職場のモヤモヤ解決図鑑【第58回】
就業規則を変更するときはどうするべき?
必要な手続きと不利益変更[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
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森本 翔太(もりもと しょうた)
人事部に配属されたばかりの23才。部長と吉田さんに教わりながら、人事の基礎を勉強中。
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石井 直樹(いしい なおき)
人事労務や総務、経理の大ベテラン42歳。部長であり、吉田さんたちのよき理解者。
就業規則は不変のものではなく、法律に合わせて変えることがあると知った森本さん。テレワークなどの新たな制度を導入したときや、賃金体系の見直しを行ったときも、就業規則を変更する必要があります。またその際、従業員の労働条件が不利益となる変更を、会社が一方的に行うことはできません。就業規則の変更に必要な手続きを解説します。
就業規則を変更する理由は?
就業規則が変更となるのは、前提となる関連法令が改正された場合や、関連する社内のルールが変更となった場合などです。
法令が改正されたとき
労働基準法など関連法令の改正内容より、自社が定める就業規則の内容が法令で定める条件よりも不利益なものになっている場合は、該当する項目は無効となり、法令で定めた水準に引き上げられます。就業規則は、法令に合った適切な労働条件とするためにも、変更の手続きが必要です。
たとえば2022年4月以降、育児休業のための雇用環境の整備、本人やその配偶者が妊娠・出産を申し出た場合の従業員に対する育児休業制度の個別周知と意向確認の措置、産後パパ育休制度や育休の分割取得といった、改正育児・介護休業法に関連した取り組みが段階的に始まりました。産後パパ育休制度では、対象者の範囲や申し出の手続きなどについて、就業規則への記載が必要になります。
その他にも2023年以降、以下のように労働基準法関連を見直す動きがあります。
- 2023年4月~中小企業に対する猶予措置廃止:月60時間超の割増賃金率の引き上げ
- 2024年4月~建設業・自動車運転手・医師における時間外労働の上限規制適用
自社の就業規則の見直しが必要かどうかを確認しながら、内容をアップデートしましょう。
社内ルールを変更するとき
もう一つ、就業規則の変更の必要性が発生するのは、社内ルールを変更したときです。賃金規定や就業時刻など、就業規則にすでに記載している項目に変更があった場合は、速やかに就業規則の見直しを行います。
また、「退職手当」「安全衛生」「職業訓練」といった就業規則の相対的必要記載事項に該当するものは、自社で制度を設けた際、就業規則に盛り込まなくてはいけません。社内ルールの変更により就業規則の見直しが必要なケースとしては、以下のような例が挙げられます。
- 経営悪化による賃金の引き下げ:賃金の決定、計算方法などを変更します。
- テレワークなど新たな働き方・制度の創設:就業場所、就業時間などの変更。ただし、労働時間などの労働条件が通常労働と同様であれば、就業規則の変更は必要ありません。なお、通勤手当の範囲変更やテレワーク手当を新たに設ける場合は、就業規則の変更に該当します。
- 固定残業代(みなし残業代)の新設
就業規則を変更する手続きは?
就業規則の変更は、草案の作成、意見書の作成、労働基準監督署への提出という流れで行います。
ステップ1:
草案の作成、経営陣の承認
就業規則の変更箇所や内容について確認し、草案を作成します。作成した草案は経営陣に提出し、承認を得ます。
ステップ2:
意見書の作成
経営陣の決裁を受けた草案について、過半数労働組合または過半数代表者から意見を聞きます。意見は意見書としてとりまとめ、労働基準監督署に変更した就業規則とともに提出します。
就業規則の変更にあたっては、従業員に不利益が生じるケースもあるでしょう。これは就業規則による労働条件の不利益変更と呼ばれるもので、変更内容には従業員の合意が求められます。不利益な労働条件の変更は労働者に大きな影響をもたらすものだからです。賃金の一方的な引き下げなど労働者の生活や立場を脅かす変更は、労働契約法第9条で、原則として従業員の合意なしに行うことを禁じられています。
例外として、変更内容に高度の合理性が認められる場合は、この限りではありません。労働契約法第10条では、「労働者の受ける不利益の程度」「変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合との交渉状況」など、就業規則の変更が合理的なものであり、妥当な事情があれば、たとえ労働者にとって不利益でも、就業規則を変更可能であるとしています。
不利益変更にあてはまる就業規則の変更では、原則として従業員一人ひとりの合意を得る必要があります。例外として合意なしに変更する場合も、変更後の就業規則を従業員に周知しなければなりません。賃金引下げなど不利益が大きい場合は、調整手当を導入する、数年にわたり段階的に賃金を引き下げるなど、実務上高いハードルが求められます。
ステップ3:
労働基準監督署への提出
変更した就業規則と、とりまとめた意見書を、管轄の労働基準監督署へ提出します。
就業規則変更の周知について
就業規則を作成した際と同様に、就業規則を変更した場合も、会社は変更内容を従業員に周知させなければいけません。周知の方法は、以下の三つの方法が労働基準法で認められています。
- 事業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
- 書面を労働者へ交付すること
- デジタルデータとして記録し、従業員がいつでも閲覧可能な状態にすること
せっかく行った変更も、従業員に周知させなければ効力は発生しません。大きな変更を行った際は、その内容を説明する資料を配布したり、説明会を開催したりするといいでしょう。従業員が就業規則変更の意図や背景を理解するのに役立ちます。
【まとめ】
- 労働関連法の改正があった場合は、自社の就業規則の変更が必要かどうかを確認する
- 就業規則の作成では、変更内容について労働組合もしくは労働者の過半数を代表する人からの意見をまとめる
- 従業員に不利益が発生する変更は原則として禁止され、合理性が求められるため慎重に行う必要がある
法改正はもちろん、社内で新しい制度を作る際も、就業規則の変更が必要になるかもしれないんですね
法律の改正によっては就業規則の変更までは必要のないケースもあるから、それぞれ確認が必要だね
次に変更が必要になりそうなことがあれば、見直し業務を担当したいです!
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!