人事マネジメント「解体新書」第59回
「対話(ダイアローグ)」が求められる時代(前編)
~信頼に基づく話し合いが、組織を活性化する~
近年は雇用形態の多様化により、組織がいろいろな立場の人から構成されるようになっているが、その結果、そこで働く人々の価値観も多様化してきている。このような状況下、チームとして成果を出すために、人々をまとめ、鼓舞し、組織の活力を高めていく手法である「対話(ダイアローグ)」が注目されている。ただし、これは従来型の以心伝心によるコミュニケーションではない。対話とは、創造的なコミュニケーションであり、単なる雑談や議論とは異なるものである。そして、そのベースとなるのは一人ひとりの「話す力」と「聴く力」である。問題は、これを組織の中にどう組み込んでいけばいいのかということだ。『前編』では、「対話」が求められている背景と、その対応について紹介していく。
伝わらない組織のコミュニケーション
◆人と人とのつながりが失われてきた
組織とは、多くの人の力を結集することで、一人ではなし得ない成果を上げるためのものと言っていいだろう。いろいろな立場の人が一つの方向に向かって仕事を進めていく必要があるが、そのためには、コミュニケーションを通じてお互いの理解を深め、協力していくことが不可欠である。お互いの立場や状況を共有し、共に知恵を出し合うことでさらに相互理解が促され、チームとしての力が発揮されるからだ。
しかしながら近年、多くの組織で人と人のつながりが急速に失われてきている。その原因の一つには、慢性的な人手不足によって各人が多忙を極める中、仕事内容が個別化し、周囲の仲間に対して目を向ける余裕がなくなってきたことがある。また、前述したように、組織の構成員が多様化していることも大きいだろう。さらに、管理する側もプレイングマネジャー的な要素が強くなり、部下とのコミュニケーションに割く時間が少なくなっている。つまり、皆が自分のことで精いっぱいの状態にあるのだ。
人は他者とのつながりが失われてくると、周囲に対する興味・関心も薄れていき、さらには働く意欲や協働性も低下していく。その結果、組織からは元気が失われ、「不機嫌な職場」が増えていくことになる。
◆人は皆違うということを前提に話し合う
こうした状況を払しょくするためには、「人は皆違うものである」ということを前提にしなければならない。その前提の下で互いに話し合い、問題を解決していこうとする姿勢が必要ではないだろうか。
何より、育った環境や立場が異なる相手のことを、簡単に理解できるはずがない。だからこそ相手を理解しようと努めるべきであるが、軽々に分かったと思わないことだ。同時に、自分のことを分かってもらえるものと思うのも、その意味において危険である。
組織において、話が通じなかったり、意見が対立したりするのは当然のことである。しかし、通じないなら話しても仕方がないと思ってはならない。通じないからこそコミュニケーションが必要であり、話し合いが大切になるという考え方を、皆が持たなければならない。
◆重要なのは、コミュニケーションの「対面性」
その際に重要となってくるのが、コミュニケーションの「対面性」である。技術が発達し、自動化・合理化が進んだ現在、人に直接会って話をしなくても済むことが多くなってきた。思えば、一昔前までは意識して伝える必要もなかったことでさえ、現在はきとんと伝わらなくなっているのではないか。これも、直接会って話をしていないからだ。また、会って話をするにしても、例えば昨今の管理職の場合、上層部から言われたことや自分の思っていることを単に部下に伝えるだけで、部下の置かれた状況を確認したり、まともに話を聴こうとしたりしないケースが増えてきたように感じる。メールやインターネット、スマートフォンなど、職場にはコミュニケーション・ツールがあふれているにもかかわらず、伝えたいものが伝わっていないのが現状だ。
事実、「メーリングリスト上で建設的な議論が行われ、問題が解決した」「会議でまとまらなかった事項が合意に至った」というような話はあまり聞いたことがない。対面でのコミュニケーションが減った分、こうしたインタラクティブなツールを使おうとしているわけだが、逆に、コミュニケーションの質は低下しているのではないか。そこには、人と人による適切な「対話」がないからだ。
チームとして仕事をしていく中で、直接会って話さなければ通じないことは非常に多い。お互いに顔を見ながら話をすれば、誤解することは少なく、相手から予期せぬ情報やアイデアをもらうこともある。言うまでもなく、コミュニケーションの本髄は生身の人間が直接向き合うことにあるのだ。何より、対面のコミュニケーションを避け、話をしないでいると、組織の活性化レベルはどんどんと落ちていく。このレベルを上げていくには、とにかく会って話す機会を増やす必要がある。
問題は、そこでどのような会話を行うかである。中原淳氏・長岡健氏による『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社)によると、それは「ビジネスコミュニケーションとしての対話」ということになる。以下、その考え方をベースに置きながら、組織における「対話」のあり方について考えてみたい。
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