企業の海外展開の要諦
――グローバル・リーダーに求められる
「グローバル・マインドセット」をいかに醸成していくのか
早稲田大学 政治経済学術院 教授
トランスナショナルHRM研究所 所長
白木三秀さん
なぜ、語学力が重要なのか?
グローバルという観点から、大学で認識している課題には何がありますか。
海外への日本人留学生が減っていることが問題になっていますが、実はもっとショックな話があります。ある有名大学では、日本からの受験生自体の数は変わってないということです。合格者が中国・韓国と比べて、圧倒的に減っていて、学力のレベルが劣っているのが現実なのです。この問題を解消するには、まず語学力を高めていくことが大切ですが、肝心の学生にはその意識があまりないようです。「語学はツールだと思います。ツールなら、通訳を使えばいいのではないですか」と言う学生までいました。しかし、海外赴任する際に、平社員に通訳が付くようなことはありません。言葉は相手とのコミュニケーションを取る重要なツールですから、自ら身に付けることが不可欠です。ツールだからといって、軽く見てはいけないんです。残念なことに、日本人の語学力は世界的に見ても非常に低い水準にあります。
これは社会人でも同様ではないでしょうか。外資系企業でも、英語で議論のできる日本人は少ないように思います。
実際、TOEICで900点を取っても、英語で議論のできない人は非常に多い。それにはいくつか理由があります。議論に参加するには、二つの条件が必要だと思います。一つは、議論の中身(コンテンツ)を知っていること。そのためには、知識や自分なりのアイデアが必要です。もう一つは、議論することに慣れていること。そのためには、小さな頃からのトレーニングの積み重ねが必要です。いくら帰国子女で言葉が話せても、こういったことが身に付いていなければ、外国人との議論にも、ほとんど入り込めません。
そして、このように語学力うんぬんを言う前の段階で、若い人には特に「グローバル・マインドセット」を身につけることが重要だと考えます。ツールとしての語学を身に付けるには、その前の段階であるマインドセットが求められるからです。
簡単に言えば、若い時に海外に行き、いろいろな経験を通じて「世界は本当に広いな」とか、「自分を相対化すると大した存在ではないな」などと認識しなければいけないのです。そのため私のゼミでは、20年前から毎年海外でゼミ合宿を行っていて、10年前からは企業訪問だけでなく、地元の学生と英語でのプレゼンテーション合戦を行っています。
こうした経験を続けてみて感じるのは、日本人は議論に使える語学のレベルが非常に低いということです。その理由は「グローバル・マインドセット」とも関係するのですが、自分を相対化して問題意識を持つということがないから。まずは、問題意識をもたなければなりません。例えば、日本が経済的な面でどれくらい落ち込んでいるのかを客観的に見て、そこから回復していくためにはどうしたらいいのかを考える。そういう問題意識を日頃から持つことです。特に若い頃には、とても重要です。
ところが、日本の学生は非常に居心地の良い状態に置かれていて、あまり海外に行こうとしません。生活環境が非常に整っているから、わざわざ生活が不便な外国に行く気が起こらないのでしょう。アメリカのニューヨークなら行ってもいいかな、といった程度です。外に出て新しいものを見てやろう、何か発見しに行こうという気持ちが学生にあまり見られないのは、とても残念ですね。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。