仕事だけが「働く」じゃない
――社会起業家が提唱する「働き方革命」で
企業を変える
認定NPO法人フローレンス 代表理事
駒崎 弘樹さん
マネジャーの仕事は「自分がいなくても回る組織をつくること」
トップを動かすのも大変ですが、実際に働き方革命を進める諸施策を運用し、組織に拡大していくためには、現場でチームを管理するマネジャー層への働きかけも大切なポイントになりますね。
もちろんです。弊社では仕事を“スマート化”する=仕事時間を減らして生産性を高めるために、会議やメール処理の効率化、仕事のしくみ化、在宅勤務の導入など、さまざまな施策を実践してきましたが、一番大変だったのが中間マネジャーの意識改革でした。彼らが仕事を抱え過ぎるために、彼らにしかわからない仕事が増え、スタッフへのマネジメントも行き届かず、チーム全体の仕事の進め方が非効率になっていたんです。
難しいのは、マネジャーの心理として、自分がいないとチームが回らない状態を“頼りにされている”と勘違いしやすいこと。だから僕は口を酸っぱくして、彼らに何度も言いました。「あなたの仕事は、あなたがいなくても回るチームをつくることなんですよ」と。つまり仕事を“属人化”させないということです。そのためにマネジャーは業務を仕組み化し、スタッフを育てて、自らの権限をどんどん委譲していかなければいけません。
そういう“スマートな”マネジャーやスタッフを育てるために、駒崎さんが一番心がけていることは何ですか。
諦めずに同じことを、それこそ100万回でもくりかえし言って聞かせることですね。もちろんただ「早く帰れ、残業しちゃいかん」じゃなくて、たとえば残業を減らせないマネジャーがいたら、何にどれくらい時間を使っているのか、仕事時間の棚卸しをしてもらう。その上で「この業務はスタッフに振れるんじゃない?」とか、一緒に問題を切り分けながらコミュニケーションを図っています。もちろん、自ら率先して定時に帰るようにもしていますよ。マネジャーに背中で示すというか、「自分がいなくても回る組織をつくる」のは、トップである僕自身にこそ求められる役割ですからね。最初の頃は夕方の6時なんかに帰っていいのか、本当に大丈夫かとドキドキしましたが、拍子抜けするほど何も問題は起こらない。当たり前ですけどね。
働き方革命は、フローレンスという組織をどう変えましたか。
まず残業が減ったおかげで、コストを大幅に削減できました。残業分を全部利益に上積みできたのは、事業としてすごく大きいし、働きやすくなると離職率が下がるから、お金をかけて新しく人を採る必要もなくなり、さらなるコスト削減ができました。しかも働きやすいということで知名度やイメージが高まると、優秀な人材が集まりやすくなる。採用力も上がりました。この前、時給1,000円で事務職を募集したら、MBAを持っている人が応募してきましたし、経理のパートを募集したときも公認会計士の女性が来ましたからね。フルタイムでは働けないけれど、やりがいのある仕事がしたいということでうちを選んでくれたんです。冒頭で触れた若者の価値観の変化を踏まえれば、今後はそういう人が間違いなく増えていくでしょう。うちもそうですが、中小・零細企業が人材獲得競争で大手に勝とうと思ったら、働きがいと働きやすさ、これで勝負するしかありません。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。