「残業手当」100%支給にこだわる求職者
年収や企業規模よりも「働きやすさ」を重視 残業の常態化は避けたいエンジニアの転職サポート
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デリケートな情報をスマートに聞き出す
とはいえ、もともと残業が多いIT業界だけに、働いた時間分の残業手当をすべて払うという企業はそう多くはない。「働いた時間」ではなく「上げた成果」に対して報酬を支払うという考え方が、業界のスタンダードになっているからだ。
「有名企業ではありませんが、この企業は『残業手当上限なし』となっていますよ」
私はTさんに、ある中堅企業の求人票を送った。以前、人事マネジャーから採用の競合である大手に対抗するために、残業時間の削減に取り組んでいると聞いたことがある。そのための具体策の一つが、残業手当の全額支給だった。
「直接話を聞いてみたいので、ぜひ応募してください」
人材紹介会社の言うことをうのみにしないで、直接企業に確認する。Tさんのこの姿勢はとても素晴らしい。しかし、Tさんがいちばん聞きたがっているのが残業手当のことだけに、面接では少し工夫が必要だと私は思った。
「実はこの会社、残業手当が目的で応募してくる人には非常に厳しいんです」
「そうなんですか?」
企業としては、効率よく仕事をしてもらうために残業手当を導入しているのである。しかし、仕事よりも残業手当が目的で入社してくる社員が増えると本末転倒というのが企業側の考え方だった。
「なんとか悪い印象を与えずに、残業の実態などの情報を聞き出す方法はないでしょうか」
「それを一緒に考えましょう」
Tさんと私は、面接前に時間をかけて対策を打ち合わせた。
一週間後、Tさんの面接が終わった。さっそく企業に電話して面接の感触を聞いてみたところ、採用担当者の声は明るかった。
「本当に良い方ですね。部門長とも意気投合していましたよ」
どうやらTさんの面接はうまくいったようだ。
「特に仕事への前向きな姿勢が良いですね。残業の実態について質問された時には一瞬ハッとしましたけど、その理由が『定時内の業務を効率化しないと残業時間の削減はできない、その効率化のノウハウをぜひ学びたい』というものだったので、そこからいろいろと話が盛り上がっていったようです」
Tさんは2次面接に進むことになった。
「Tさん、今からでも大手企業と併願できますよ。高い年収も期待できます。どうしますか?」
私の問いに、Tさんは即答した。
「先日面接した会社の最終結果がダメだったら考えます。引き続きサポートをお願いします」
年収や企業規模よりも「働きやすさ」を重視する――Tさんの転職目的がはっきりしている以上、余計なアドバイスは不要かなと私は思ったのだった。
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