大手企業への「憧れ」を持ち続ける、20代の求職者
失われた20年で生まれた? 希望転職先は“大手”という人たち
今の20代は1980年代生まれがほとんど。バブル経済が崩壊した時には、まだ小学生以下だったという世代だ。もの心ついた頃からこれまで、好景気を経験していないのだから、仕事選びに際して安定志向になるのもやむを得ないだろう。当然、新卒での就職活動でも「大手志向」が強いが、実際に大手に就職できる人は少ない。そのため、中堅・中小に就職した人の間で「大手=バラ色」という幻想が生まれてしまうこともあるようだ。
「やりがい」よりも「大手企業」
「転職先として、まず大手ははずしたくないと考えています。今よりスケールの大きい仕事ができますし、何といっても安定しているので、落ち着いてじっくり仕事に取り組めると思うんです」
転職相談の席でそう話すYさんの現在の勤務先は、いわゆる中小企業だ。まだ20代だが、営業成績は優秀でかなり重要な仕事を任されているらしい。話し方はテキパキしていて、人に与える印象も悪くない。ただ、若干気になるところがあった。
「今までは食品を扱ってこられたのですよね。今後もやはり経験を活かせる業界で働くことをご希望でしょうか?」
こう聞くと、Yさんはきっぱりと否定した。
「いえ、業界は違ってもかまいません。できればメーカーがいいかなとは思いますが…。それよりも、今回は企業規模にこだわって探したいんです。今の勤務先もそうですが、小さい会社の場合、大手と比べるとやはり仕事の範囲が限られてしまいます。30代以上になると中小から大手への転職は難しいと聞いたので、今のうちに大手に入っておきたいんです」
さらに聞いていくと、これまでやってきた営業職以外の職種へのキャリアチェンジも選択肢に入れているのだという。
「大手だといろいろな仕事があると思うんです。営業にはこだわりません。そのために今、簿記の勉強も始めています。あまり具体的ではありませんが、経営企画やマーケティングといった仕事にも興味があります」
Yさんの希望を聞きながら、私は「長期戦になるかもしれないな…」と思った。実は、最近こういった「漠然とした大手志向」を持って転職を希望する20代の人は多い。仕事内容よりも、とにかく「大手で働きたい」というタイプである。
「大手に就職している友人に話を聞くと、仕事もすごくやりやすいそうですし…」
おそらくYさんも、新卒の時は大手狙いで就職活動をしたのだろう。しかし、この世代には、結果的に大手に就職できない人の方が圧倒的に多かった。すると、どうなるか。きっぱり切り替えて中堅・中小での仕事に自分のやりがいを見出す人と、引き続き大手に憧れを持ち続け、そのうち大手企業のすべてが魅力的に思えてくる人に分かれていくのである。Yさんは、どうやら後者のようだった。