厳選採用から慎重採用へ?
「博士」の採用に二の足を踏む企業
複数企業の条件を比較、検討したい―― 候補者が人材紹介会社に期待する役割
人材紹介の場合、面接日の設定など候補者との連絡はすべて人材紹介会社を経由して行う。内定を通知するのも、給与や入社日を調整するのも、紹介会社を通すのが一般的だが、なかには候補者を呼んで直接行いたいという企業もある。「公募を中心に行っているので、その方が慣れている」「候補者の本音を直接聞きたい」など、企業側の理由はさまざまだ。しかし、複数企業の条件を比較、検討して決めたいと考えている候補者は、紹介会社にいわば「代理人」としての機能を期待して利用しているケースも少なくない。
かわりに交渉はしてもらえないのですか?
「条件は、内定したBさんに来社いただいて、その場で直接お伝えしたいと思っています。当社では、人材紹介会社を通した場合も、すべてこのスタイルでお願いしているものですから。問題はありませんよね?」
T社の採用担当者からの電話だった。質問する形にはなっているが、ほとんどそれで進めますという口調だ。T社に人材を紹介して内定にまで漕ぎつけたのは、今回が初めて。紹介会社としても、細かいことでもめて、せっかく内定したBさんに迷惑をかけたくはないという思いがあるので、基本的にはT社の要望通りに対応することになる。
「一般的には私ども人材紹介会社を通していただくのですが、御社の場合はすべて直接内定者と話されているのですか?」
念のため、なぜそうしているのか聞いておくことにした。
「当社の給与規定は複雑で、基本給以外の手当がかなり手厚くなっているんです。他社と基本給を比較すると低く感じられるのですが、決してそうではないことを、直接説明したいのです。それからBさんは20代ですが、当社の給与体系では30代になると急に年収が上がるので、そういったこともご本人に詳しくお伝えしたいと思っています」
それぐらいのことなら紹介会社でも説明できそうな気がしたが、原則論にこだわって企業側を怒らせても意味がない。私はT社から訪問の希望日をいくつか聞いて、それをBさんに伝えることにした。
「そうなんですか……」
電話のBさんはちょっと意外そうな声だった。
「それはその場で了解しなくてもいいんですよね。持ち帰って検討するといっても失礼にはなりませんか? その場で返事をしなかったことで、内定が取り消しになったことは、これまでにありましたか?」
Bさんにとっては初めての転職ということもあり、何が起こるのかよくわからないというのが心配の原因のようだ。さらにこんな不安まで口にし始めた。
「給与交渉などは紹介会社で行っていただけるものと思っていたのですが。これだと、直接応募するのとあまり変わりませんよね」
ちょっとまずいな、と私は思った。