最低賃金の改定で平均時給は上がる?
~平成27年度 地域別最低賃金改定によるパート・アルバイトの募集時平均時給への影響について~
岸川 宏(きしかわ ひろし)
西日本の調査対象地域では、「滋賀県」36.9円増、「京都府」31.4円増、「大阪府」18.4円増、「兵庫県」18.1円増、「奈良県」3.5円減、「和歌山県」15.9円減、「岡山県」16円増、「愛媛県」31.8円増、「福岡県」8.7円増と、賃金の上昇は9地域中7地域となっている。
実際に、最低賃金の引き上げが平均時給を押し上げているのだろうか。最低賃金の改定により、募集時賃金の引上げが必要なデータの割合(以下「改定影響率」)を、各地域別に集計してみた。平成27年度の改定前の時期において、改定影響率が最も高かった地域は、「大阪府」の36.9%。実に4割近くの賃金データが最低賃金を下回る状況だ。他、改定影響率が高かった地域は、「神奈川県」34.1%、「京都府」20.9%、「東京都」18.3%、「兵庫県」12.0%、「千葉県」11.8%、「埼玉県」10.3%と続いている。
最低賃金の引き上げにより、賃金を引き上げざるを得ないケースが多いほど、平均時給の押し上げに大きな影響を与えそうではあるが、「東京都」のように最低賃金の改定により引き上げざるを得ない割合が高くても、平均時給は下がることもある。一概に、最低賃金の引き上げがその地域の平均時給を押し上げるとまでは言えないようだ。
最低賃金の引き上げによる影響は?
パート・アルバイトの募集時時給は、50円単位で決定されることが多い。茨城県を例にみてみると、750円、800円、850円、900円・・と、50円刻みでデータが分布している様子がわかる。また、地域別最低賃金額が800円に満たない地域では、800円が募集時賃金のボリュームゾーンとなっている地域が多くなっている。最低賃金の改定額が、ボリュームゾーン(800円)の下に位置するときや、50円単位(750円、800円、850円など)の数値をまたいだ改定ではない場合(例えば751円~799円の範囲での改定)は、その影響も少なくなることが多い。
しかし、最低賃金が800円を超える額に近づいてくると、パート・アルバイトの賃金を改定に合わせて引き上げざるを得ない企業が増えてくるため、その影響は大きくなってくる。大阪府を例にとってみると、平成26年度の大阪府地域別最低賃金は838円。この最低賃金の適用を受ける平成27年7月~9月期における、募集時の賃金額で最も多い額は850円台で、大阪府の賃金データに占める割合は17.2%だった。
平成27年度大阪府地域別最低賃金が改定され、改定額が858円となると、最も多い賃金額は860円台となり、その割合は27%に上った。これは大阪府の賃金データの4分の1以上を占めるまでになっている。最低賃金額をわずか2円上回る額に設定せざるを得ない企業が多く、各社の切迫感が伝わってくるデータだ。
裏を返せば、一定数の労働者にとっては毎年賃上げが実現される状況ともいえる。現在、多くのパート・アルバイトが最低賃金ギリギリの860円近辺で雇入れされている可能性が高いとすれば、平成28年の改定によって賃上げを行なうことが必須となるということになる。いわば、最低賃金の改定によってベースアップが行なわれるといった状況だ。最低賃金の引き上げは、賃金額の平均を押し上げると言うよりは、底上げに貢献する役割が大きいと言えるようだ。こういった現象は大阪府をはじめ、上述の「京都府」「東京都」「兵庫県」「千葉県」「埼玉県」で起こっている。
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