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志望動機書や説明会への参加を義務づける企業
手の込んだ職務経歴書を作成する人材

フィルターを一枚増やしている企業のケース
採用も「急がば回れ」が好結果を生む…?


採用競争が一段と激しくなっている。各社とも良い人材を確保するために、選考プロセスを見直したり、スピードアップを図ったり…と工夫を重ねている。しかし、そんな流れに逆らうかのように、応募時の志望動機書を必須条件にしたり、会社説明会への参加を義務づけたりする企業もあるようだ。応募者に敬遠されかねないプロセスをわざわざ導入している企業の真意は何なのだろうか。

社風を理解するために欠かせない「会社説明会」

「ご紹介ありがとうございました。Hさんにはぜひ当社の会社説明会にご参加いただきたいと思います。まずは、Hさんのご予定をお聞かせ下さい。今月の説明会開催日程は…」

T社の選考はいつもこのパターンで始まる。同社は大手企業で、常に10職種以上を募集。ポジションによっては複数名採用することも珍しくない。景気拡大にともなって競合の動きが激しくなっている現在、採用については苦労している一社だろう。

「承知しました。さっそくHさんの参加希望日をお聞きしてみます…」

そう答えたものの、Hさんはすでに他社の面接に呼ばれている。T社は、この時点ですでに出遅れているのだが、会社説明会はどうしても欠かせないという。

志望動機書や説明会への参加を義務づける企業 手の込んだ職務経歴書を作成する人材

T社の採用マネジャーに、説明会についてこんな話を聞いたことがあった。

「当社は、現在こそ上場して大手企業の仲間入りをしていますが、もともとはベンチャー企業なんです。当時の社風が今でも続いていて、特に創業当初からいる役員や部長クラスは、その頃の意識がとても強いんですよ」
「そうなんですか…」
「しかし、近年、大企業だから安定しているだろう、という期待で応募してくる方の割合が非常に増えてきましてね。面接をしても、ミスマッチで話が合わないことがある。面接時に問題がなくて採用した場合も、入社後に当社のベンチャー的な社風に驚いて退職してしまう人が、かなり多かったんです」

たしかに、T社に限らずそういう話はよく聞く。

「以前は、採用計画の目標を達成するために、無理に人を集めていた時期もありましたが、やはりそれでは無駄が多い。そこで、まず面接の前に、うちはベンチャー企業ですよ、ということを説明会でしっかり理解してもらうことにしたんです」

説明会というプロセスが一つ加わると、採用をスピードアップさせている競合他社に負けるケースもありそうだが…。

「もちろん、それはありますよ。説明会では本音で当社の社風を伝えます。こんなに激しいベンチャー的な社風だったのか…と恐れをなして応募を辞退される方もいます。でも、それで残った方は、当社への入社意欲が強い人ばかりです。今はこの方法を続けていこうと思っていますよ」

なぜ当社に応募するのか考えてほしいのです…

同じことは、「志望動機書」の提出を義務付けている企業にもいえる。

「この企業の場合、ご紹介するにあたって志望動機書の添付が必要になります。A4用紙一枚程度で良いので、作成願えませんか」

こうした依頼をすると、転職志望者の方が、どの程度その企業に興味を持っているのかがよく分かる。

「分かりました、すぐ作成します」

そう言って、一向に作成しない方。たしかに、現在は複数の企業に同時並行で応募するのが当たり前になっているから、いちいち志望理由を書いているヒマがない、という事情もあるのだろう。
あるいは、「できました」と送ってきても、まるでピントはずれの志望理由になっていたり、自分の経歴のPRに終始していたり、という方も珍しくない。「なぜその会社のその職種に応募したのか」を書いてほしいのに、自分が今までどんな仕事を手がけてきたかだけを延々と書かれても、その会社に興味を持っているとはとても思えない。

志望動機を重視している企業、K社の人事部長に聞いてみた。

「弊社が、志望動機書をお願いするようになったのは、記念に応募してみようという方がとても多かったからなんです」

志望動機書や説明会への参加を義務づける企業 手の込んだ職務経歴書を作成する人材

K社は、業界内での知名度が非常に高く、求人票を見ると、「あのK社が募集されているんですか。難しいかもしれませんが、ぜひ応募してみたいですね」という人が多い企業である。

「しかし、本当に当社に興味を持って応募している方ばかりではないんですよ。知っている社名だから一度受けてみたい、くらいの人が大部分なんです。志望動機書の提出をお願いするようにしてから、応募される方の数は半分以下になりましたが、質はまったく落ちていないですね。むしろ平均でいえば上がっています」

K社も決して採用に苦労していないわけではない。しかし、時には間口を狭める方が効果的であるという典型的な事例ではないだろうか。

自分の世界に入ってしまった人材のケース
書類選考を制する者は採用試験を制す…?


採用試験といえば、まず面接を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、忘れてはならないのは、その前にある「書類選考」だ。通過率だけでいえば、実はこの書類選考が一番の難関である。何とか書類選考が通過できるようにと、応募者も工夫を凝らす。職務経歴書などは詳しい情報を盛り込んでキャリアをアピールした方がよいといわれるため、おのずと力が入りすぎることもあるようだ。

プレゼン資料のようなフルカラーの職務経歴書

「いつものように職務経歴書を更新してみました。こちらの書類を使って応募して下さい」

Nさんからのメールを開けると、ずっしりと容量の重い添付ファイルがついていた。プレゼンテーションに使うようなパワーポイントで作成した職務経歴書は、全ページカラーで、文字だけでなく、担当した案件の写真や図版などが豊富に盛り込まれている。ただ、普通の職務経歴書に慣れていると、どこから見たら良いのか分からない内容になってしまっている。

「Nさん、お送りいただいた職務経歴書の件で、ちょっとお話したいのですが…」

「ええ、どうぞ」

「毎回、応募先によって職務経歴書を書き換えて下さって、ありがとうございます。ただ、最近の資料はちょっと重いというか、見にくくありませんか? 作成ツールがパワーポイントというのも、ちょっと一般的ではない気がしますし…」

Nさんは、ちょっと考えてから言った。

「そう思われます? いや、私も迷ってるんですよ。もう転職も5回目じゃないですか。年齢も40代になりましたし…。それで、より経験をアピールしないといけないんじゃないかと思って、いろいろ見やすいように工夫したつもりなんですが…かえって見にくいですかね」

Nさんの気持ちはよく分かる。パワーポイントは使わなくても、とにかく過去の実績をすべて事細かに書き込んで、ワードで10ページ以上あるような職務経歴書を書いてくる方も、決して珍しいわけではない。

「詳しく書いても相手に読まれないと意味がないですからね。あまり長かったり、プレゼン資料みたいな形式だと、それだけで担当者がうんざりしてしまう危険性がありますよ」

オーソドックス、基本に忠実なのが一番ですよ

「なるほど。ではシンプルにした方がいいということですね。私くらいのキャリアだと、どのくらいの分量が適当だと思われますか?」

Nさんもついに資料を書き換える気になってくれたようだ。私は、仕上がりの大体の分量を示し、作成ツールにはワードを使用することを提案した。

「ワードは、いまやほとんどの企業が使っていますし、印刷したときに環境による差がでにくいんです。エクセルは慣れている方は使いやすいとおっしゃいますが、印刷時に端が切れてしまったりすることがあります。面接時には、必ず印刷したものを面接担当者が見ながら話をしますよね。つまり、印刷の仕上がりはとても重要なんです」
「そうですか。たしかにパワーポイントだと、印刷した時に枚数がかなり増えてしまいますよね…」

しかし、書類選考が一番の難関だと分かっている方や、転職回数や年齢を気にしていたりする方は、色々な資料を添付してくることも多い。たとえば、前職の上司からの推薦状や、自分が書いた論文が掲載された雑誌のコピー(写真にとってPDFファイルに加工してあるなど、これらもかなり重い)、詳しい自己PR 書、作品集…etc。Nさんのように、応募先の企業ごと、あるいは業界ごとにバージョンが違う資料を作成する方もいる。

志望動機書や説明会への参加を義務づける企業 手の込んだ職務経歴書を作成する人材

たしかに、応募先によって志望理由やアピールしたいスキルを変更するのは、決して意味のないことではない。しかし、一番注力してほしいのは、見やすく簡潔に要点を押さえた文書を作成することなのである。

「相手は書類選考のプロですからね。自分たちが採用したい人材のポイントは決まっていて、そのキーワードを探しているんです。ですから、キーワードをすぐに探し出せるように、形式はできるだけ一般的なスタイルにそろえた方が、良いのではないでしょうか」 「分かりました。アドバイスをいただいた点に注意して再度作ってみます」

Nさんが理解してくれたようだったので、私はもう一言つけくわえた。

「フォントも普通の明朝体をおすすめします。あまり奇抜な書体は、ちょっと変わった人という印象を持たれてしまう可能性がありますから…」

そう、実はNさんの職務経歴書の書体は見たこともないような個性的な書体になっていたのだ。おそらく「これなら目立つ」と考えたのだろうが…。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 中途採用

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