タイミングを狙った引き止め策? 退職直前で転職を見合わせた求職者
人材を逃したくない企業 有休消化中のアプローチとは……
人材紹介会社の転職相談に来た人が、必ずしも全員転職するわけではない。自分の「市場価値」を知りたいだけの人や職場の不満をぶつけて発散したいだけの人もいる。本当に転職しようとして相談に来たものの、さまざまな理由で思いとどまるケースもある。また、転職先が決まって退職しようとしたが、勤務先から熱心に引き止められ、退職を思いとどまることもあるようだ。
転職活動もできないハードな職場
「いま勤めている会社はブラック企業と呼ばれるようなところで、三年間、頑張ってみましたが、もうこれ以上は限界だと思っています」
Uさんは25歳。大学を卒業して新卒で就職した会社は、全国の店舗を365日・24時間体制で営業しているサービス業だ。
「もちろんそのことは十分理解して入社しました。最初は、とにかく頑張ろうと思っていましたから、忙しいくらいでよかったんです。ただ、それが何年も続くと……やはり先が見えないキツさはありましたね」
長時間勤務、休日出勤だけではなく、人手が足りない店舗の応援のため深夜に車を飛ばすようなこともよくあったという。家に帰れないので仮眠をとって、翌日もそのまま仕事というパターンも珍しくなかったそうだ。そうした職場環境が社会的な問題としてニュースになり、会社は改善を約束したものの、Uさんの持ち場がいつ改善されるのかはまったく見当がつかない。
「先日、退職願を出して、現在は有休消化中です。はじめて先のことを考える余裕ができたので、転職活動を始めました」
話を聞いていてもまじめそうなUさん。新卒が数週間で辞めることも珍しくない時代に、ブラックな環境で三年間も耐えた粘り強さは、他の企業でも評価されるかもしれない。私は次第にUさんを応援したい気持ちになっていた。
「ただ、接客、店舗運営の経験しかないんです。いまの会社では営業と呼ばれていますが、普通の会社の営業とはまったく違うので……」
若手営業の募集はわりとあるが、接客業のみの経験だと「未経験扱い」になるケースが多い。Uさん自身はどんな仕事をしたいのだろうか。
「これまで余裕がなかったので、まったく考えていないんです。転職活動を具体的に考えられるようになったのもこの数日のことなので。インターネットを見ても情報が多すぎて、何が自分に向いているのかよく分かりません。ブラック企業で働くのは絶対に避けたいので、人材紹介会社のプロの意見を聞きたいのです」
確かに、過労死するかもしれないような職場にいたのであれば、働きながら転職活動をする余裕などないだろう。私は第二新卒を対象とする求人にはどんなものがあるのかなど、今の転職市場について最初に説明し、合わせて具体的な求人票も見てもらうことにした。
「こんなにあるんですね。一度じっくり読んでみます」
Uさんはそう言って20数社分の求人票を持ちかえった。