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ジョブ型雇用部分導入のメリット
~高度専門職、シニア人材の事例~

三菱UFJリサーチ&コンサルティング HR第3部シニアマネージャー 三城 圭太氏、HR第3部 コンサルタント 諏訪内 翔子氏

近年、ジョブ型雇用の人材マネジメント(以下、ジョブ型人材マネジメント)がさまざまな媒体で取り上げられ、「ジョブ型」に関する議論が活発化しています。ジョブ型人材マネジメントとは組織に必要な職務(=ポジション)を定義し、職務ベースで人材を採用・配置・育成し、担う職務の価値に応じて人材を処遇することです。事業戦略に即した外部人材の採用や、職責に応じた処遇の実現を目指す企業での導入が相次ぎ、人材獲得競争にも影響を及ぼしています。

そこで本コラムでは、人材確保の重要度が高まっている高度専門職(DX人材や研究職等)とシニア人材を対象に、ジョブ型人材マネジメントの導入事例をご紹介します。

ジョブ型人材マネジメントの導入類型

ジョブ型人材マネジメントの導入方法は、「ポートフォリオタイプ」「アドオンタイプ」「全社転換タイプ」「階層切替タイプ」の4タイプに類型化できます(図表1参照)。

高度専門職への導入は、アドオンタイプまたはポートフォリオタイプで実施されるケースが主です。アドオンタイプは、メンバーシップ型の組織を維持したまま、特定職種(単数・少数)にのみジョブ型人材マネジメントの要素を付加的に導入する方法です。現状の人材マネジメントの枠組みを壊さずに追加導入するため、制度移行にかかる時間や調整コストが他のタイプにくらべて省力化され、特定職種の人材確保の手段として即効性があります。

たとえば、労働組合のある企業が若手・中堅の専門職を外部採用する場合、既存の人事制度を変更せずに外部労働市場における価値に応じた新たな枠組みを作れるため、労使交渉が進めやすくなる可能性があります。また、管理職採用の場合でも、自社水準にくらべて市場価値が高いポジションの人材を採用するケースや、短期プロジェクト等に合わせたスポットで人材調達するケースにおいて有効といえます。

【図表1】ジョブ型人材マネジメントの導入類型
【図表1】ジョブ型人材マネジメントの導入類型

(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

高度専門職の導入事例

図表2は、高度専門職に対してジョブ型人材マネジメントを組み入れた事例です。事例Aは、最終的にはジョブ型人材マネジメントの適用対象の拡大(図表1のポートフォリオタイプや階層切り替えタイプ等)を目指していますが、高度専門職へのジョブ型組み入れを改革の初期段階で実施しています。事例Bは、全社としてさまざまな人事施策が実施されている中で、高度専門職向けにジョブ型の雇用区分を新設しています。

【図表2】 高度専門職向けジョブ型人材マネジメント導入事例
企業名 導入目的 導入方法
A.損害保険ジャパン株式会社 「事業戦略の実現に向けて必要とする高度な専門人材の獲得・育成、社員が『なりたい自分』 を実現するための選択肢を増やすことによる自律的キャリア形成の促進」のため
  • 「オリジナルの『損保ジャパン版ジョブ型制度』を導入」
  • 「ジョブ型の従業員区分を新設し、高度な専門人材を必要とする本社の特定領域・部門に導入」
B. 三井住友海上火災保険株式会社 「先行きの見通しが困難な環境下において、DXを推進し、絶えずイノベーションを創出する強固な人財基盤を構築していくことが、持続的な成長にとって必要不可欠」なため
  • 「幅広い経験を重ねキャリアアップする現行のメンバーシップ型制度の長所を活かしつつ、ジョブ型の要素を取り入れることで、それぞれの長所を活かしたハイブリッド型の人事制度を構築」
  • 「高度な専門領域を担う社員を対象に、求める職務・能力や達成すべき目標を明確に定義して、その成果に応じて処遇を決定する、ジョブ型社員区分の『専門社員』を新設」

(出所) 損害保険ジャパン株式会社2022年3月9日ニュースリリース、三井住友海上火災保険株式会社2020年11月4日ニュースリリースの内容を一部抜粋

日本企業における高度専門職の人材ニーズは高まっており、職務内容や専門性の高さ等から決まる市場価値に見合った、さらには事業戦略上で重要なポジションはそれを上回る処遇水準にすることが、人材獲得の優位性を保つ観点では重要です。また、金銭報酬のみならず、プロフェッショナルとしてのキャリアを保証するため、「本人の同意なしでの人事異動がない」といった当該領域の職務に専念できる環境が整備されていること等も、自社の魅力度を高めるポイントになります。

一方で、多くの日本企業が採用してきたメンバーシップ型人材マネジメントは内部公平性を重視した賃金体系で、会社主導の部門をまたぐようなジョブローテーションも行われます。そのような企業が全職種をジョブ型人材マネジメントに変革するとなると、相当の労力が必要です。高度専門職のみに導入する場合と比較すると、時間軸も投入する社内リソースの総量も、大きく異なります。

つまり、高度専門職にのみジョブ型の雇用枠組みを設けることは、スピーディーな外部人材採用・確保を可能にする人材調達の手段と言えます。また、将来的にジョブ型の適用範囲の拡大を検討している企業にとっては、運用のポイント等のナレッジを社内に蓄積できることもメリットです。

なお、ジョブ型で人材を雇用する新会社を設立し、メンバーシップ型とジョブ型で雇用する組織を区別するケースもあります。別会社にする場合は、新たに組織設計・人事制度を検討する必要があり、採用する人数規模によっては投資対効果が低い場合もあります。その一方で、専門職として人材区分を明確にしたマネジメントがしやすく、現制度との整合性や制度移行への配慮が不要になり、スピーディーな採用・育成が可能になります。

シニア人材の導入事例

次は、特定層へのジョブ型雇用適用の別ケースとして、嘱託再雇用社員や定年延長を実施した企業の正社員(以下、シニア人材)への導入事例をご紹介します。

シニア人材を対象にジョブ型人材マネジメントを導入した企業には、どのような目的があったのでしょうか。2社の事例を図表3にまとめました。

【図表3】シニア人材向けジョブ型人材マネジメント導入事例
【図表3】シニア人材向けジョブ型人材マネジメント導入事例

(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

α社は、DX・業務効率化に伴い、非定型業務の担い手としてシニア人材に活躍してもらう目的を掲げた事例です。従来、α社では60歳後は大多数の再雇用社員が定型的な業務に従事し、報酬水準は60歳前の賃金に応じて決定する(減額となる)人事制度を運用してきました。今後、年代別の要員構成に起因して再雇用社員数のさらなる増加が見込まれる一方で、DX・業務効率化によって定型業務は減少することが予想されていました。

そこで、本人の能力・経験のほか、現場の実態やニーズも踏まえ、シニア人材の非定型業務の割合を増やしました。あわせて、シニア人材を対象に職務等級人事制度を導入し、職務や貢献度に応じた処遇の実現を目指しています。

β社は、シニア人材のモチベーション向上に加え、将来全社員がジョブ型雇用へ移行するうえでの先駆けの位置づけとして職務基準の制度を導入した事例です。

β社では役職定年前の55歳までは、メンバーシップ型の人事制度を適用しています。従来の人事制度では、再雇用社員は実態として業務内容は60歳前後で変化がないものの、報酬水準は減額となっていました。そのため、シニア人材に加えて、処遇の変化を間近で見ている55歳前社員のモチベーションやワークエンゲージメントにも悪影響を与えていました。

そこで、このたびの65歳までの定年延長にあわせて、役職定年となる55歳以上社員向けに職務等級人事制度を新たに採用しました。やりがいのある職務や納得感のある処遇を実現し、シニア人材、さらには55歳前社員のモチベーション向上に繋がるよう、職務基準のメリハリのある制度としています。

また、β社では、将来的に55歳前社員も含めた全階層に対する職務等級人事制度の導入を検討しています。比較的小規模で導入できるシニア人材から取り組むことで社内の混乱を避けつつ、最終的に企業全体の人材マネジメント方針を転換することを計画しています。

少子高齢化による若手層の採用競争激化、定年延長導入の機運の高まり等の観点から、今後はシニア人材を事業戦略実現の重要戦力として位置づける企業が増加する見込みです。これまでは、全社的な人件費調整(主には削減)の手段として60歳以降は一律で報酬を減額するケースが主流でした。

今後はシニア人材のアクティブなキャリア形成に資する職域開発や職務に応じたメリハリのある処遇を実現し、年齢に関わらず高付加価値業務を継続できる社員や貢献度が高い社員に報いていくことが重要です。また、その際、リスキリングなどの施策もあわせて検討することが有用です。

一方で、全社的な人材マネジメントの課題解決(たとえば「貢献と処遇の一致」「年功序列・横並び人事の撤廃」「自律的なキャリア形成」)のためには、60歳前の人材も対象に含めた制度改定も視野にいれる必要があります。その手段として、企業全体で職務基準に舵を切るのも1つの選択肢ですし、メンバーシップ型を維持しながら必要な範囲で改善する方法もあります。

いずれの導入方法をとった場合も、自社としての人材マネジメント方針を発信し、それに基づく施策を若年層からシニア人材まで社員のステージに応じて計画・実行する必要があるといえるでしょう。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループのシンクタンク・コンサルティングファームです。HR領域では日系ファーム最大級の陣容を擁し、大企業から中堅中小企業まで幅広いお客さまの改革をご支援しています。調査研究・政策提言ではダイバーシティやWLB推進などの分野で豊富な研究実績を有しています。未来志向の発信を行い、企業・社会の持続的成長を牽引します。
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メンバーシップ型雇用
成果主義
2020年問題
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人材マネジメントバリューチェーン
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