大手企業への「憧れ」を持ち続ける、20代の求職者
失われた20年で生まれた? 希望転職先は“大手”という人たち
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大手がいちばん採りたくない人材?
「新卒の時も大手企業は人気が高かったと思いますが、同じように転職市場でも大手の応募倍率はすごいんです。それだけに、これまで経験してきた業界や職種を前面に打ち出してアピールしていかないと厳しいのが現実です」
Yさんに大手攻略のセオリーを説明すると、そこはすんなりと理解してくれたようだ。
「ある程度の長期戦も覚悟しています」
さらに私は、「大手企業は決してバラ色なだけではない」ということもYさんに時間をかけながら伝えていかなくてはならないな…と考えていた。
たとえば、Yさんは「仕事のスケールが大きい」ことを大手の魅力だと思っている。たしかにそれはあるだろう。しかし、20代の若手レベルで任される仕事の範囲でいえば、中堅・中小の方が幅広いのが一般的だ。仕事全体の規模はたしかに大きいが、それをいくつもの仕事に切り分けて大勢で分担しているので、若いうちからいきなり大きな仕事ができるとは限らない。
また、社内環境が中小よりも整っていることは多いが、同時に社員に求めるものも多いといえる。仕事以外に語学を習得したり資格を取ったりと、大手の社員の方がはるかによく勉強している。しかも、周りの社員も優秀だから同僚間の競争も激しい。大手に入れば「楽ができる」ということはまったくないのである。
しかし、今のYさんにそれを言っても、「大手に紹介するのが面倒なだけではないか」と思われてしまう可能性が高い。幸いYさんは在職中で、仕事をしながら転職活動を行うそうなので、少しずつ話して分かってもらえばいい。
これは、人材紹介会社を利用する人に特有の傾向ではないようだ。ある企業の採用担当者も同じようなことを言っていた。
「面接で志望理由を聞くと分かりますね。大学生の志望理由が画一的なのは、社会経験がないから仕方ありませんが、最近は社会人でも同じような志望理由しか出てきません。もっとも、こちらも『人物重視で採用する』と言いながら、結局はレジュメの内容で選んでいるんですから、どっちもどっちかもしれませんが…」
大手は大手で、世界を相手に厳しい戦いを強いられている時代だ。「大手に入れば安定、楽に仕事ができる」と思っている志望者はいちばん採用したくない人材だろう。その考え方を変えない限りは、大手への転職はできないということになる。
しかし、根本的な考え方が変われば、Yさんは今の会社でもかなり期待されて仕事を任されているのだから、あえて転職する必要はなくなるかもしれない。今回は、Yさんに転職を思いとどまらせるのが私の仕事なのだろう。
人材紹介会社のコンサルタントとしては微妙な仕事になりそうだな…。Yさんとの最初の転職相談を終えて、私はそう思った。
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