イケア・ジャパン株式会社:
イケアはなぜ「同一労働・同一賃金」「全員正社員」にできたのか
“本気で人を大事にする会社”に学ぶ人事制度改革(前編)
イケア・ジャパン株式会社 人事本部長
泉川玲香さん
We believe in people――イケアは、本気で人の力を信じている
イケアのビジョンや理念を叶えるためには、何が必要なのか。今回の人事改革で重視したポイントを教えてください。
イケアでは、すべての従業員を“ともに働く人”という意味で「コワーカー(Co-worker)」と呼んでいますが、先ほど申し上げたように、弊社は人が起点の会社ですから、何より必要なのはコワーカーの力です。私たちは“We believe in people”という言葉をよく使うのですが、イケアは、人の力を信じています。人の力を信じているからこそ、すべてのコワーカーの成長を願い、その成長をサポートするための変革や努力を惜しみはしません。そしてコワーカーの力でビジネスを発展させていくのです。“We believe in people”――人事改革の理由も、施策立案や制度設計の根拠も、すべてここに集約されるといっていいでしょう。そしてもうひとつ、大切にしているのが“Everybody has a talent”。「誰もがタレント(才能)を持っている」という言葉です。私たちには、欠点や悪いところがたくさんありますが、いいところもそれぞれ必ず持っています。それを見つけて、伸ばして、集めれば、組織全体としてすごくいいものが生まれるに違いない。そういう考え方です。
減点主義ではなく、加点主義ですね。
それも、人の力を本気で信じているからこそ、できることなんです。そして今回の人事改革では、コワーカーの力を信じて、その成長に寄与するために、施策の柱を大きく三つ設けました。一番目はダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)――多様な人材の受容と活用です。ダイバーシティ推進といっても、多様な人材が組織にただ“いる”だけという段階で留まっている企業がまだ少なくありません。イケアはある意味、人材の多様性はすでに十分ありますから、そこをさらに進めて、それぞれの違いを心から受容し、活用できる土壌をつくりたいと考えたのです。そして二番目の柱がセキュリティー(Security)で、長期的な関係構築の保障。第三がイクオリティー(Equality)――平等な機会とより柔軟な職場環境の創出です。この三つの柱をもとに、さまざまなライフパズルを生きるコワーカーのニーズに応えて、施策を詰めていった結果、同一労働・同一賃金を含む種々の新制度につながっていった、というのが改革の大まかな流れです。
もちろん議論はありましたよ。いくら人を大事にする会社とはいえ、最初、私が社内でこの話をしたときは、どちらかと言うと戸惑いや否定的な意見のほうが大きかったかもしれません。
それほど、御社にとってもドラスティックな改革だったということですね。後編では、その改革の具体的な内容や手ごたえ、人事リーダーとしての泉川さんの思いなどについてもうかがっていきます。