世界で大反響を巻き起こした
“強みを伸ばす”新たなリーダーシップ開発法が
人と組織の継続的な成長を可能にする
世界14ヵ国で60万人以上に読まれている、グローバル・マネジメント誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』で大反響を巻き起こした「飛びぬけたリーダー」論文の執筆者であり、リーダーシップ研究の権威であるジャック・ゼンガー博士。同氏が開発した、20万件以上におよぶグローバルリーダーのビッグデータ結果をもとにした「飛びぬけたリーダー」プログラムは、世界に驚きを与え、その効果性により日本でも注目を集めています。本記事では、来日したジャック・ゼンガー博士と、「飛びぬけたリーダー」プログラムを導入した三井物産人材開発株式会社 人材開発部の濱田一人さんとの対談を通して、「日本企業において、飛びぬけたリーダーを育てていくために必要なこととは何か」「本プログラムは従来のリーダーシップ開発法と何が違うのか」を解き明かしていきます。
- 濱田一人(はまだ・かずと)
1985年生まれ。大学卒業後ゼネコンでの経験を経て現職に至る。前職では、営業事務として複数現場の総務的役割と各現場のプロジェクトマネジメントに従事した。大勢の関係者が一つの建物を作り上げる現場の底力と人材育成の重要性を強く感じ現職に至る。現在は海外支社支店、および国内外の関係会社の育成支援に従事しプログラム開発や講師など、研修全般に携わる。
- ジャック・ゼンガー
経営学博士。コンサルティングおよびリーダーシップ開発を通じて組織パフォーマンス向上を手がけるゼンガー・フォークマン社の共同創業者・CEO。50年以上にわたってリーダーシップ研究と開発に従事し、著書やフォーブス誌、ハーバード・ビジネス・レビュー誌への寄稿も多い。講演者、コラムニストとしても知られる、リーダーシップ開発と組織行動論における世界的な権威である。起業家、大企業の経営者、学者・教育者としての経歴を持つ。1977年ゼンガー・ミラー社を創業。1991年までCEOを務めてウォール・ストリート・ジャーナル紙の「優れたリーダーシップ開発を提供する企業トップ10」に選ばれる企業に育てた。その後、21の人材開発企業を有する企業グループのトップを務めたほか、教育者として南カリフォルニア大学やスタンフォード・ビジネス・スクールで教鞭をとった。近年では人材開発における名誉の殿堂に迎えられ、HR.comによる『今年のトップ・リーダー賞』や、ISAの『影響力のあるリーダー賞』、ATDが長年の功績を称えて贈る『職場の学習とパフォーマンス賞』など、多くの賞を受賞している。
有能なリーダーを得たいと思うなら
若いうちからリーダーシップ教育を始めるべき
まずは、濱田さんから三井物産グループにおける「人材育成」の考え方や方針についてお話しいただけますでしょうか。
濱田:三井物産は、旧三井物産創立当時から掲げている「人材主義」を現在も引き継いでいます。よく「人の三井」と言われるように、人材が企業にとって最大の資産であると考えているのです。重視しているのは、仕事を通じて人を育てていくこと。私たちが行う研修も「経験学習理論」をベースにしていますが、それは“現場でこそ人は育つ”と信じているからです。三井物産では連結で約4万4000人の従業員が働いていて、グループ会社は海外66ヵ国・491社にのぼります。三井物産およびグループ会社の人材育成を支援し、継続的に人が育つ場をつくっていくことが、私が所属する三井物産人材開発のミッションです。
ゼンガー:三井物産の人材育成の方針に賛同します。「仕事を通じて人を育てていく」「経験を通じて人を伸ばす」という考え方は、心から共感できるものです。私が長年テーマにしているリーダーシップは、結局、どう行動するかという問題です。人の行動を変えるためには、経験を与える必要があります。その人の気持ちに変化が生じる、あるいは思考のプロセスを変えるような経験をすることによって、人は変わっていくのだと思います。
濱田:「経験を通じて人を伸ばす」という意味では、三井物産には若手海外派遣プログラムがあり、若手社員が、例えば諸外国の言語や文化を習得する機会があります。語学力を磨くだけではなく、現地での仕事を通して海外の文化を学び、コミュニケーションスキルを身につけていくのです。国内においても、入社から3~4年でローテーションを意図的に行って経験の幅を広げたり、社内でスタートアップを立ち上げたりするような動きもあります。
海外就業やジョブローテーション制度などは、若手にとって貴重な経験を積む機会になりますね。若いうちから管理職に登用されるケースもあるのでしょうか。
濱田:若いうちから管理職に挑戦してもらいたいという気持ちはあります。最初に管理職に就くのは40代以降が多いですが、30代半ばで関係会社の社長を担う社員もおり若年化が進んでいます。ただ、リーダーシップという観点でいうと、管理職だけがリーダーシップを持つべきとは考えていません。役職や階層にかかわらず、全員がビジネスを主体的に動かしていく存在であり、責任を持って最後までやり抜くリーダーであって欲しいと考えています。
ゼンガー:上から下まで組織にいるすべての人がリーダーであるべきというのは、本当にその通りですね。そして、ここで強調しておきたいのは、リーダー教育は“早くから始める”ことが非常に重要だということです。アメリカの企業では、大体27歳くらいで最初の昇進があると言われています。ただ、主任やスーパーバイザーになったうちの6割は、リーダーとしての研修や教育を受けていないというデータもあります。役職に就いても10年ほどは、ちゃんとしたリーダー教育を受けないまま仕事をしている。有能なリーダーを得たいと思ったら、早い段階から教育を始めることです。若いうちから育てていくことがとても重要です。
日本では年功序列の風土が残っている企業も少なくなく、ベテランの管理職が仕事を抱え込み、若手に権限委譲できていないという課題もよく聞かれます。そのような企業が生まれ変わるためには、どのようなアプローチが有効でしょうか。
ゼンガー:日本企業の多くで長きにわたって年功序列の風土が根づいてきたことを知っていますし、その風土を変えることが難しいこともわかっています。短期間で劇的に変えることは、やはり難しいでしょう。
リーダーを育てるということは、ただリーダーとしての心構えを身につけさせればいい、というわけではありません。リーダーとしての“スキル”を身につけさせていくことが重要です。若手や部下に仕事を与えることもスキルの一つです。どんな仕事を任せるのか。なぜ任せるのか。どんな結果を期待しているのか。仕事を任せるのにも、いくつかのステップがあります。どのように部下に仕事を任せたらいいのか、リーダーに考えさせたり、リハーサルをさせたりする必要があるでしょう。試行錯誤しながら仕事や権限を委譲する経験を積み重ねて、徐々にできるようになっていくものです。
同時にリーダーの上司や、シニア・エグゼクティブレベルの管理職が「大きな仕事を若手に任せていく」と公言することも大切です。若手に仕事をわたして、育てていくという方針を立て、その取り組みを応援することを伝え、実際に自分たちも実践していることを見せていく必要があります。最も望ましいのは、年配者と若手がお互いにいろいろなことを教え合う関係性を築くことです。たとえば、年配の人たちよりも若い人たちのほうがデジタルテクノロジーに強いですよね。デジタルテクノロジーのことは、50代の人は、20代にかないません。「年齢の垣根を越えて、お互いに学び合えるんだ」というメンタリティを持つことが、組織を前進させるファーストステップになるのではないでしょうか。