やるだけでなく、やりきる仕組み
“働き方改革”でIT業界の常識を覆す。
SCSKの「スマートワーク・チャレンジ」
とは(後編)[前編を読む]
SCSK株式会社 執行役員 人事グループ副グループ長
河辺 恵理さん
奇をてらうより、ふつうの施策をふつうにやりきることが大切
ところで、IT業界では、技術者などが客先に常駐するケースも少なくありません。そういう社員の場合、自ら主体的に働き方を改善しようと思っても、難しいのでは?
おっしゃるとおりです。SCSKではいま、全体で5900人のIT技術者のうち、約2000人がお客さまのサイトで、開発や運用保守の仕事をしています。大手金融機関などのお客さまの場合、たいてい弊社以外にSIが3社ぐらい入って、先方に常駐しているので、そういう状況下でスマチャレ、といってもなかなか伝わりません。現場の管理者の方から「SCSKさんだけ帰るの?」「休むの?」と言われてしまう可能性があります。実際、スマチャレの1年目にはそういうことがかなりあったようです。そこで、お客さまのご理解をいただくために、中井戸自らが手紙を書きました。その手紙を各本部長がお客さまの役員のもとへ持参し、ご協力をお願いしたのです。その結果、徐々に働き方改革への理解が広がり、いまでは「うちも働き方を見直さなくては」と共感してくださるお客さまもいらっしゃいます。スマチャレ2年目になると、お客さまの温度感も変わってきました。そして、このグラフ(図3)が、働き方改革に取り組んできたSCSKの4年間の軌跡です。
7~9月に期間限定で「残業半減運動」(※前編参照)に取り組んだ12年度は、その期間だけ残業削減が進んだものの、結局、期間が終わると、改革前の水準まで戻ってしまったんですね。
そうです。残念な結果に終わりました。ところが、現在のスマチャレの方法に変えて、トップのメッセージ発信やポータルサイトの開設といった工夫を仕掛けてみたら、どうなったか。青いラインを見てください。前年と比べて、全体的に下回っているだけでなく、繁忙をきわめる期末にさえあまり戻っていません。そして昨年の推移が緑のライン。4月にいきなり20時間を切って、18時間台から始まったので、人事としてはてっきり「モグリ残業が増えたんじゃないか」と、そう疑ったくらいです。ところが、各部長にヒアリングしてみると、みんな異口同音に「去年はいきなりだったから難しかったけれど、今年は大丈夫。ちゃんと始めていますよ」ということでした。
スマチャレにおける各部門の実施施策の内容については、河辺さんを始め、人事部は直接関与されていませんが、現場の取り組みをどうご覧になっていたのですか。
実は人事部もスマチャレ1年目は、現場で何が行われているのか、よくわかっていませんでした。1年目が終わったタイミングで、「スマチャレ特別表彰」というものを創設し、いい活動や取り組みを組織単位で募集したところ、かなりの数が集まりました。そこでやっと人事としても、現場がどうやってスマチャレを進め、目標を達成していったのかが、把握できました。その中で最優秀賞として表彰した取り組みが、三つあります。一つ目は「誰もが『スマチャレ係長』!」というもので、くじ引きで決めた「スマチャレ係長」がメンバー全員の残業申請の妥当性をとことん突き詰めたり、可否を課長に仰いだりして決定するという取り組み。「スマチャレ係長」はメンバーからの残業申請を受けると、「この残業は無駄では?」「やめられませんか?」と食い下がり、削減の可能性を探るわけです。コミュニケーション施策の一つといっていいでしょう。二つ目は「深夜残業が発生する場合は部長の携帯宛にメールを送り、判断を仰ぐ」や「提案書・設計書の作成時は上長があらかじめ目的や内容を明確に指示し、手戻りを防ぎ、成果物の共有や再利用を推進する」といった内容が中心の取り組み。三つ目は、毎日の昼休み後にPL・リーダーによる「昼会」を実施するとともに、残業削減で得た時間を有効活用し、自己研さんや勉強会の機会を多く持って知識不足を補うという取り組みでした。実は、人事部による当初の選考では、2番目、3番目は最優秀賞ではありませんでした。
なぜ、最優秀ではなかったのですか。
中井戸にも同じことを聞かれました。われわれとしては、内容があまりにも当り前だったので選ばなかったのですが、中井戸はこう言いました。「普通のことを継続してやり切ることがすごく重要であり、この部署は普通のことを普通にやりきっただけで、残業を大幅に削減し、有休取得も増やしている。だから、やり切ったという一点において最優秀なんだ」と。二つ目、三つ目の取り組みも、そうした趣旨から最優秀賞として特別表彰しました。