OJTリーダー制度で、
創業130年の企業文化に新しい風を
古河電工が取り組む組織風土改革とは(後編)
古河電気工業株式会社 戦略本部 人事部 人材育成(採用・教育)担当部長
上原 正光さん
組織風土の改革に向けて始まった「OJTリーダー制度」
組織風土改革に取り組むうえで、どのようなことを重視されましたか。
最も重視したのは、「人と人とのつながりを大切にする」ことです。それまで弊社では、「課長として部下とどのように接し、マネジメントすればよいか」という“縦軸”の視点を強調していました。しかし、しっかりとコミュニケーションが取れる組織にするには、上司や部下としてのかかわりだけでなく、「人」と「人」がどう接するか、という“横軸”の視点が必要なのだと感じました。
横軸を強固なものにするために必要なのが、「対話」「共感」「ビジョンの共有」です。当時、コミュニケーションがうまく行っていない組織には、これらが欠けていました。そこで2008年から開始したのが、「ファシリテーション研修」です。一般的に、「ファシリテーション」は会議を円滑に進めるための働きかけを指すことが多いのですが、弊社の「ファシリテーション研修」は、コーチングスキルなども加え、コミュニケーションを活性化させるための考え方とスキルを学ぶことを目的にしています。社員には、否定せずに相手の話を聞き、思いを引き出す力を、まず身に付けてほしいと考えています。
さらに組織の強化には、何か一つのテーマに対して、社員が一丸となって取り組むことが有効だと考えました。そこで弊社では、OJTを通じた新人育成に着目。新人の育成に向けて、組織のメンバーが主体的に取り組み、意見を交わすきっかけにできればと、2010年に「OJTリーダー制度」を開始しました。
OJTリーダー制度は、以前取り組まれていたブラザー制度とは、どのような違いがあるのでしょうか。
かつて導入していたブラザー制度は、異なる部署の先輩社員を新人のメンターとすることで、悩みごとなどを相談できるようにするものでした。確かに、違う部署の先輩であれば悩みや愚痴も言いやすく、メンターとなる先輩社員と新人も親しくなりやすい。しかし、いくら愚痴を言っても、根本的な課題解決にはつながらない、という欠点がありました。
そこで、OJTリーダー制度では、新人との関係を築くだけでなく、新人を成長させるため、組織のメンバー全員でOJTに取り組むことを目指しました。OJTリーダー制度では、まず「OJTリーダー」を選出します。OJTリーダーは、新人の教育係というわけではなく、あくまで組織全体で新人を育成するためのアレンジャー役。例えば、この案件ではAさん、別の案件ではBさんがサポート役をしてください、といったように、OJTに組織をあげて取り組むための旗振り役なのです。
どのような年齢層の方がOJTリーダーを務めることが多いのですか。
部署によってさまざまです。OJTリーダーの条件として決まっているのは、課長職より下の社員の中で、新人に接する人から選出するということだけ。新人教育がOJTリーダー自身の成長にもつながるという考えから、若手がリーダーに選出されることが多いようですが、勤続2年目の若手が務めることもあれば、30~40代の社員が選出されることもあります。幅広い勤続年数の社員が選ばれることで、さまざまな意見が交わされ、お互いの「気づき」になりますし、部署や年齢を超えた斜めのつながりも生まれます。
「課長職以下」としているのは、当初のヒアリングで、課長から「時間がなくて新人教育に手が回らない」という声が多かったからです。いわゆるOJTリーダー的な役割を課長が果たしている企業もありますが、忙しさゆえに中途半端になってしまっては元も子もありません。そこで、忙しい課長を補佐し、OJTリーダーが主導しながら組織のメンバーに育成の負荷を分配しているのです。
とはいっても、育成の責任をすべてOJTリーダーや組織のメンバーにゆだねているわけではありません。新人・OJTリーダー・課長の三者で、定期的に話し合う機会を設けてもらっています。その意図は「課内・部内の教育を推進する責任は、課長にある」と再確認してもらうことにあります。