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邂逅がキャリアを拓く【第11回】
Z世代との邂逅 ~新たな価値観との向き合い方~

ジャパン・アクティベーション・キャピタル株式会社
チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー

西田 政之氏

ジャパン・アクティベーション・キャピタル株式会社 チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー

時代の変化とともに人事に関する課題が増えるなか、自身の学びやキャリアについて想いを巡らせる人事パーソンも多いのではないでしょうか。長年にわたり人事の要職を務めてきた西田政之氏は、これまでにさまざまな「邂逅」があり、それらが今の自分をつくってきたと言います。偶然のめぐり逢いや思いがけない出逢いから何を学び、どう行動すべきなのか……。西田氏が人事パーソンに必要な学びについて語ります。

Z世代が職場に増えてきた現在、管理職や先輩社員にとって「Z世代との邂逅」は、これまでの働き方や価値観の変革を促す一つの試練とも言えるでしょう。Z世代は昭和世代とは異なる価値観や行動パターンを持っており、それらがしばしば「世代間の摩擦」を引き起こす原因となっています。しかし、Z世代を一括りにして対応するだけでは、彼らの持つ多様な特性に向き合うことはできません。むしろ、彼らの価値観や働き方を受け入れ、共に成長する姿勢が求められています。

今回のコラムでは、Z世代の行動特性と背景、彼らが求めるもの、世代間の摩擦を解消するための具体策について考えていきます。「邂逅」としての出会いを前向きに捉え、組織全体が成長する契機とするためのアプローチをご紹介します。

Z世代の行動特性とその背景

Z世代は、不安定な経済状況やコロナ禍による社会変動を直接体験しており、リスク回避を意識しながら働く傾向が強いです。こうした背景から、職場に過度な期待を抱かず、自分のペースで働きながら長期的な安定を目指す姿勢が見受けられます。結果として、Z世代の働き方は「静かな退職」(※1)と「がむしゃらワーク」に二極化しがちです。

「静かな退職」とは、出世や評価を求めすぎず、与えられた範囲で効率よく成果を出し、プライベートとのバランスを大切にするスタンスです。一方、「がむしゃらワーク」を選択するZ世代も存在し、将来のキャリアアップを見据えて積極的に働くことを選んでいます。どちらのスタンスも、Z世代が職場に過度な期待を抱かず、自らの価値を保ちながらも安定を追求する姿勢の表れと言えます。

Z世代が求めるもの

Z世代にとっては、仕事を通じた「小さな成功体験」と自己表現が重要な要素です。彼らは、自分にしかできないスキルや経験を生かせる場を求めており、「仕事が自分自身の管理下にあり、指示されてこなしているものではない」という感覚を大切にしています。Z世代に関する各種調査を勘案すると、Z世代が仕事に求める価値観はおおよそ以下のようなものと言えます。

自己表現と個人の価値

Z世代は、単なる業務遂行ではなく、仕事を通じて自己の価値を体現したいと考えています。自分が担当するプロジェクトや業務において、裁量権が与えられ、自らのクリエイティビティを発揮できる環境を好みます。

柔軟な働き方とプライベートの充実

Z世代にとって、仕事とプライベートを両立させるため、働き方の多様性が重要ですきすぎないスタイルを選ぶ人もいれば、一時的にがむしゃらに働くことを選ぶ人もいます。どちらも個人の選択であり、全てが正解であるという価値観が彼らの特徴です。

世代間ギャップと「気遣いのジレンマ」

Z世代と昭和世代の間には、価値観や働き方の違いによる「気遣いのジレンマ」が頻繁に生じているようですが、最近、Z世代である息子(社会人1年目)から聞いた話では、実際の職場では以下のようなことが起きているようです。

気遣いがかえってコミュニケーションを阻害する例

Z世代の加瀬さん(仮名)は、上司の石月さん(仮名)からプロジェクトの指導を受けています。石月さんは昭和的な上意下達による仕事の仕方はよくないと考え、これまでのしきたりや制約を排除して、加瀬さんの自由な発想に任せることにしました。一方で、加瀬さんは自分に任せてくれることをうれしいと思いつつも、石月さんの好みや期待に沿った仕事の方が気に入られ、評価されるのではないかと、ふるまい方に迷っています。結果的に互いに気を遣いすぎてプロジェクトの進行に支障が出るという事態が生じました。

静かな退職 vs がむしゃらワークの違いによる摩擦

静かな退職を志向する原田さん(仮名)は、効率よく仕事をこなし、定時で帰ることを大切にしています。一方で、がむしゃらワークを求める白砂さん(仮名)は、チームのために一丸となって成果を追求する姿勢を持ち、原田さんにも同じ期待を抱いていました。しかし、原田さんは白砂さんの期待に応えようとするあまり気を遣い、本音で働くことができず、逆に業務効率が低下してしまいました。

Z世代との邂逅:管理職のバージョンアップが必要

Z世代との「邂逅」は、管理職にとって新たな役割の模索を促す契機でもあります。従来の指示・命令型の管理職像から、メンバーの成長をサポートし、共に成果を追求するパートナー型の存在へのバージョンアップが必要です。具体的には、以下のアプローチが求められます。

1. 明確なフィードバックとコミュニケーションの充実

Z世代は、自分の行動に対するフィードバックを非常に重視します。評価の形式や内容を明確にし、具体的なフィードバックを通じて彼らの成長を支援することが求められます。また、フィードバックを単なる指摘ではなく、彼らの学びにつながる内容にすることが重要です。

2. 失敗を受け入れ、内省を促す

Z世代は失敗を恐れる傾向がありますが、失敗から学びを得ることができる環境が整っていると、成長意欲が高まります。失敗を内省するプロセスをファシリテートし、彼らが自己成長を実感できるよう支援することが大切です。

3. 横断的なコミュニティの醸成

職場内での横断的なコミュニケーションを促進し、Z世代が他部門や同僚と意見交換できる場を提供します。世代を超えたつながりが生まれることで、職場の一体感が高まり、個人と組織の成長が両立する環境が整います。特に、異なる世代が互いに学び合い、気遣いを共有できる場は、Z世代にとって大きなモチベーションとなります。

4. 「楽しさ」を取り入れた働き方

Z世代が仕事に対して持続的にモチベーションを持つためには、仕事の中に「楽しさ」を見出せることが重要です。小さな成功体験や自分の成長を実感できる瞬間が、彼らのやりがいにつながります。また、外部の優秀な人材との交流を通じて新たな視点を学び、自己成長を促す機会を提供することも効果的です。

Z世代との邂逅から生まれる新たな職場文化

Z世代との邂逅を通じて、柔軟で多様性を重んじる職場文化の重要性が増しています。彼らは効率重視の「省エネ的」な働き方をしつつ、自分にしかできない価値を発揮したいという強い思いを持っています。この姿勢を受け入れ、適切な裁量を与えてサポートすることが、管理職にとっての新しい役割です。さらに、従来の管理手法や評価制度を見直し、個々の特性や能力を引き出す仕組みを再構築する契機でもあります。こうした支援が、世代を超えた「共創の場」を築き、組織全体の一体感やエンゲージメント向上につながります。

一方で、その実現のため、管理職に求められることがあまりにも大きくなり過ぎていないかという危惧もあります。管理職も一つの役割とすると、人により向き不向きがあるのは確かです。これまで考察してきた理想の管理職になるためには、「ヒトが好き」であることと良い意味での「厳しさ」が絶対条件になることは疑いありません。そう考えると、これからは、単に出世した証として付け焼刃で担う役割ではなく、本当に人と向き合うことに長けたものがなる“プロ管理職”が求められる時代となるのかもしれません。

自然から学ぶ強い人材の育て方

最後に、ここまでご紹介してきたZ世代のポテンシャルを伸ばし育てるアプローチのアンチテーゼとして、自然から学ぶ強い人材の育て方について木をメタファーに言及したいと思います。

若木はどんどん成長します。例えば、ブナの木は1年で50センチほど大きくなる力を持っています。ただ、そばに立つ母親、木の実を落とした木はそれを許しません。子供の頭上に大きな枝を広げ、周りの成木たちといっしょに森に屋根を作ります。その屋根を通り抜けて子供の葉に届く日光は、3%と言われています。その程度の光では何とか死なずに済むだけの光合成しかできません。ぐっと背を伸ばしたり、太ったりするのは無理です。でもそれは子供のためを思った教育と言えます。

最近の研究で、若い頃にゆっくりと成長するのは、長生きするために必要な条件であることがわかってきました。野生の樹木は100歳前後でも鉛筆ほどの太さで、背の高さも人間ほどしかありません。ゆっくりと成長するおかげで内部の細胞がとても細かく、空気をほとんど含んでいません。おかげで柔軟性が高く、嵐がきても折れにくくなります。抵抗力も強いので、若い木が菌類に感染することはほとんどありません。少しくらい傷ついても皮がすぐにふさいでしまうので腐りません。優れた教育こそが長生きの秘訣と言えます(ペーターヴォールレーベン著『樹木たちの知られざる生活』より要約)

ペーターヴォールレーベン著『樹木たちの知られざる生活』より要約

すなわち、ゆっくり成長するほど強い木になるのです。太陽を浴びさせて急いで大きく育てることは効率的に見えますが、逆境に弱い木を大量に生産することになります。ゆっくり時間をかけてタフに育ててこそ、本当に強い真の人材、真のリーダーが育つということを自然が教えてくれているのです。

結局のところ、人材育成に唯一絶対解というものはなく、どちらの成長スタイルを選ぶかは、その人や環境が求める目的、長期的視点と短期的なニーズのバランスによって決まるということでしょう。

西田 政之氏
西田 政之氏
ジャパン・アクティベーション・キャピタル株式会社 チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー

にしだ・まさゆき/1987年に金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じたのを機に、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。その後、2015年にライフネット生命保険株式会社へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月に株式会社カインズ執行役員CHRO(最高人事責任者)兼 CAINZアカデミア学長に就任。2023年7月に株式会社ブレインパッド 常務執行役員CHROに就任。2024年7月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、幕別町森林組合員。日本CHRO協会 理事、日本アンガーマネジメント協会 顧問も務める。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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