定着と労働条件の微妙な関係
アイデム人と仕事研究所 所長/社会保険労務士
岸川 宏(きしかわ ひろし)
ごとの特徴的な労働条件への不満
勤続意向と仕事へのマインド | 満足/どちらかと言えば満足(%) | ポジティブ定着と満足の差 | |
労働時間 (残業時間含む) |
【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 89.3 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 80.6 | 8.7 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 70.0 | 19.3 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 68.8 | 20.5 | |
給与 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 71.0 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 54.8 | 16.2 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 44.6 | 26.4 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 34.8 | 36.3 | |
仕事量 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 83.3 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 50.0 | 33.3 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 60.8 | 22.6 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 41.8 | 41.85 | |
責任の重さ | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 87.1 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 66.1 | 21.0 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 75.4 | 11.8 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 49.6 | 37.5 | |
仕事の内容 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 93.5 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 51.5 | 41.9 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 85.4 | 8.1 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 35.5 | 58.0 | |
直属の上司 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 78.4 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 48.4 | 30.1 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 63.1 | 15.4 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 33.3 | 45.1 | |
休みの取りやすさ | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 87.0 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 71.0 | 16.0 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 77.7 | 9.3 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 73.0 | 13.9 | |
教育訓練の機会 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 65.4 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 32.3 | 33.1 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 42.3 | 23.1 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 23.4 | 42.0 | |
働きぶりへの評価 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 76.1 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 32.3 | 43.8 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 53.1 | 23.0 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 23.4 | 52.7 | |
職場の人間関係 | 【A】長期勤続意向×仕事ポジティブ | 89.5 | - |
【B】長期勤続意向×仕事ネガティブ | 61.3 | 28.2 | |
【C】転職意向×仕事ポジティブ | 80.0 | 9.5 | |
【D】転職意向×仕事ネガティブ | 45.4 | 44.1 |
タイプ別に、それぞれ特徴をまとめてみます。
●「C」仕事に前向きでありながらも、転職意向が高い
- 不満なのは、「賃金」「評価」「教育」
- 仕事に取り組んでいる分、ちゃんとした評価と処遇を求める
- 自己成長の機会がないと不満につながる
●「D」仕事もつまらない、早く転職したい
- 不満なのは、「仕事の内容」「評価」「上司」
- 仕事そのものへの興味・関心を失っている。要因は様々あると思われるが、仕事に対する評価や評価を行う上司との関係に不満足感が高い
●「B」仕事へのマインドは低いが、勤続意向が高い
- 不満なのは「評価」「仕事の内容」「仕事量」
- 仕事への評価がなく、仕事に対しての興味関心が薄くなる
- 不満に対する“あきらめ感”があるものの、「給与」や「労働時間」、「休みの取りやすさ」「職場の人間関係」の満足度が高く、居心地も良い
ポジティブ定着への共通項
ポジティブ定着に必要な要素として、共通して見えてきたものは「評価」でした。
その人の働きぶりをきちんと評価し、「処遇につなげる」「教育を行う」ことが重要(C)ですし、仕事に対する取り組みが評価されれば、仕事に対するやる気が芽生え、やりがいにつながります(D)。
このように、仕事へのマインドを育てていかなければ、従業員はその仕事を離れていきます。
勘違いしやすいのは、「賃金を上げる」「休みを取りやすくする」「労働時間の融通を利かせる」など労働条件を良くすれば、働きやすい環境が整い、定着してくれるだろう。と考えてしまうことです。
この部分だけにとらわれると、「仕事はつまらないし、やる気もないけど、希望の時間で働けるし、時給もそこそこいいからしばらくここで働こう」といった従業員が定着していくことになります(B)。
“働きやすい労働条件の整備”それだけでは生産性の高いメンバーの定着にはつながらず、制度にタダ乗りするフリーライダーの増加が懸念されます。定着化にとって、よりよい労働条件の整備は欠かすことのできない施策ですが、質の悪い定着化を進めてしまうかもしれない微妙な存在でもあります。
「賃金を上げる」「休みを取りやすくする」といった動機付けだけではなく、「評価」をするということがとても重要です。さらに、不満足要因に、「教育の機会」、「上司」などが含まれていることを考えると、この評価には、処遇に直結する評価制度だけではなく、上司による、成長や成長を促すための励ましなど、内発的な動機付けが必要なようです。
生産性の高いメンバーを揃えていくには、“働きぶりに対する評価(観察し、認め、励ます)”が、絶対条件といえるようです。
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●文/岸川 宏(きしかわ ひろし)
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。1999年、アイデム人と仕事研究所に入社。労働環境の実態に迫る情報提供を目指し、社内・外への情報発信を続けている。2015年4月より現職。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。