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キーパーソンが語る“人と組織”

“2枚目の名刺”が若手を育て、シニアを活性化
楽しく学ぶ「パラレルキャリア」の人材育成効果とは(後編)

石山 恒貴さん
(法政大学大学院 政策創造研究科 教授)

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石山 恒貴さん 法政大学大学院 政策創造研究科 教授
「この忙しいのにボランティア!?」「仕事で成果を上げたければ、NPOへ行っているヒマなどないはずだ」――。本業以外にもう1枚の名刺をもって社会活動に取り組む「パラレルキャリア」ですが、日本の職場ではまだ、この新しい考え方に誤解や偏見の目が向けられることも少なくありません。しかし一方では、その学びの効果に注目する企業が、人材育成施策の一環として活用する事例も出てきました。インタビュー後編では、石山先生に、パラレルキャリアの具体的なメリットや活用法、企業が推進する上での課題などについてうかがいました。
Profile

いしやま・のぶたか●一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GEにおいて、一貫して人事労務関係を担当、米系ヘルスケア会社執行役員人事総務部長を経て、現職。人的資源管理と雇用が研究領域。ATDインターナショナルネットワークジャパン理事、タレントマネジメント委員会委員長。NPOキャリア権推進ネットワーク研究部会所属。主要著書は『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、『組織内専門人材のキャリアと学習』(日本生産性本部生産性労働情報センター)

組織の多様性とゼロからの立ち上げ体験がもたらす学びとは

――「パラレルキャリア」は個人にどのようなメリットをもたらすのか。具体的な学びの効果について、少しくわしく教えていただけますか。

前編でパラレルキャリアは幅広く捉えていいと言いましたが、何でもありだと具体的なイメージがつかみにくいので、ここでは「二枚目の名刺」のような中間支援団体を介してNPO支援を行うサポートプロジェクトについて説明していきましょう。サポートプロジェクトは、中間支援団体に登録しているメンバー5~6人程度がチームを組んで行うものだと説明しましたね。メンバーは、所属する会社から業界、職種、年齢、性別までさまざまです。この多様性、異質性こそが、パラレルキャリアの醍醐味なんですね。プロジェクトに参加しなければ決して出会うはずのなかった人たちであり、お互いにバックグラウンドも違えば、価値観や言葉の使い方も違います。当然戸惑いは大きく、職場なら当たり前に通じるやりとりが、ことごとく通じなかったりすることも珍しくありません。しかしビジネスパーソンにとっては、そうした組織文化の壁を痛感する戸惑いや、ある種のカルチャーショック自体が一つの学び。同質な価値観に安住するシングルキャリアでは得られない、貴重な気づきにつながっていくのです。

―― サポートプロジェクトでは、NPOを支援するために具体的に何をするか、チームの目標や課題などは最初から決まっているのですか。

パートナーNPOから「こういうことに取り組んでいきたい」というような大まかな課題は伝えられますが、はっきりとしているわけではありません。ほとんどの場合がゼロからの立ち上げで、目標もなければ正解もなく、指示をくれる“上司”もいない。「そもそも何をするのか」というミッションの部分から、ゼロベースで物事を考えていかなければいけないんです。

実はこの暗中模索のプロセスも、大きな学びの効果をもたらします。というのも、本業において、ゼロからの立ち上げを経験したり、イチから物事を考えたりするという機会は、すごく少ないでしょう? そのため、現代のビジネスパーソンは「問題解決症候群」に陥っていると言われます。問題解決症候群とは、問題は与えられるもので、与えられた問題には必ず決まった答があると考える思考法で、優秀なビジネスパーソンほど陥りやすい。実際、業務の流れが洗練された大企業ほど、部門の目標も細分化され、定型的な枠組みの中での問題解決が多くなるでしょう。要は、誰かに問題を与えてもらわないと何もできない、指示待ちになりやすいということです。サポートプロジェクトをゼロから立ち上げ、暗中模索する経験こそ、この問題解決症候群の罠から抜け出すための、きわめて有効な処方箋と考えられます。

また、NPOの活動の原点にあるのは、社会を変えたい、社会課題を解決したいという強い想いですから、何をどう変えるのか、解決するのか、すなわち「ミッション」と呼ばれるものが非常に重要になってきます。多様性・異質性に富む組織であればなおのこと、ミッションを明確に打ち出し、それに対する共感でメンバーを動機づけ、活性化していく。そういうリーダーシップのあり方も求められるでしょう。

―― リーダーシップに関する学びも得られるわけですね。

サポートプロジェクトのメンバー間に、上下関係はありません。したがって、本業でいくら権限を持っていて役職が上位でも、それを振りかざして、人や物事を動かせるわけではないのです。組織の論理に縛られがちなビジネスパーソンにとって、上下関係が通じない多様な人々と社会活動に取り組むパラレルキャリアは、権限や役職だけに頼ったリーダーシップの限界に気づき、同時に「権限のないリーダーシップ」を学ぶことができる重要な機会となるでしょう。リーダーシップとは、すなわち影響力ですから、対話や個々の思いを重視してそれを実現するのが、権限のないリーダーシップのあり方ということになります。

近年、経営環境の急激な変化に対応していくためには、組織内だけでなく、外部の知恵を積極的に取り入れてイノベーションを起こす、「オープンイノベーション」が必要と言われるようになってきました。オープンイノベーションの要諦は、組織の壁を越えた多様で柔軟なチームワークです。社内限定の権威にものをいわせて物事を動かそうとする旧来型のリーダーシップの下では当然、うまくいくはずがありません。むしろ求められるのは、状況にあわせて、誰がリーダーになってもいい「シェアド・リーダーシップ」。そういう役割意識を学ぶ場としても、パラレルキャリアは有用です。


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