DXの視点『日本版eシールから考える働き方改革』
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 柏村 祐氏
組織の正当性を証明するのが社印だが、これに相当するデジタル上のハンコを「eシール」という。請求書や領収書に「eシール」を付与することで、社印と同様の効力が発生する。「eシール」は、トラストサービスと言われるサイバー空間における信用の証の1つとして位置づけられる。
トラストサービスは、拡大するサイバー空間と実空間の高度な融合が求められる中、社会全体のデジタル化を加速させるために、インターネット利用者の本人確認やデータの改ざん防止を担保することを目的に創られた。
その発祥は、EUにおいて2016年7月に発行されたeIDAS規則(Electronic Identification and Trust Services Regulation)に由来する。組織のデータ情報保護を規定するeIDAS規則と同様、個人のデータ情報保護を規定したGDPR(General Data Protection Regulation)も2018年5月に制定されており、EUは個人、組織のデータ流通分野において、国際的なルール形成を目指し積極的に法的根拠の構築を進めてきた。
我が国においても「eシール」普及に向けた動きが進んでいる。一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は2020年5月に、eIDAS規則に基づいた社印の電子版に相当する「適格eシール」の利用を開始すると発表した。「適格eシール」が付与された電子文書は、JIPDECにより作成されたこと、作成後に改ざんされていないこと、eIDAS規則に基づいているためEU域内で法的効力があることを保証している。
「適格eシール」を付与する作業では、PC、「適格 eシール」の付与対象となる PDFファイル、PDF 編集ソフト、USB トークンが必要となる。最初に「適格eシール」の付与対象となる PDF ファイルを選択し、事前に準備した USB トークンを PC に挿入する。その後、PDF 編集ソフトである Acrobat 上で「適格eシール」を選択し、最後に、パスワードを入力すれば、その付与は完了となる。
総務省トラストサービス検討WG最終取りまとめによれば、「eシール」を含めたトラストサービス導入による効果について、大企業1社あたり現状月10.2万時間の経理系業務が月5.1万時間に半減する試算が示されている。
今後、企業が「適格eシール」を利用する範囲を、見積書や請求書などの会計帳票のみならず、IR、プレスリリースなどの書類にも拡大すれば、更なるペーパーレス化、生産性向上効果を享受できる社会を創りだすとともに、多様な働き方を支える礎となるだろう。
コロナ禍において、テレワークなど場所や時間を選択できる柔軟な働き方が拡がった。今後も、前例に捉われない「働き方の多様化」の推進が求められる。日本版「eシール」の活用は、新しい働き方を実現するうえでの有益な手段となり得るだろう。
第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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