【改善コンサルタントが教える過重労働対策】
残業削減&企業リスク軽減につなげる
「業務終了命令書」「帰宅命令書」の活用方法
特定社会保険労務士
橋本智明
労働時間をめぐる労使間のトラブルでは、賃金不払い残業(サービス残業)と長時間労働に伴う過重労働(脳心臓疾患、メンタルヘルス障害、過労死、過労自殺等)等が増加しています。
本記事では、筆者の、東京労働局労働時間課に所属し、働き方・休み方改善コンサルタント(以下、「改善コンサルタント」という。平成23年3月までの「労働時間設定改善コンサルタント」)としての経験を生かして、これらのトラブルに対する、残業削減と企業リスク軽減を図るための「業務終了命令書」「帰宅命令書」について、作成方法と活用の仕方を紹介します。
1. 労働時間をめぐる労使間トラブルの現状と企業が抱えるリスク
(1)賃金不払い残業(サービス残業)
全国の労働基準監督署が、平成22年4月から平成23年3月までの1年間に、残業に対する割増賃金が不払いになっているとして労働基準法違反で是正指導し た事案のうち、1企業当たり100万円以上の割増賃金が支払われた事案は、次の通りです(100万円未満の事案は含まれず)。
- 是正企業数… 1,386企業(前年度比 165企業の増)
- 支払われた割増賃金合計額… 123億2,358万円(同7億2,060万円の増)
- 対象労働者数… 11万5,231人(同3,342人の増)
- 支払われた割増賃金の平均額… (1企業当たり)889万円、(労働者1人当たり)11万円
- 1,000万円以上支払った企業数… 200(全体の14.4%)
- 1,000万円以上支払った企業の合計額… 88億5,305万円(全体の71.8%)
- 支払額(多い順)… (1)3億9,409万円(旅館業)、(2)3億8,546万円(卸売業)、(3)3億5,700万円(電気通信工事業)
賃金不払い残業(サービス残業)に関しては、退職者のみならず在籍者からの請求も増加しています。
遡及支払い額の大きさによっては、経営に与える影響は甚大です。
なお、都道府県労働局や労働基準監督署には、労働者や家族の方などから長時間労働や賃金不払い残業(サービス残業)に関する相談が数多く寄せられていることから、労働基準監督署では、労働者などから情報が寄せられた事業場などに対して、重点的に監督指導を実施しています。
(2)長時間労働に伴う過重労働(脳心臓疾患、メンタル障害、過労死、過労自殺等)
東京労働局が、平成23年4月1日から平成24年3月31日に実施した「過労死・過労自殺など過重労働による健康障害を発生させた事業場に対する監督指導結果」を、次の通り発表しています。
監督指導結果の概要
1.監督指導時における違反状況
監督指導を実施した54事業場(過労死26事業場、過労自殺8事業場を含む)のうち47事業場(87%)に何らかの法令違反が認められ是正勧告を行った。
違反率の高い事項は、
(1)労働基準法では、労働時間(同法32条)に関する違反が最も多く、31事業場(違 反率57.4%)であった。
(2)労働安全衛生法では、衛生委員会の設置(同法18条1項)に関する違反が最も多く、7事業場であった。なお、法定で衛生委員会の設置を義務付けられ ている事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場である。監督指導を実施した54事業場のうち31事業場がその対象事業場である。
2.被災労働者に係る健康管理状況
監督指導を実施した54事業場のうち、
(1)21事業場では、過重労働による健康被害を受けた労働者(以下、「被災労働者という」)に対し、発症前1年間に健康診断を受診させていなかった。
(2)19事業場では、被災労働者が発生した時期に、医師による面接指導等の制度を導入していなかった。また、健康診断を実施した被災労働者33人のうち15人に所見が認められた。
(3)6事業場では、発症前に受診した健康診断で何らかの所見が認められた被災労働者に対し、健康診断の事後措置を講じていなかった。
3.まとめ
以上の通り、過労死・過労自殺など過重労働による健康障害を発生させた事業場については労働関係法令違反の比率が高く(一般の監督指導における違反率約71%)、かつ、被災労働者に係る健康管理体制の不備が少なからず認められた。
長時間労働に関しては、過労死、過労自殺等の事件が新聞等でも多く取り上げられ、国民の関心も強くなって います。企業が遺族に支払う損害賠償額が1億円を超えるケースも見受けられます。それに伴い企業の労働時間管理体制が問われるばかりでなく、「ブラック企 業」として社会的評価が定着し、企業業績に悪影響を及ぼすことも考えられます。
さらに「使用者が、労働者が労働していることを知っていた、あるいは、労働していることを知り得る状況にあったにもかかわらず、業務終了命令を明確に発しない」場合には、労働者の自発的残業は使用者の黙示の指示によるものであったとして、未払い残業と扱われたり、安全(健康)配慮義務違反を問われたりするリスクが高まります。
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