“2枚目の名刺”が若手を育て、シニアを活性化
楽しく学ぶ「パラレルキャリア」の人材育成効果とは(前編)
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山 恒貴さん
NPO、プロボノ、同窓会――パラレルキャリアは多種多様
「本業×本業以外の社会活動」という複数のキャリアを同時並行で実践するから、「パラレルキャリア」と呼ぶわけですが、そもそもキャリアという言葉の定義からして、ちょっとわかりにくいという人もいるでしょう。私はキャリアを、人生における広い意味での“役割”と捉えています。仕事や職業だけでなく、およそ何らかの役割を果たすことをキャリアとして捉えれば、パラレルキャリアを構成する「本業×社会活動」のどちらにも、より多様な可能性が認められるからです。要するに、本人がそれを本業だと思っていれば、主婦(主夫)業であれ、学業であれ、中心的に取り組んでいる役割を本業と位置づけていいのです。
社会活動もまた同じです。本業以外に熱心に行っていることであれば、どんなささいなことでもいい。趣味をきわめたり、社会人大学に通ったり、同窓会の幹事や仲間内で行う勉強会、地域の自治会活動、NPO活動、プロボノ(職業上の専門スキルを活かすボランティア)、コミュニティカフェへの参加など、さまざまな内容が社会活動の範囲に入ってきます。そう考えると、ドラッカーが想定した「知識労働者のための生き方」という定義にも固執しなくていい。パラレルキャリアは、特別な人にしかできない活動ではなく、意欲さえあれば誰でも始められるものだと、私は考えています。
「本業×社会活動」という定義を、もっと柔軟に、幅広くとらえていいということですね。
形にとらわれる必要はありません。パラレルキャリアの本質を理解するためには、その対義語となる「シングルキャリア」について考えてみると、わかりやすいでしょう。ここでいう「シングルキャリア」とは、「自分が本業と考えている組織や役割に全面的に依存していて、その価値観を疑問の余地なく受け入れ、その状態から変化する可能性さえ想定していないこと」を指します。たとえば、入社してずっと同じ会社にいたとしても、シングルキャリアとは限りません。その会社での本業が充実していて、なおかつ社外にも自分の世界や役割をもち、さまざまな人との交流があれば、それはシングルキャリアではない。つまり、日本型の長期雇用自体が悪いというわけではないんですよ。
シングルキャリアの問題は、同じ職場にずっといるかどうかではなく、その組織に従属し、どっぷりと浸かりきってしまうマインドにあります。毎日遅くまで残業し、飲みに行くのも、週末のゴルフも同僚とばかり。発想もマンネリ化し、自分の会社や業界の事情しかわからない……。そんな状態では能力が上がらず、個人としても、変化や競争の激しい時代に対応していくことは難しいでしょう。依存しきっている会社が万一倒産したり、買収されたりしたらどうなるのか。シングルキャリアに陥ると、そういうリスクが高まるわけです。
逆に言うと、不確実な時代だからこそ、本業を重んじながらも、無理のない範囲で社会活動に取り組むパラレルキャリアが、そうした将来のリスクへの備えとなる可能性は非常に高いでしょう。NPOなどに参加して、本業だけでなく社会活動からも学びを得ることが、自己成長を促し、環境の変化に対応できる新しい発想やリーダーシップを育ててくれるからです。もっとも、シングルキャリアに依存しやすいという日本的な背景は、ドラッカーが唱えたオリジナルの概念には当然含まれていません。日本だからこそ、パラレルキャリアがより求められるゆえんと言っていいでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。