職場のモヤモヤ解決図鑑
【第20回】組織開発の落とし穴。管理職が忘れてはいけないチームとの向き合い方
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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山下 健悟(やました けんご)
関東圏のメーカー課長職45歳。20人ほど部下がいる。部下がもっと働きやすく、活躍できるチームを目指し、試行錯誤の日々。
組織開発について学んだ山下課長は、さっそく天海さんのチームにいろいろな方法を実行してみますが、どれも空振り。メンバーからの反応も悪く、状況は悪化する一方です。チームに活気が戻ってほしいと思ってやったことなのに、どうして山下課長の組織開発はうまくいかないのでしょうか。
「手法」に飛びつく組織開発がうまくいかないのはなぜ?
組織開発の手法は、メンバーの自主性を促し、意見交換を活発にするのに役立つよう考えられたものです。しかし、チームの関係性を良くしようと働きかけても、山下課長のように「上ばかりが必死になって、部下は冷めてしまう」ケースは珍しくありません。組織開発の手法を知ったばかりの管理職が陥りやすい穴といってもいいでしょう。
こんなにも組織開発の手法はあるけれど
組織開発では、問題のあるチームや組織に働きかけることを「介入」といい、その手法は数多くあります。組織開発の第一人者である南山大学 教授 中村和彦氏の著書『入門 組織開発』には、個人やチームで取り組める手法だけで、これだけの例が挙げられています。
組織開発手法の例
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個人レベル
…トレーニング、コーチング、メンタリング、フィードバック、アセスメント、リーダーシップ開発 -
グループ・チームレベル
…チームビルディング、ファシリテーション、ファミリー・トレーニング、プロセス・コンサルテーション、職場ぐるみ訓練、データ・フィードバック、リトリート/オフサイトミーティング
これらの手法は、「人と人との関係性」に働きかける重要なアプローチですが、何の準備もなく取り入れても効果はありません。組織開発を進めるには「何をするか」よりも先に、目指す組織の「あり方」を考えなければいけません。
手法の前に「どんな職場・組織にしたいか?」を考える
組織開発の取り組みには、関わるすべての人々の「どんな職場や組織にしたいか?」という視点が欠かせません。理想像がなくては、何が課題となっているのかに気づくことも難しいでしょう。管理者が理想のあり方を持つと同時に、チームメンバーとその理想を共有します。そして、理想に近づくための行動や変化を生み出すことで、組織開発が進んでいくのです。
「診断型」「対話型」二つの組織開発のアプローチ
組織開発で重要なのは、ノウハウやテクニックを取り入れる前の準備です。課題を見つけるためには、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」という二つのアプローチがあります。
課題を分析する「診断型組織開発」
診断型組織開発とは、データを用いて現状を分析し、課題を抽出したのちに、プロセス改善の取り組みを行うアプローチを指します。
データ分析によって組織が目指すべき姿がある程度絞られており、その状態に近づくように、当事者の行動を変えていく点が特徴です。たとえば、従業員満足度調査の結果を分析し、満足度向上の取り組みを人事部が展開するアプローチは、診断型組織開発といえます。
人事部や管理者といった立場の人々が、職場の現状を把握できるメリットがある一方で、現場との意識の差が発生しやすい側面があります。そのため、目的の共有や結果のすり合わせなど、ステップごとにメンバーと信頼関係を構築することが必要です。
課題を対話で探る「対話型組織開発」
対話型組織開発では、対話を通じて課題を見つけ出し、新たな変化や関係性を生み出すことを重視しています。対話型組織開発の代表的手法である、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、オープンスペース、ワールドカフェなどを用いて、当事者が課題や理想の在り方をすり合わせ、プロセス改善を主体的に進めていきます。
対話型組織開発のアプローチでは、管理者とメンバーといった、変革を進める側・やらされる側といった垣根を取り払い、自主的に行動するエネルギーが生まれやすくなる点が特徴です。
組織開発でチームが活性化した事例
組織開発の取り組みでチームが活性化し、業績を回復させた事例をみてみましょう。
「お通夜みたいな朝礼」を変えたヤッホーブルーイング
クラフトビールを販売するヤッホーブルーイングでは、2000年代前半から業績の落ち込みに悩まされていました。インターネット販売により、クラフトビールの販売数が回復の兆しを見せるも、社内のチームは活気がない状態。まるでお通夜のような朝礼の雰囲気に危機感を覚えた井手社長は、自ら外部のチームビルディング研修に参加します。
研修を通じて「人は変えられないが自分は変えられる」と気づきを得た井手社長は、社内でチームビルディング研修を実施。参加した7名の社員に、チームに対する価値観の変化が表れているのを実感します。
3年ほど足踏み状態が続きましたが、徐々に成果が表れ、新しい事業アイディアが社員発で生まれるようになり、会社の雰囲気も活性化しました。
井手社長自らが従業員を巻き込んで実践するなかで、「組織を変える必要性」「組織開発のアプローチが有効である」点を浸透させていったことが、変革を進めたポイントといえます。
押しつけにならない組織開発にするには
いざ組織開発に取り組もうとしても、通常業務が忙しいなか、「研修をしよう!」「話し合おう!」と呼びかけるだけでは、メンバーの共感は得られないでしょう。当事者間で組織開発の必要性が共有できていなければ、反発されたり、無関心な態度を取られたりして終わってしまいます。
埼玉大学 准教授 宇田川元一氏は、チームに介入する前に、自分と相手の問題解釈を確認し、お互いの考えにどんな違いがあるのか、自分の考え方にどんな偏りがあるかを理解するステップが不可欠だと話します。まずは、自らの考えと相手の考えを知ることから始めましょう。
手法が課題を解決してくれるのではありません。当事者が課題に気づき、最適な解決策を探りながらトライ&エラーを繰り返す。そのなかで、組織の中に新しい関係性を構築していくことが重要です。
【まとめ】
- 手法がチームの問題を改善してくれるわけではない
- 「何をするか」より先に、「どのような組織にしたいのか」という理想を考える
- 一方的な手法の押しつけは共感されない。メンバーの考えを理解し、共にトライ&エラーを繰り返すことで効果が表れる
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