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『ビジネスガイド』提携

問題社員
“人手不足時代”の現実的な対応策

杜若経営法律事務所 パートナー弁護士 岸田 鑑彦

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4 問題社員対応の検討ポイント

ここからは具体的な事例に即して、問題社員への対応にあたっての検討ポイントを解説します。

具体例1 取引先の担当者と口論となり、「出入り禁止」と言われた

●検討すべきポイント

・本当に従業員だけに非があるのか
・出入り禁止に拘束力はあるのか
・従業員が取引先に抗議する可能性があるか
・出入り禁止になったことを本人にどこまで伝えるべきか
・出入り禁止は配置換えの理由になるか
・懲戒処分をしても問題ないか

取引先から「出入り禁止」と言われてしまうと、本当に従業員だけに非があるのかという議論はあるものの、事実上、取引先の意向を尊重して、担当の変更や配置換えを検討せざるを得ません。

しかし、従業員から、「むしろ先方の担当者の対応が悪かった。自分に非はない。先方に抗議する」と言ってくる可能性も想定しなければなりません。そこで、従業員の感情を害さないよう、頭ごなしに従業員を責めるのではなく、きちんと従業員に事情を確認すべきだと言えます。

ビジネスガイド:問題社員 “人手不足時代”の現実的な対応策

なお、従業員に対して、出入り禁止になった事実をどこまで伝えるかも慎重に検討すべきです。もちろん、再発防止のためにはきちんと事実を伝え、注意指導する必要があります。しかし、従業員が感情的になっており、取引先に抗議(組合員の場合は組合経由で抗議)するなどして、取引先を巻き込んだ話になってしまうおそれもありますので、会社と取引先との関係がどの程度強固なのかという要素も考慮しなければなりません。

個人的には、取引先との間でどちらに問題があったかはともかく、争いになってこじれている以上、このままでは円滑な業務の遂行ができないという経営判断のもと、担当替え、配置転換を検討するのはやむを得ないと考えます。

事実関係に争いがあるような場合は、懲戒処分を課すよりも、まずは、円滑な業務遂行という観点からの配転を検討すべきでしょう。

具体例2 従業員同士で口論となり、相手を殴ってしまった

●検討すべきポイント

・仕事中の喧嘩か否か
・警察を呼んだほうがよいか
・「警察に届け出たい」と言った場合にどう対応するか
・従業員同士の口論にどこまで会社が関与するか
・懲戒処分の程度、配置をどうするか

従業員同士の口論から喧嘩になり、相手を殴ってしまったというような場合、まずは、仕事中であったのか休憩時間中であったのか、業務に関することがきっかけなのか、それともまったく関係のない個人的な問題がきっかけなのか等、業務との関連性を確認します。

周りが間に入って収まりがつけばよいのですが、それが難しいような場合、警察を呼ぶということも検討しなければなりません。大ごとにしたくはないという考えも当然ありますが、双方の感情の対立が激しくなっているような場合やさらなる被害が生じそうな場合には、むしろ警察に来てもらい事態を収拾してもらったほうが、会社としても「これ以上の被害が生じないための配慮を尽くした」と言いやすくなります。

被害従業員が警察に「被害届を出したい」といった場合、会社がそれに対して思いとどまるよう説得する必要はありません。被害届を出すか否かは個人の判断に任せたほうがよいでしょう。もちろん、会社としても、「同じ職場なのだからまずは話し合って解決できないのか」と説得するのはよいと思いますが、「被害届を出すな」というような言い方をしてしまうと、後々、「会社から強要された」、「被害者なのに、会社からそのように言われてさらにショックを受けた」等と言われる可能性もあるので避けてください。

従業員同士の喧嘩であるにしても、業務に関連して生じたのであれば、使用者責任や安全配慮義務違反の問題に発展する可能性があることからすれば、会社は本人同士の問題であるとして関与しないという態度ではなく、むしろ間に入って話を聞くという姿勢をとるほうがよいと考えます。

具体例3 会社の小口現金を横領していた

●検討すべきポイント

・客観的証拠の有無
・本人の供述は録音しておく
・具体的な横領の手口を話してもらう
・完全に否認した場合の対応
・告訴、被害届の検討
・退職勧奨の検討
・弁済合意書の作成

横領事案の場合、横領したと「思われる」とか、横領した「はずである」というレベルでは、横領したことを前提とした懲戒処分に踏み切るのは避けてください。まずは本人が横領を認めているか否かが重要です。

本人が認めている場合には、どのような理由で、いつ、どういった方法で横領したのかを話してもらう必要があります。単に「自分がやりました」だけでは、後になって「やっぱりやっていません」と言われたときに困ります。「やりました」という発言だけで安心せず、具体的な動機や方法まできちんと本人から聴取すべきです。

これに対して、本人が否認した場合は、帳簿や関係者からの裏付け、お金の流れの特定、防犯カメラの映像等、客観的な事実がないと、様々な弁解により言い逃れされてしまう可能性があります。そこで横領事案については、疑いが生じた時点で、まずは客観的な資料の調査や裏付けを取ることを最優先で行います。先に本人に質問してしまったら、会社の動きに気づいて証拠を隠滅されてしまう可能性もあるからです。

それでも否認し続ける場合は、横領があったことを前提とした懲戒処分はしにくいので、退職勧奨も検討すべきでしょう。金額にもよりますが、そのような疑いがある以上、今後もその従業員との信頼関係は築きにくいためです。

また、被害届を出したり告訴したりすること自体は自由ですから、受理されるか否か、実際に調査がどこまで進むかはともかく、警察に相談されることも検討してよいと考えます。

逆に、従業員が横領の事実を認めて、今後返済をしていくという話になれば、きちんと弁済契約書を取り交わしておきましょう。

◆債務の承認および弁済契約書

債務の承認および弁済契約書

●●株式会社(以下、「甲」という)、従業員××(以下、「乙」という)と連帯保証人△△(以下「丙」という)とは、以下の通り債務の承認および弁済契約(以下、「本件弁済契約」という)を締結する。

第1条 甲,乙および丙は,次の事実を確認する。
(1)乙は、平成  年  月  日から甲の従業員として勤務していたところ、平成29年●月●日および●日、自己の用途に費消する目的で、レジスター内の小口現金を抜き取った。
(2)乙が抜き取った金額の総額は、現時点で確認できた限りで、金●●円である。
第2条 乙は、甲に対し、前条の損害賠償債務として、本日現在、金●●円の支払義務(以下、「本件債務」という)があることを認める。
第3条 丙は、甲に対し、本件債務について連帯保証する。
第4条 乙および丙は、甲に対して、連帯して、第2条に定める金員を、平成29年●月●日から平成29年●月●日まで、毎月末日(末日が土日祝日の場合は、その直前の営業日)限り、以下の銀行口座に振り込んで支払う。その振込み手数料は、乙および丙の負担とする。
振込口座:普通預金 口座番号 XXXX
名義人 ●●●●
第5条 乙および丙は、甲に対し、前条の分割金について、増額して支払うよう努力する。増額して支払われた金員の充当については、前条に定める支払時期が後のものから充当し、早期完済に努めることとする。
第6条 乙または丙が、次の各号のいずれかに該当するときは、乙および丙は、当然に期限の利益を失い、甲に対し、連帯して、第2条の金員から既払金を除いた残額およびこれに対する年14.6%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
(1)第4条に定める分割金の支払いを怠ったとき
(2)差押え、仮差押え、仮処分その他強制執行もしくは競売の申立て、または公租公課の滞納処分等を受けたとき
(3)破産、民事再生の手続きの申立てをし、あるいは申立てを受けたとき
(4)信用力に、著しい低下または影響を及ぼす重要な事情変更があったとき
(5)上記(1)ないし(4)に定めるほか、本件弁済契約に定める条項のいずれか1つでも違反したとき

本件債務の承認および弁済契約の証として、本書3通を作成し、各自1通を所持する。
平成29年●月●日



ビジネスガイド表紙
『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2017年10月号の記事「問題社員“人手不足時代”の現実的な対応策」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】

  • ◎岸田 鑑彦(きしだ あきひこ)
    第一東京弁護士会所属。杜若経営法律事務所(旧 狩野・岡・向井法律事務所)パートナー弁護士。労働事件の使用者側の代理人を務める。労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。社労士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」等数多くの労働関連紙誌に寄稿。著書に『労務トラブルの初動対応と解決のテクニック』(日本法令)がある。

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