、業績を上げていくことに注力しています。
その上で、今回受賞されたプロジェクトにつながる「ダイバーシティ&インクルージョン」への御社の取り組みについてお聞きします。御社では、必ず「ダイバーシティ」と「インクルージョン」をセットの言葉として使っていますね。
はい。「ダイバーシティ」は組織が持つ多様性のことを指します。しかし、多様性がある状態だけでは意味がありません。ビジネスにつなげるためには「インクルージョン」(お互いの多様性を認め、受け入れ、生かし合うこと)が必要です。多様性を受け入れて生かすことで、どのように生産性を向上させ、イノベーションを起こし、業績を上げるのか。そこが重要です。