「100人いれば、100通りの働き方」を実現
サイボウズでの仕事を複(副)業とする人材を
募集する「複業採用」とは
サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳さん
サイボウズ株式会社 事業支援本部 人事部採用担当 武部美紀さん
価値観が多様化し、これまで誰もが当たり前だと捉えられていたことにも疑問が呈される時代になりました。「特定の会社に100%コミットして働く必要があるだろうか」という投げかけもその一つ。企業向けグループウエアの開発・販売・運用などの事業を手掛けるサイボウズでは、多様な働き方実現への一環として、2017年1月から新たな求人手法である「複業採用」をスタートさせました。この取り組みは日本中の人事の方々から大きな注目を集め、日本の人事部「HRアワード2017」では、企業人事部門最優秀賞を受賞。サイボウズといえば、「100人いれば、100通りの働き方」を人事制度の方針として掲げ、さまざまな施策にチャレンジし続けていることで知られますが、どのような流れで複業採用を実施することになり、どんな効果があったのでしょうか。同社執行役員 事業支援本部長の中根弓佳さん、人事部採用担当の武部美紀さんにお話をうかがいました。
- 中根 弓佳さん
- サイボウズ株式会社
執行役員 事業支援本部長
なかね・ゆみか/1999年、慶応義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事においても制度策定や採用を中心とした業務に従事。法務部長、事業支援本部副本部長を歴任し、財務経理などを含め、これら全般を担当する事業支援本部長に就任。2014年 8月より執行役員 事業支援本部長に就任(現任)
- 武部 美紀さん
- サイボウズ株式会社
事業支援本部 人事部採用担当
たけべ・みき/法政大学卒業後、2005年人材系コンサルティング会社に入社。営業兼コンサルタントとして中小企業の採用教育企画、組織開発を支援。その後、企業ブランディング専業のコンサル会社を経て、2016年にサイボウズ株式会社に入社。人事部採用育成チームに所属。複業採用プロジェクトを担当。
なぜサイボウズは、社員の複業(副業)を自由化したのか
貴社では、2012年から社員の複業(副業)を自由化されました。導入の背景や理由をお聞かせください。
中根:最近は、複業(副業)するといろいろな経験が得られるので、人材育成を目的として、社員に複業(副業)を推奨している会社もあります。しかし、私たちはもっと自然体でした。社員の複業(副業)について考え始めたきっかけは、社員からの問い合わせだったんです。「土日に通っているテニスクラブから『コーチになってほしい』と頼まれたのですが、やってもいいですか」と。
当時の就業規則は厚生労働省の就労モデルをそのまま使っていたので、複業(副業)を一切禁止にしていました。しかし、「なぜ禁止にしなければならないのか」と考えても、正直、理由を見いだせなかったんです。いきなり全てをOKにしてしまうと、どんなリスクが出てくるのかわからないので、許可制にしたところ、いくつか事例が出てきました。例えば、エンジニアからは「技術誌への寄稿を依頼された」「技術書を執筆することになった」などの声がありました。もちろん許可しましたが、「いちいち許可が必要なものだろうか」と考えるようになり、原則としてフリーにすることにしたんです。
フリーにしてから、再度「なぜ複業(副業)を禁止にしていたのか」を考えました。おそらく、「本来の業務をパフォーマンス高くやってもらうには、勤務以外の時間はリフレッシュすべきである」という考えや、「情報漏えいにつながるのではないか」「本業がおろそかになるのではないか」という懸念があったのだと思います。さすがに、そういうケースには何らかの施策を講じなければいけませんが、社内に徹底したのは以下の二つでした。一つは、複業(副業)をする・しないにかかわらず、チームのパフォーマンスや貢献度が下がったら、それを評価に反映させること。もう一つは、サイボウズの資産やノウハウを使用するかもしれない場合は、事前に申請すること。
フリーにしてから、他社で複業(副業)する社員がどんどん増えていきました。そんななか、会社から複業(副業)を許可されているものの、その人がどういう業務でいくらもらっているのかを誰も知らないため、もやもやした状態になっていたんです。そこで、許可した複業(副業)の内容は社内にオープンにして、どのような業務を行っているのかを誰もが確認できるようにしました。すると、本人も周囲から理解を得られるようになりました。
いろいろな価値観や生き方があるなかで、社員にはサイボウズのメンバーとしての時間もあれば、そうではない時間もあります。どう生きようと、個人の自由です。それで、お金が支払われる・支払われないとか、業務の内容にかかわらず、生き方として複業(副業)は禁止すべきではない、と考えたわけです。ただし、チームに対してのパフォーマンスが下がったのであれば、育児や介護、複業(副業)といった理由に関係なく、給料は下げられるべきだと考えています。
複業(副業)を自由化されたことで、どのような効果がありましたか。
中根:社員からよく聞くのは、複業(副業)をすることによって自分が新たな視点を持つことができたとか、新たな学びにつなげられた、ということ。サイボウズとは違う業界を知ったことで、その業界とITをつなぐきっかけを作り出した人もいます。仕事とは、価値創造活動です。複業(副業)をする・しないはあるにせよ、価値創造活動を行う目的は、人によってさまざま。生き方を選択できることが大事ではないでしょうか。