従業員満足度調査をめぐる状況
従業員満足度調査を通じて、現在の職場環境や担当している仕事、処遇や会社に対する意識などを定期的に把握し、課題改善の抽出と施策展開につなげる取り組みが、今日多くの企業で行われている。働きがいを実感できる職場づくりや、組織力向上への制度活用が期待される一方、陰に潜むハラスメント問題やメンタル不調、不平・不満が引き金となる不祥事などトラブル発生の芽を事前に察知する上でも、従業員の意識・職場満足度を捉える機会づくりはより重要性が増すものと思われる。
大手企業では3割が実施
労務行政研究所が上場企業またはこれに匹敵する大手企業を対象に数年おきに行っている「人事労務諸制度実施状況調査」では、従業員満足度調査の実施率を2004年から調べており、直近の2018年調査では初めて導入企業が3割台に達している[図表1]。
満足度調査を起点に、改革の推進力を高める
現在の仕事や職場環境、処遇や上司との関係性など、さまざまな切り口から意識・満足度を捉える社内調査の実施が広がりを見せている背景として、いくつかの要因が考えられる。
一つとして、顧客満足(CS)と従業員満足(ES)を両輪として位置づけ、従業員のモチベーション向上を通じて顧客への提供価値拡大を図る経営スタンスを社内外に示す企業が増えつつある点が挙げられる。その推進のための課題を、定期的な調査と経年変化の分析を通じて抽出するとともに、課題解決への施策策定・実行を “満足度調査を起点” とする取り組みと位置づけることで、現場での “やらされ感” を抑え、推進力を高める効果も期待できる。
とりわけ、働き方改革に向けたワークルール見直しへの対応が求められる一方、多様な働き方実現へのニーズが高まる今日、自社としてどのような改革を進めるのか、従業員とのベクトル合わせを進める意味でも、満足度調査を起点とするコミュニケーションと取り組みの拡大は、より重みを増していくと思われる。
労務トラブルの抑止へ期待される役割
他方、労務トラブルの未然防止のために、従業員の意識変化に目を配る必要性もより高まっている。2019年度の第198回通常国会では、パワーハラスメント防止のための相談体制整備など、雇用管理上の措置を企業に義務づける労働施策総合推進法の改正案が提出されており、法案どおり成立した場合は改正法の公布から1年以内(中小企業は3年以内)に施行される見通しとなっている。
こうした法的要請を待たず、いじめ・ハラスメント防止への早期対応を進めるために、またメンタル不調や職場・仕事への不満に起因する不祥事発生などトラブルの芽をつむ意味合いからも、職場の状況を把握し社員の声を拾い上げる従業員満足度調査の役割は、さらに大きなものとなろう。
従業員満足度を「成果指標」として捉える
このように、従業員満足度の調査結果や、変化傾向の分析を起点とした取り組みへのニーズが高まる一方、従業員満足度の向上度合いを人事部門や現場マネジメントの成果判定指標として活用する例も見られている。リクルートマネジメントソリューションズが2018年に実施した「人材マネジメント実態調査」(人事担当の管理職208人が回答)によると、「人材マネジメントの成果」を捉える指標に現在用いているものを九つの選択肢から選ぶ設問(複数回答)で「従業員満足度」を挙げた割合は45.7%、今後用いる予定としている割合も34.1%に上り、いずれも最多となっている[図表2]。
こうした中から、人材の定着や組織活性化に向けた課題解決をリードする現場のマネジャー、それを支援する人事部門の担当者に対して、従業員満足度に関わる目標を付与し、企画・実行・検証・改善のPDCAを進める取り組みもこれから広がっていくと思われる。
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