女性が活躍できる組織作りとは?
~女性の覚悟、企業の覚悟~
NPO法人 J-Win(ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク)理事長
内永 ゆか子さん
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女性は「組織人」としての自覚が足りない
1986年4月に男女雇用機会均等法が施行されてから20年以上が過ぎました。もはや、部下としての女性の能力を否定する人はほとんどいません。しかし、上司としてはどうかと聞くと、「能力不足」「経験不足」を指摘する声が多いように思います。上からも下からも、女性管理職が嫌われてしまう理由はどこにあるのでしょうか?
ひと言で言えば、「組織人」としての成熟度が低いからだと思います。もちろん、女性たちだけが悪いわけではありません。普通なら、5、6年かけて経験を積ませるところを、多くの企業では「女性を活用しなくちゃいけない」と慌てて、2、3年で急成長させようとしているわけです。それに無理があることは、本人が一番承知しています。だからこそ、「女性だから得している」と言われたくないし、思われたくないと、必要以上に肩に力が入ってしまうんです。
管理職になるということは、人の力を借りたり、周囲の組織とうまくコラボレーションしたりしなくちゃいけない立場になる、ということです。優秀な部下がいれば、その人に助けてもらうことで、自分も大きくなれる。でも、肩に力が入ってしまった女性はなかなか、そうは思えない。部下が優秀だと、「上司としての自分に力がないと思われるんじゃないか」「なめられちゃいけない」と、それまで以上に肩肘はって頑張ってしまいます。
本当はそこで、「君、そんなに一人で頑張る必要はないんだ」「部下に助けてもらっても、君の評価が下がるわけじゃないんだよ」と教えてくれるメンター(先輩)がいればいいんですが、男性上司の多くは、そうしたことをあまり女性には教えてくれません。本心では「困ったもんだ」と思っていても、口では「女性は元気がいいね」などと褒めたりします。また、たとえ教えてもらっても、必要以上に突っ張ったり、噛み付いたりして、聞く耳を持たない人もいるのでしょう。
「○○さんは元気だね」「女性は勢いがあっていいよ」なんてやたらに褒められたら、それは「組織人としてはどうか」とたしなめられているのと同じこと。管理職になろうとする女性たちはまず、このことに気づくべきだと思います。
女性の場合、数が圧倒的に少ないという問題もあって、社内的な政治力が非常に弱いように思います。これを部下の立場から眺めると、「女性管理職についていったら損をする」という判断にもつながっているのではないでしょうか?
確かに、その通りだと思います。組織で働く以上、自分が不利な立場に置かれないか、ちゃんと出世できるのだろうか、と考えるのは当然のことです。上司ならばまず、そうした部下の気持ちに応えるべき。それに気づかずに、やたらに上とぶつかって正論ばかり吐く女性管理職は、下から見ると「どうなることか」と冷や冷やしてしまう。自分が清く正しくあればいい、陽の目を見なくてもいいんだという人は、組織の長にはふさわしくないんです。
今だから言えますが、これは私自身が、さまざまな失敗を通して学んだことでもあります。管理職になったばかりの頃は、かなりの跳ねっ返りで正論ばかり吐いていましたし、「自分は人間的に駄目なんじゃないか、上司にふさわしくないんじゃないか」と、悩んでもいました。でもある時、友人の女性にこう言われたんです。「結婚するわけじゃないんだから、上司の人間的な魅力なんて関係ない。それよりも、予算も人員もちゃんととってきてくれて、面白い仕事をさせてくれて、他の部署と喧嘩になっても負けない、そういう上司がいい上司だと思う」。言われてみれば、確かにその通りでした。
いい上司とは、人格的な優劣の問題ではありません。組織の中で力を持ち、その力を、部下のために使ってくれる人です。だから、女性が本当に管理職としてやっていこうとするならば、嫌な相手にもニコニコするくらいの賢さは持たないと。男性たちは、わからずやの偉い人を説得するより、自分が偉くなった方が早いと知っています。だから、下にいるうちはじっと我慢して、早く決定権を持つポジションに就こうとするんです。これに対して女性は、地位が低いのに傍若無人にふるまい、わからない相手を議論でねじふせようとしてしまう。これでは議論に勝てても、最終的には損をします。若いうちは「元気がいいね」と大目に見てもらえますが、ある程度の地位まで行くと必ず、排除されてしまうからです。
女性が組織人としての経験を積むために何が必要ですか?
できるだけたくさんの小さなタスクを経験して、チームとして何か一つのことを達成する喜びを、若いうちから経験しておくことだと思います。
私の場合、それを実感したのは40歳代になってからでした。当時任されていたのは、日本IBMで初めて、ある組織を100%子会社化しようというプロジェクトです。タスクチームを組んだのですが、社内的には総スカン。トップエグゼクティブからは「お前は何をやっているんだ」と怒られるし、あまりのハードワークに「やってられない」というメンバーもいて、いっときは、チームがみんないなくなっちゃったんです。
それでも、私には「これは絶対にやるべきだ」という思いがありました。何度考えても、子会社化は正しい戦略だと思ったし、頑固に一人で頑張っていたんです。そしたらある時、みんなが可哀想だと思ってくれたのか、抜けていったメンバーが、一人、二人と戻ってきてくれました。
どうしてみんなが戻って来てくれたのか、理由はわかりません。ただ、一つだけ言えるのは、もっと若い頃の私だったら、メンバーはたぶん戻って来てはくれなかっただろうし、戻って来ても、私が許さなかっただろう、ということ。100人くらいの組織の長をしていたある時、部下の一人に「もっと私たちを好きになって下さい」と言われ、部下は敵ではない、助けてもらうことで自分も大きくなれるんだ、と気がつきました。それをきっかけに、自分の軸足がぶれない限り、必ず誰かが助けてくれると信じていたからこそ、みんなが戻って来てくれたのだと思います。
その後、プロジェクトはどうなりましたか?
日本のトップも、アジア・パシフィックのトップも、そして米国本社も説き伏せて、事業を実現しました。最後はもちろん、メンバー全員で抱き合って泣きました。
うれしいことに、その時のメンバーは私が定年退職するまでずっと、私のポジションが変わるたびに、私についてきてくれたんです。これは何より一番、うれしいことでした。
トップの覚悟が企業を変える
組織で活躍できる女性を増やすため、企業は何をすべきでしょうか?
女性管理職を増やすのは社会貢献や義務ではなく、企業戦略なのだということを、トップが腹の底から理解して、それを明確に打ち出すことです。日本IBMも、93年に米本社のCEOだったルイス・ガースナーが来日し、「女性活用は企業戦略だ」と言ったところから、本当の変革が始まりました。私がウィメンズ・カウンシルを始めたばかりの頃は、日本IBMの女性役員はもちろん私一人、部長も本部長も、女性はゼロでした。それが今や、女性の役員は5人、女性部長は数えきれないほどいます。トップが本気にさえなれば、それくらい変わるということです。
戦略である以上、ゴールは必要です。ゴールのない戦略は、ただのウイッシュリスト(希望的観測)に過ぎません。まずは専門部隊を作って現状を分析し、いつまでに女性管理職をこれくらい増やすというような実施計画を作成し、定期的にチェックをする。そして、数値目標が達成されていなければ、なぜ達成できなかったのかを分析し、行動すればいいんです。
日本IBMでは、管理職を決める際に必ず、女性の候補者がいないかリストを挙げさせましたし、管理職に対しては半年に一回、女性活用に対してどれくらいコミットして、成果をあげたかを社長がレビューしました。経営戦略なのだから当然です。成果をあげられない場合はもちろん、評価にも影響します。
女性活用は企業戦略だと言いながら、通常の戦略とは別のように考える。これが、そもそもの間違いです。もしも、トップが「女性活用は経営戦略」だと考えているにもかかわらず、何年経っても女性管理職が増えないとしたら、それは、その企業の戦略の立て方、進め方そのものに問題がある、と言えるのではないでしょうか。
「フレキシブルな働き方」が管理職と子育て両立のカギ
管理職になる年齢にさしかかり、出世の階段を上るか、出産・子育てなど女性としての生き方を選ぶか悩む女性に、内永さんなら、どうアドバイスしますか?
私の周りにも、お子さんを産んで働き続けている女性がたくさんいます。皆さん忙しくてヒーヒー言っていますが、そう言いながら、顔は笑っているんですよね。で、「本当のところどうなの?」って聞くと、「すっごく大変ですけど、すっごく楽しいです」と答えるんです。
私は、自分の人生にあまり後悔はしていないんですが、子どもを産まなかったことだけは、後悔しています。一人の人間を産んで育てるという豊かな経験を積まなかったことで、どこか自分はまだ半人前なんじゃないか、と思うこともあります。だから、子どもを産みたいという女性がいたら、なるべく早く、エネルギーのあるうちに産んだ方がいいとアドバイスしますし、育児休業だけではなく、在宅勤務や短時間勤務などの制度をうまく使えば、管理職の仕事とだって両立できる、と話します。
ただし、そのためには会社も変わらないといけないでしょう。会社に縛られ、長時間労働することで評価されるのではなく、仕事の成果できちんと評価する。日本企業が本気でホワイトカラーの生産性を上げようと取り組めば、子育てと管理職の仕事とを両立させる女性も、もっと増えていくのではないかと思います。
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さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。