有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”【第23回】
キャリアについての考察(その2)
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回、キャリアとは、「何になりたいか」ではなく「何をやりたいか」を戦略的に設計することであるとの持論を紹介しました。ここでは、その中で留意すべき点に触れたいと思います。
ワークライフ・インテグレーション
私は「ワークライフ・バランス」という言葉が好きではありません。そもそも「ワーク」は「ライフ」の一部であり、両者はバランスをとらなければならないトレードオフの関係ではないと考えるからです。そこで、私は「ワークライフ・インテグレーション」という表現を用いることにしています(図1)。
ある人にとって、ライフの中でのワークの比重は極めて大きなものでしょう。一方、別の人にとっては、相対的にワークの比重は小さいかもしれません(図2)。面白いと思うのは、必ずしも前者(ワークの比重大)の業務成果が後者(ワークの比重小)のそれに優るとはかぎらないことです。優秀なビジネス・リーダーほど多趣味(それも本格的に)だったりすることはご存じでしょう。そもそも経営とは、複数かつ複雑なタスクを同時に推進することであり、そこで優秀な人は、人生全般においてもマルチタスクに長けているといえるのではないでしょうか。
また、ある人にとって、ライフの中におけるワークの優先度は非常に高いかもしれません。そして、別の人にとっては相対的にワークの優先度が低いこともあるでしょう(図3)。ここでも面白いのは、必ずしも前者(ワークの優先度高)の業務成果が後者(ワークの優先度低)のそれに優るとはかぎらないことです。
キャリアと人生設計
人生におけるテーマごとの比重や優先度は、ある瞬間のものです。それをとらえたものを、私はライフ断面図(=自分自身の今この瞬間を切ってみた絵)と呼んでいます。
現在の私のライフ断面図において、「家族」は大きく高い位置にあり、「ワーク」も同様です。他にも、「音楽(バンドをやっている)」「海(休日は湘南で過ごす)」「アメリカン・フットボール(母校の試合はすべて観戦する)」などは人生の大切な時間であり、さらには「時計」「靴」「車」といった趣味もあります。それらすべてが合わさって、今の自分を形成しているわけです(図4)。
加えていうと、趣味だからいい加減な態度が許されるというものではありません。例えば、バンドでライブをやるとき、チケットを買って来場してくださるお客さまがいらっしゃるかぎり、決められた開演時間にはステージに立たなければなりません。これは、仕事で会議に遅れてはならない点と何の違いもないのです。やはり、やるからには何でも責任感をもって一生懸命やる、という姿勢を大事にしたいと思います。
そして、このライフ断面図を時間軸の流れの上で紡いでいくと、それは人生設計になるはずです。(図5)。
人生設計の中には、将来の留学、結婚、出産、育児、介護、転職、起業、引退などのタイミングを想定した上で、希望や可能性として描いておく必要があります。当然のことながら、「ワーク」はそれらのライフイベントから大きな影響を受けるので、そこだけを考えていてもキャリア・プランは策定できません。
むしろ、まずは人生設計があり、その中から「ワーク」部分を抽出してつないだものが、結果としてキャリア・プランとなっているのではないでしょうか(図6)。「ワークライフ・インテグレーション」の考え方と同様、キャリア・プランは人生設計と不可分の関係にあるのだと思います。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
ワークはライフの一部だぜ
そもそも分けて考えるなどナンセンス!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。