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となりの人事部
第75回 ユニ・チャーム株式会社

「共振の経営」を実現する「共振人材」はいかに生まれるのか
 社員の自律的行動を促す“ユニ・チャーム流”人材育成術(後編)

ユニ・チャーム株式会社 グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー 中島 康徳さん
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ユニ・チャーム株式会社 中島康徳さん
ユニ・チャームでは創業者による「トップダウン型経営」から、2代目社長の「共振の経営」へと経営スタイルを大きく変革しましたが、その際に重要なポイントとなったのが「SAPS手法」です。そのほかにも「社長のカバン持ち」や「社内ドラフト制度」など、ユニークな施策をいろいろと打ち出して「共振の経営」をより一層強化、推進しています。「前編」に引き続き、グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー中島康徳さんに、ユニ・チャーム独自の施策とその効果について、詳しいお話をうかがいました。
プロフィール
ユニ・チャーム株式会社 中島康徳さん プロフィール写真
中島 康徳さん
ユニ・チャーム株式会社 グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー
なかじま・やすのり●1984年大学卒業後、ユニ・チャームに入社。全国各地の営業支店に勤務した後、2004年高原慶一郎会長の秘書となる。2005年秘書室長兼SAPS推進室長に任命され、当時取り組み始めたばかりの「SAPS手法」を社内に浸透させる事務局の担当者となる。2006年ナショナルアカウント(本社担当)部長を務めた後、2008年初めて人事の仕事を担当、グローバルSAPS人材開発部のSAPS教育グループマネージャーとなる。2009年広報室長・秘書室長、2010年「共振の経営」推進室長・秘書室長を務めた後、2011年から再び現場に戻り、2015年までプロケア(病院・施設向け)営業の東北支店長を務める。2016年1月、グローバル人事総務本部キャリア開発グループのシニアマネージャーとして、人材教育・採用を担当する部門に赴任、現在に至る。

全社員の時間と行動を集中させる「SAPS手法」とは

―― 「前編」で、行動・意識を変えるための取り組みとして「SAPS手法」を導入したとうかがいました。その内容はどういうもので、具体的にどのような効果があるのか、詳しくお聞かせください。

「SAPS手法」は「Schedule」「Action」「Performance」の頭文字を取ったもので、いわゆる「PDCAサイクル」と構造的には同じものです。社員に対して週ごとの「目標管理」を義務付け、会議で経過の発表と検証をさせています。中期の計画を達成するための戦略を、半期、月次、週次にブレークダウンし、「行動予定を立て、実行し、結果を分析し、反省点を各部門で共有して次週の経営に生かす」というサイクルを、週単位で徹底的に回していくわけです。2003年から導入していますが、継続的に物事を考え、行動する習慣を付けさせるという教育効果が確実に出ています。

「SAPS手法」で一番大事なポイントは、優先順位の高い課題に、時間と行動を集中することです。例えば、今年度のユニ・チャームには「経営目標」がまずあって、それを達成するための「経営戦略」があります。それを各部門へ下ろしていくわけですが、各グループや各課で「一番優先順位の高いことは何なのか」を具体的に示すことができるかどうかが、目標を達成するためには大変重要です。まずは、このことを徹底して行います。1週間単位の目標(KPI)へと細分化し、1週間単位でやり続けるのです。それができたら次のステップに行き、できなかった時にはその理由や、どうしたらできるかを考える。そして、それを次の週に行い、できなかったらまた考える。とにかく、掲げた目標ができるようになるまでやり続けること。「SAPS手法」とは、それに尽きますね。

「やらなくてはいけないこと」「やるべきこと」に時間と行動を集中させ、できるまでやり続ければ、たいていのことは、いつかできるようになります。言葉にすると非常にシンプルなことですが、それを四つのツールを効果的に「見える化」「共有化」し、マネジメントしていくのが「SAPS手法」なのです。

【SAPS手法とは】
優先順位や付加価値の高い課題に時間と行動を集中→全社のベクトルが一致した、機動力のある強い組織を構築
S(Schedule) 「思考」と「行動」のスケジュールを立てる
A(Action) 計画通りに実行する
P(Performance) 効果を測定し、反省点・改善点を抽出する
S(Schedule) 今週の反省を活かして、次週の計画を立てる
【SAPS手法を支える4点セット】
OGISM(A)表
Objectives(目的)
Goals(達成目標)
Issues(課題)
Strategies(戦略)
Measures(判断基準)
事業計画要旨一覧表。各人の事業計画を1枚の用紙に簡潔にまとめてグループで共有し、戦略を遂行するために活用する。各階層で作成し、組織能力の向上を目指す。「緊急性」と「重要性」で課題の優先付けを行うためのフォーマット
1Pローリング表 半期の重点課題を週単位に落とし込み、課題を克服するため専用のフォームに記入して、週ごとの行動計画を練る
SAPS週報 週の行動計画を実現するため、専用フォームに記入しつつ、毎日30分単位での行動スケジュールを立てる
週次SAPSミーティング 部門ごとに、さらに下位の小集団(課もしくはグループ)ごとに、毎週月曜日の会議で前週の結果を検証し、今週の行動にどう活かすかを擦り合わせる

―― 2003年に「SAPS手法」を導入した時、社内からはどんな反応がありましたか。

「SAPS手法」を導入した際に、ツールとして最初に手を付けたのが「1Pローリング表」です。まず仕事を1週間単位で小分けし、それができるかどうかを細かくチェックしながら、ぐるぐる回していきます。「1Pローリング表」は課題を克服するために1週間ごとの行動計画を練るためのフォーマットなのですが、当時の社内の反応の多くは「毎週やるのは困難」「とても面倒だ」といったものでした。

それまでも京セラさんの「アメーバ経営」やトヨタさんの「カイゼン」などをベンチマークし、いろいろな経営手法や仕事の改善手法にチャレンジしてきました。しかし正直に言うと、定着したものはありませんでした。そのため社内に、「そのうちSAPS手法はなくなるのではないか」という考え方があったのは事実です。

しかし、高原社長は「経営スタイル」を変えることを念頭に置いていましたから、一度決めた手法や施策は「やり切るまで、愚直にやる」ことを徹底しました。また、「SAPS手法」を社内で定着させるためには、そのための「人づくり」が大事だと考え、「実践リーダー」を置くことを提案したのです。

―― どのような方が「実践リーダー」になったのですか。

「実践リーダー」には社長や副社長のほか、執行役員(各部門長)といった顔ぶれが並びました。総勢20名近くの人たちを指名し、まずトップ層が「我々はこのスタイル(SAPS手法)を信じて、徹底的にやり抜くんだ」という強い決意表明を行ったのです。さらに、「勉強会」を開催し、課題となるテーマを設けてディスカッションを深め、何度となく「発表会」を実施しました。トップ層が「率先して額に汗して、規範を示さなくては社内が動かない」と考えたからに他なりません。

このような形で社内に「実践リーダー」を作り、「勉強会」「発表会」を続けていく中で、誰もが「SAPS手法」が「実践に役立つ」だけでなく、「信じるに足るものだ」と本気で感じるようになりました。すると、明らかに社内の“風向き”が変わりました。強い思いを持った「実践リーダー」が各部門に自分の「分身」を作るため、自分たちが行ったことと同じような「勉強会」「発表会」を展開し、社内にじわじわと浸透させていったからです。「SAPS手法」が今のように広がっていった背景には、こうした経緯があります。

現在では、課長・マネジャークラスが各職場の「小集団リーダー」という呼称の下、各メンバーたちを「SAPS手法」に基づいて、OJTで指導・教育を徹底して行っています。毎週繰り返し「1Pローリング表」を使いながら、「週次SAPSミーティング」で「変革のための行動サイクル」を伝搬させていくわけです。

振りかえってみると、「SAPS手法」を導入して今年で13年。社員全員が「SAPS手法」に真剣に取り組んでいるので、間違いなく定着していると思います。しかし、高原社長の頭の中には「仕組みがあるからやるのではなく、無意識にできるようにならなくてはならない」という思いがあるので、その点ではまだまだかもしれません。もっと、高いレベルに目標を置いているのです。


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