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人材コンサルとITビジネス二つのバックグラウンドで起業 
HRテクノロジー業界のエコシステム創造をめざす

Thinkings株式会社 代表取締役社長

吉田崇さん

吉田崇さん(Thinkings株式会社 代表取締役社長)

優秀な人材の確保がすべての企業にとって最優先課題となりつつある現代。多彩な採用チャネルを一元管理し、進捗状況をわかりやすく可視化できる「採用管理システムsonar ATS」がシェアを伸ばしています。開発・提供元はThinkings株式会社。HRテクノロジー関連サービスの検討から導入にかかる時間や手間を軽減するHRマーケットプレイスサービス「sonar store」もリリースするなど、注目を集めています。人材コンサルとITビジネスという二つのバックグラウンドを活かして起業した代表取締役社長の吉田崇さんに、これまでのキャリアと創業の経緯、同社サービスの特色と今後の展望、日本企業の人事やHRサービス業界の現状と課題などについてうかがいました。

プロフィール
吉田崇さん
Thinkings株式会社 代表取締役社長

よしだ ・たかし/早稲田大学政治経済学部を卒業後、人材コンサル企業を経て、2005年に双日株式会社へ入社しITビジネスに携わる。2008年、米国駐在。2010年、双日とKDDIの合弁企業「CJSC VOSTOCKTELECOM」のINSPECTOR(監査役)就任。2013年、イグナイトアイ株式会社を設立、代表取締役に就任。2020年、経営統合によりThinkings株式会社を設立、代表取締役社長に就任。

ベンチャーで採用コンサル、大手商社で情報通信ビジネスを

大学在学中から現在の事業につながる経験を積まれてきたそうですが、どのような学生時代を過ごされたのでしょうか。

私が学生時代にもっとも熱中していたのはバンド活動です。音楽とアルバイトと麻雀が中心の生活で、よく勉強する最近の学生の皆さんとは大違いでしたね。バンド活動の中でDTM(デスク・トップ・ミュージック:コンピュータによる音楽制作)をやりたいと思い、当時発売されたばかりで人気だったアップルのiMacを買ったことが大きな転機になりました。iMacを使って音楽やCDジャケット、バンドのWEBサイトなどをつくっているうちに、クリエイティブ全般に興味を持つようになったのです。もっと極めたいと考え、大学と並行でデジタルハリウッドという専門学校にも通うことにしました。

専門学校の学費を稼ぐために始めたのが、リクルート出身の方々がつくった採用コンサル会社でのアルバイト。当時、企業の採用活動には入社案内のパンフレットや採用ウェブサイト、ポスター、ダイレクトメールなど大量の制作物がつきものでした。そういった採用ツールをコンピュータでつくるクリエイティブ分野のアルバイト募集だったのです。専門学校に来ていた学生向けの求人に応募しただけで、人材業界についてまったく知識はありませんでした。

人材業界で実際に働いてみて、いかがでしたか。

クリエイティブの仕事自体はおもしろかったのですが、それ以上に経営陣からビジネスの考え方を学べたことが大きかったと思います。それまでデザインは、洗練されていて格好が良いものがいちばんだと考えていたのですが、デザインは目的達成のためのツールだと教わりました。採用活動で使うものなら、応募者を増やし、その質を上げるデザインでないと意味がありません。

20名程度のベンチャー企業だったので、アルバイトでも経営陣と話す機会はたくさんありました。そのうちビジネスにおける目標設定や課題設定の方がより深くておもしろいと感じるようになり、アルバイトからインターンシップに切り替えて仕事を続けました。徐々に企画や営業の仕事に関わらせてもらうようになり、大学卒業後はそのまま就職して働くことにしました。

実は就職活動をして大手企業から内定をもらい、入社承諾までしていたのですが、最終的にインターンで働いていた採用コンサル会社に入社することにしました。理由は、仕事がおもしろかったから。いつか自分でもビジネスをつくりたい、起業したいと思うようになっていました。大手と比べると設備も制度も何もない環境でしたが、将来自分が起業するための勉強だという思いがあったので、まったく苦にならなかったですね。会社の看板は借りるが自分は起業したのだという意識で働いていました。約3年半在籍して、ビジネスの一連の流れを身につけることができました。

吉田崇さん(Thinkings株式会社 代表取締役社長) インタビューの様子

この後、大手総合商社の双日に転職されます。どういった経緯だったのでしょう。

1社目の会社は、私が退職する直前に従業員数100名超、年商約20億円にまで成長していました。ビジネスをその規模にまで育てていくイメージは持てるようになっていましたが、世の中には年商1000億円、1兆円という企業もあります。そういう規模のビジネスをどのように創るかイメージできないと思っていたところ、たまたま縁のあった転職エージェントに双日を紹介されたんです。「これまでとは違うスケールでビジネスを経験できる良い機会だ」と考え、転職を決めました。

配属は新規事業、特に情報産業系のビジネスを担当する部署でした。当時の双日は日商岩井株式会社とニチメン株式会社が統合して新会社になったばかり。アジア通貨危機の影響で両社ともそれまで手がけていたIT系関連会社の多くを手離してしまった経緯があり、双日は総合商社でありながら情報分野が弱いことが課題になっていました。それを再構築するのがミッションだったので、まさに私がやりたかった仕事でした。ITビジネス自体は未経験でしたが、まだ20代半ばだったので第二新卒のようにチャレンジさせてもらえたのだと思います。

双日ではどのような仕事が印象に残っていらっしゃいますか。

現在の仕事に直接影響しているのは、米国のシリコンバレーに駐在した経験です。双日が出資する新興IT企業との窓口になり、ビジネスのディベロップメントを担当しました。起業があたりまえのカルチャーの中で1年半過ごし、自分のやりたかったことを再確認できました。

印象に残っているのは、うまくいった案件よりも最終的に成果につながらなかった案件です。当時、アメリカの企業が保有するサーバーの運用・管理を、インドの多数のエンジニアによって遠隔で行おうとする企業があって、非常に可能性を感じていました。自身が担当し、双日から出資したのですが、クラウドの普及でビジネスモデルの修正を迫られ、さらにはリーマンショックの直撃もあって、撤退せざるをえませんでした。ところがその後、その企業はクラウド上のアプリケーション管理で業績を大きく伸ばして大成功したんです。大変悔しい思いをしましたが、ビジネスにおける見極めの難しさを学びました。

逆にうまくいったのは、国内ですが、さくらインターネット社のTOBです。北海道にデータセンターを立ち上げようとしていた同社に第三者割当で資本参加し、さらに友好的TOBで双日のグループ企業になっていただきました。その後、日商エレクトロニクスに出向して同社のデータセンターのサービスをつくるお手伝いもするなど、とても良い関係を築くことができました。双日では約8年間働き、他にもさまざまなIT関連ビジネスに関わりました。

ビジネスパートナーとの信頼関係で実現した起業

双日を退職して独立しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

さくらインターネットの田中邦裕社長の存在が大きかったと思います。一緒に仕事をさせていただき、本当にすごい人だと何度も感じました。同社は節目ごとにビジネスモデルを大きく変更してきていますが、それも田中社長の先見の明と強い意思によるものです。安定している主力サービスを、自から破壊しにいくようなことはなかなかできません。結果的にさくらインターネットが発展したのは、そのときの経営判断があったからでしょう。

田中社長と私は1歳違いです。同年代の人が難しい意思決定をしているのを見ているうちに、「自分でも事業を起こして、思い描くビジネスに取り組んでみたい」という学生時代からの思いが強くなっていきました。

ビジネスのアイデアという意味では、セールスフォースの影響もあります。シリコンバレー駐在時、多くのサブスクリプション型サービスが営業のプロセス管理にセールスフォースを使っていたのが印象に残っていました。案件管理のやり方や状況を見える化して進捗させる仕組みなど、本当によく考えられていると感心しました。この発想を採用の世界に持ち込んだらおもしろいと気づくのに時間はかかりませんでした。

当時の採用管理システムはどれもいわばExcelの延長線上のようなものだったので、マーケティングオートメーションを実現し、候補者の個々の状況を可視化して進捗させるシステムなら、必ずニーズがあると考えました。起業への思いもビジネスのアイデアも、仕事の中で固まっていったように思います。

2013年に、前身となるイグナイトアイ株式会社を設立。最初は5名でのスタートでした。当面の運転資金はすべて借入でまかなったのですが、その理由は双日時代に多くの出資案件に携わったことで、出資側がスタートアップ側にいろいろな注文や確認をすることを知っていたから。出資する側からすれば必要なことですが、逆の立場になると嫌だろうと考え、自分の会社を立ち上げるときはなるべく外部の資本を入れないようにしようと考えていました。

システム開発のための費用はどうされたのですか。

後に経営統合することになる株式会社インフォデックスと協働できたことが大きかったですね。当時のインフォデックス社長で現在は当社会長の瀧澤暁とは、1社目の採用コンサル時代からのつきあいで、知り合ってから20年以上になります。私が双日に転職してからも、共通の知人を介して何度も会っていました。そういう不思議な縁もあったので、起業する際に協力してもらえないかという話をしました。

当時のインフォデックスはすでに数十名の規模で、広告配信のアドサーバーのビジネスを得意としており、技術力のあるエンジニアがそろっていました。お互いにメリットがあると考え、インフォデックスはシステム開発、イグナイトアイは企画・販売・サポートと役割を分担してビジネスをスタート。開発費用はインフォデックスが負担してくれました。この信頼関係がなければ、「採用管理システムsonar ATS」が世に広まることはなかったかもしれません。

サービスを市場に投入されてからの手応えはいかがでしたか。

サービスの評価は上々でした。提案すると多くの企業が「こんなことができるのか」と驚いていたほどです。手応えは感じていましたが、業績が軌道に乗るまでは苦しい時期もありました。

当社のようなサブスクリプション型のビジネスは毎月少しずつ収益を積み上げていくので、顧客が一定数に達するまでは出ていく資金の方が多くなります。事業計画では顧客増をかなり甘めに読んでいたため、黒字化するまでの期間が思ったよりも長くなり、その間に創業メンバーの二人が離脱するといった苦しい時期もありました。安定したという手応えを感じられるまでに1年半くらいかかりました。

創業から7年後にはインフォデックスとの経営統合に踏み切り、現在のThinkings株式会社となりました。協働プロジェクトとしてスタートしたので、それまでも何度か統合の話は出ていましたが、タイミングがあわずに見送って時期もありました。

2020年の統合実現には、採用管理システムに続く新サービス「HRサービスのマーケットプレイス」、現在の「sonar store」の構想が具体化してきたという背景があります。これを実現させるためには、開発と販売を一体にしたほうが良いだろうと考えたのです。話し合いを重ねて、どちらかが吸収されるのではなく、持株会社の下に両社が事業会社として並ぶことにしました。また、より大きな成長を目指し、創業時には避けていた外部資本の獲得に取り組み、ベンチャーキャピタルの資金を入れて、一気に拡大基調にもっていくことも決めました。

採用管理システムとHRサービスのマーケットプレイスを提供する唯一の存在

貴社の「採用管理システムsonar ATS」の特色をお聞かせください。

最大の強みは、優れた可視化機能です。自社の採用状況が一目でわかるほか、各種分析も簡単にできます。もうひとつの特色は、自動化機能です。オートメーションを自由に設定できるので、少ない担当者でも、候補者一人ひとりにきめ細かい対応が可能です。

今は売り手市場なので、企業は候補者一人ひとりに向きあって対応しなければいけません。当社ではそれを「採用の解像度を上げる」と言っていますが、人事に大きな負担がかかることになります。「sonar ATS」は、その課題を解決するサービスです。個々の候補者の解像度を上げてミスマッチをなくすことが、当社の目標・ビジョンです。

現在注力されている「sonar store」についても教えてください。

採用管理システムを使っていると、さまざまな課題が見えてきます。状況を可視化するツールなので当然のことです。それぞれの課題を解決するためには、必要なソリューションを導入しなくてはなりません。

たとえば、内定辞退が多いとわかったら内定者フォローのサービスを利用する、応募者が少ないなら告知を強化するために媒体を使う、といったことです。しかし、これもひとつずつソリューションを探し、比較検討して導入するなどやっていくと採用担当者に大きな負担がかかります。

そこで、必要なサービスをすべて採用管理システム上で利用できたら便利だと考えました。まさにHRサービスが並んだ市場という意味でのマーケットプレイスです。求人メディア、オンライン面接、連絡ツール、適性検査、データ活用、人事労務管理などの代表的なHRサービスベンダーに参画していただき、顧客企業の課題解決に貢献しています。

吉田崇さん(Thinkings株式会社 代表取締役社長) インタビューの様子

採用管理システムにはさまざまなものがありますが、HRに特化したマーケットプレイスは、ほかにほとんどありません。当社が多くのサービスベンダーを集めることができている理由のひとつは、採用管理システムの専業ベンダーとして、採用広告媒体などの競合サービスを手がけていないこと。また「sonar ATS」は大手企業を中心に1400社以上の導入実績があり、ベンダーには自社で営業できない見込客にもリーチできるというメリットがあります。いくつかの要因が重なり、他社にはないサービスとなっているのだと思います。

現在の日本企業の「人と組織」「人事」の現状や課題をどのように捉えていらっしゃいますか。

経営はビジョンを実現するためのリソースであるヒト・モノ・カネをそろえるところからはじまります。その中でモノやカネは環境の変化により、以前よりも調達することが容易です。一方、難易度が高くなっているのがヒトです。以前はCFOが大切なポジションとされていましたが、現代ではCHROの重要性がクローズアップされています。優秀な人材をそろえられるかどうかに、企業の業績が左右される時代です。

とくに重要なのが、組織づくりの入り口となる採用です。しかし少子高齢化や働き手の価値観の変化、売り手市場の影響などにより、採用はどんどん難しくなっています。

多くの企業が採用に力を入れていますが、トレンドのようなものはあるのでしょうか。

一人ひとりに向き合う採用が求められていることでしょう。例をあげると、2024年度入社の新卒採用において、三菱商事が3月から面接を解禁したことがニュースになりました。採用業界でも話題になりましたが、多様な学生の立場を考えた結果、このような判断になったと考えられます。また「配属ガチャ」という言葉が話題になりましたが、入社前に所属部署を知りたいと考える学生が増えました。それが職種別採用や部門別採用へとつながっています。

候補者一人ひとりに向き合うには、手間も時間も必要です。その問題を解決するために、現在はさまざまなHRテクノロジー関連のサービスが登場しています。近年、特に進化したのはAIの活用でしょう。例えばコロナ禍でオンライン面接が広がり、これまで以上に大量の面接録画データが集まりました。それらを解析して選考の精度をあげていくことも可能になっています。

採用以外で注目を集めているのは、タレントマネジメントです。社内の人材が持つスキルやキャリア、志向などをデータベース化し、リスキリングなどに生かせば、ヒトの課題を解決する新たなソリューションとなります。

多彩なサービスが出現しているHRテクノロジー業界ですが、今後はふたつのシナリオが考えられます。ひとつは1社でHRサービスの全分野をカバーすることをめざす動き。もうひとつは「餅は餅屋」で、セグメントごとに専業の企業が連合を組んでエコシステムをつくっていく動きです。

当社では、後者を志向しています。採用領域では「応募者が少ないので、複数の媒体で募集をかけたい」「内定を出しても競合に流れてしまうので、内定者フォロー研修を取り入れたい」など、課題が多様化している状況です。1社だけで解決策を提示していくことは難しいため、マーケットプレイスによるエコシステムの創造に力を入れているのです。

担当者が使いたいHRサービスがすべて使える仕組みをつくる

仕事をする上で、大切にしているのはどんなことでしょうか。

「自分の行っていることが何につながるのか」「最終的にどういう世界観を実現するための仕事なのか」を、常に意識するようにしています。当社の仕事は、多くの企業が悩む人材の課題を解決することですが、それにより各企業がビジョンを実現できれば、やがては日本経済全体の活性化にもつながります。日々の仕事もそういう大きな動きにつながっているのだと当社のメンバーにもよく話しています。

貴社が今後計画されている動きなどがあれば、お聞かせください。

まずはHRマーケットプレイスの「sonar store」を拡充していくことです。人事が使いたいHRサービスをすべて網羅し、顧客が「sonar ATS」上ですべての課題を解決できるプラットフォームにしていきたいですね。数多くのベンダーと手を組んでいますが、まだ現状には満足していません。

その上で、ヒトに関する企業課題をすべて担えるようにしたいですね。たとえば採用後のオンボーディングなど、組織開発につながるサービス。配属後はOJTに丸投げするのでなく、全体像を可視化し、1年後になっていてほしい姿から逆算して進捗させ、伴走することが大事です。

最後に人材サービス、HRソリューションなどの法人向けサービス業界で働く若手の皆さんに、ビジネスで大切なことや早くから取り組んでおいた方がいいことなど、成功のためのヒントをいただけますか。

私は人材分野、IT分野で仕事をしてきました。二つのバックグラウンドのハイブリッドで、今のビジネスができています。採用コンサルでは、顧客のゴールを設定し、課題をどう解決していくかを叩きこまれました。双日の経験で生きているのは、チームで仕事を創ることや、最先端のテクノロジーを使うと何ができるようになるのかをイメージできるようになったことです。

HRはテクノロジーの導入が遅れていた分野なので、そこにITを持ち込めたことが当社の大きな強みになりました。皆さんもHR領域に加えてもうひとつ何か強みを持てば、そこから新たなビジネスを発想できるのではないでしょうか。何事も組み合わせ、掛け合わせが重要だと思います。

吉田崇さん(Thinkings株式会社 代表取締役社長)

(取材:2023年3月23日)

社名Thinkings株式会社
本社所在地東京都中央区日本橋本町4-8-16 KDX新日本橋駅前ビル5階
事業内容HR Tech事業(sonar ATS、sonar store)
設立2020年1月

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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