厳選採用から慎重採用へ?
「博士」の採用に二の足を踏む企業
複数企業の条件を比較、検討したい―― 候補者が人材紹介会社に期待する役割
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条件に細かい人は厳しいですよ
私はBさんになるべく不安を与えないように、T社がなぜ直接来社して欲しいと言っているのかを説明した。
「もちろん交渉の代行はしますよ。それについては心配いりません。ただ、手当の説明や将来の昇給モデルなどを、外部には出せない資料もご覧いただきながら詳しく説明したいそうです。ですから、次回はひとまず条件提示を聞いてくるだけでいいと思いますよ」
人材紹介会社を利用する人には、企業に対して直接は行いにくい給与面の交渉などを代行してもらいたいという人が多い。確かに、まだ入社してもいない会社とお金のことで交渉するのは相当に度胸がいる。
「わかりました。ではご指定の日にうかがって、条件提示を聞いてきます」
Bさんはひとまず納得してT社を訪問してくれることになった。そして、当日の夜。T社からBさんに提示したのと同じ金額を書き込んだオファーレターがメールで送られてきた。さっそくT社に電話をかけ、面談の感触を確かめてみる。
「Bさんは何かおっしゃっていましたか?」
「特に問題はないようでしたが、ご家族とも相談したいということでした。返事は一週間以内にお願いしますとお伝えしています」
その一週間後、Bさんから返事があった。
「いろいろ考えたのですが、同時並行で応募していた別の企業にお世話になることにしました。ご尽力いただいたのに申し訳ありません」
転職希望者が複数企業を同時に進めるのは普通のことだ。しかし、T社と一度も交渉することなく、別の会社に決めてしまったのは、紹介会社としてはかなり残念なことである。
「T社の説明はとても詳しくて良かったですよ。でも、もう交渉の余地はないという感じがしたんです。ですから、柔軟に対応してくれた他の企業に決めました」
Bさんの気持ちはもう固まってしまったらしい。T社にBさんの内定辞退を伝えると、やはり最初は嫌な空気になった。しかし、そこはビジネスである。
「わかりました。条件のことを細かく言う方は、弊社では厳しいでしょうね。またよろしくお願いします」
直接提示したいという企業の中には「条件交渉されたくないから」というところも多いと聞く。T社もそんな意図があって直接話しているのだろう。次回以降は、そのあたりも織り込んで人材を紹介しなくてはいけないな……受話器を置きながら私はそう考えていた。
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