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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第61回】
「人生の正午」から「人生のハーフ」へ:50歳からのキャリア形成

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、タナケン教授がプロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」を戦略的にデザインしていきます。

50歳という「人生の正午」を迎えても、沈んでいくわけではない

「人生を通じて、どうありたいのか」という問いかけを定期的に行うようにしています。「これまでに何をやってきたか=過去」を振り返ることも大切ですが、それ以上に、「これから何をしていきたいか=未来」に向き合うようにするのです。

1976年生まれの私が今直面しているのが、「50歳をどう迎え、50代をどう過ごしていくのか」という問いです。

スイスの精神科・心理学者であるカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)は、40代を「人生の転換期」として捉え、太陽が真上にくる時期として「人生の正午」と表現しています。

人生100年時代と言われる今、50歳こそが「人生の正午」となります。ただ、「人生の正午」と言われると、なんとなく違和感があります。その違和感に向き合いながら、「これからどうありたいのか」を言語化していると、一つのことが浮かび上がってきました。

「人生の正午」を転換点として、「暮れていくのではない」ということです。ユングに倣うのであれば、正午を過ぎると「(太陽)が沈んでいく」という意味合いが想起されます。しかし、これから50歳を迎えるタイミングで、「沈んでいく」未来は全く描けません。

50歳からのキャリアは、決して停滞ではありません。そもそも、50代を転機に私たちは老いていくわけではないのです。食事や医療、トレーニングなど、各分野の進化により、肉体的にも精神的にも「まだまだ昇っていける」のが50代なのだと感じています。

「昇っていく」ことに対してプレッシャーを感じるのであれば、少なくとも、持続的に現状を維持していく。50代を迎えている方、既に50代の物語をコンプリートした方、いかがでしょうか? そうなると、「人生の正午」ではなく、他のメタファーが今の時代にはフィットしますね。

「人生の正午」ではなく「人生のハーフ」

そんな言葉が頭に浮かんできました。「ハーフ」というのは、文字通り半分です。通過点です。

ゴルフを嗜む人であれば、「ハーフ」はなじみ深い言葉ですね。1ラウンド18ホールを前半9ホール、後半9ホールに分け、それぞれを「ハーフ」と表現します。サッカーの試合は前半45分、後半45分で行われますが、間に設けられる休憩時間は「ハーフタイム」と呼ばれます。
 
スポーツの世界での「ハーフ」を用いることで、「人生のハーフ」を迎えた50代の人たちは、「人生はまだ半分もある」と思えるのではないでしょうか。半分も残されているのであれば、いろいろなことにチャレンジできると感じられるはずです。

キャリア形成においても、「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」を的確に理解しておかなければなりません。「人生の正午」を転換点として、それ以降は自分が「暮れていく」あるいは「沈んでいく」という「バイアス」は、諸悪の根源でしかありません。昇り続ける強迫観念に囚われる必要はなく、それぞれのペースで「人生の後半」の物語を紡いでいくのです。

私が今重視しているのは、「目の前のことに没頭する」ことです。定例会議、新規事業会議、経営会議、講演、企業研修、大学講義、執筆など、さまざまな役割に向き合っています。「目の前の一瞬をこなさない」。手を抜いて流さないように、それだけを心がけています。

キャリア形成の好循環を生み出す出発点は「目の前の仕事に没頭すること」です。趣味と同じように、自ら好んで主体的に目の前の仕事に向き合うことができれば、心理的幸福感は高まっていきます。

心理的幸福感が高い状態が、労働生産性を高めます。常により良い状態へと、目の前の仕事の改善も続けていきます。

図説:キャリア形成の好循環

労働生産性が向上すると、可処分時間が生まれます。そこを有効活用するのです。副業やリスキリング、あるいは、フィジカルやメンタルのケアに充てるのも良いでしょう。

私も仕事を改善しました。以前は、1日に2~3本の講演を行うことも珍しくありませんでした。しかし講演が続いたことで、喉を痛めてしまい、働き方を見直したのです。1日1講演を原則として、仕事をマネジメントしています。「人生の後半」で老いていくのではなく、持続的に成長していくことを意識するようにしているのです。

興味を持ったら一度はやってみる

さらに具体的に自分の中でルールにしているのが、「興味を持ったら、なんでも一度はやってみる」ことです。「人生の前半」で蓄積されたキャリア資本が、時に、新たな挑戦へのブレーキになったりもします。

これまでの50年でやったことがないから、できない。今まで興味を持たなかったから、自分には向いてないと思ってしまうものなのです。

最近でも、ヨガをやってみたり、シュノーケリングをやってみたり。一度は、なんでもトライするようにしています。とはいえ、スキューバーダイビングは、怖くてできていません(笑)。なんでもトライするといっても、無理し過ぎる必要はないのです。

一度やってみたら、次もやりたいか、継続したいか、心の声に耳を傾けます。やりたければ継続し、やりたくなければ一度でやめてもいいのです。

「一度でやめる勇気」。これも「人生の後半」のキーポイントですね。

「人生のハーフ」を迎え、後半50年のキャリア形成の鍵を握るのは、(1)目の前に没頭する「虫の眼」と、(2)中長期でのキャリア資本蓄積をデザインしていく「鳥の眼」です。

図説:キャリア資本蓄積

苦手を克服して、ビジネス資本を貯めていくことも考えられますが、「人生の後半」では、強みの領域を複数伸ばしていくことがキャリア資本蓄積において効果的です。なぜならば、苦手の克服を継続するよりも、強みの没頭の方が、心理的幸福度が高いからです。

「人生を通じてどうありたいか」

この問いの答えを言語化することが難しければ、「何を遺したいか」を考えるのも良いでしょう。私は本を通じて、キャリアに関する考え方やワークアウトの方法を社会に伝えていきます。皆さんに伝えていることを、自分でも実践していくように生きていきます。

さらに、「人生を通じてどうありたいか」は、常にアップデートしていいのです。一度決めたら、守らなければならない頑強なルールではなく、常にアジャイルで微調整し続ける。まさに、変幻自在な「プロティアン・パーパス」でいいのです。

50代で迎える、「人生のハーフ」。これから50年の物語が、大変楽しみですね。

それでは、また次回に!

田中 研之輔氏
田中 研之輔氏
法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル キャリア開発研修

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キャリア・アダプタビリティ
トンネリング
プロティアン・キャリア
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