人材流動化は「絵に描いた餅」?
人材紹介会社経由のキャリアチェンジにあるハードル
時代にそぐわなくなった古い産業から、次代を担う新しい産業へと人材を移動させるべき、という議論はかなり昔からある。人手不足が常態化する中で、新しいビジネスを盛り上げ、経済を活性化させていくためには欠かせない取り組みだろう。しかし、多くの企業にとって人材紹介会社は「経験者採用」「即戦力採用」のチャネルであり、異業種へのチャリアチェンジをめざす人材の希望になかなか応えられないのが現状だ。
意欲的な人材はいるのだが
「転職理由ですか? 一番大きいのは今の業界に将来性を感じられないことです。すぐに会社が潰れるほどではないと思いますが、10年後、20年後はかなり存続が危うい気がするんです」
世間では安定企業と言われる会社に勤務しながら、こういった理由で転職の準備を始める人は少なくない。古いビジネスから新しいビジネスへ「人材の流動性を高めることが不可欠」といった考え方はビジネス系メディアなどでもよく目にするところだ。そのためだろう、転職相談では成長分野の企業への紹介が可能か質問されることが多い。例えば、相談者からは次のような質問をよく受ける。
「私は今の業界で働いた経験しかありません。同じようなキャリアで異業種への転職に成功している人はいるのでしょうか」
人材紹介会社としては「可能性は十分ありますよ」と言いながらも、続けて「もちろんその方の職種や年齢、これまでのキャリアによります。そして希望や条件に合う企業の募集があるかによって、かなり左右されます」と付け加えることになる。
異業種転職のチャンスが比較的大きいのは、人事や経理に代表される管理部門の経験者だ。一方で営業や企画、マーケティング、技術系の職種などは、業界によって仕事の進め方がかなり異なるので、ベテランになるに従って紹介先が限られてくる。長期戦を覚悟してじっくり取り組むことが重要だ。
転職希望者の多くは、相談に来て初めて、こうした異業種転職の知識を知るようだ。現実を知って、まずはキャリアを強化しようと考える人もいる。
「ゲーム業界でプランニングの仕事をしたいんです。そのために専門学校で学びなおそうと思っています」
前向きな情熱は本当にすばらしいのだが、人材紹介会社としては「転職のための学び直し」はあまりおすすめできない。教育機関で学ぶにはそれなりの費用と時間がかかるが、それに対する企業の評価は十分とは言えないからだ。
また、会社を辞めて全日制の学校に通った場合、その期間を働いていない「ブランク」ととられるリスクもある。企業によっては、学び直しを「一種のモラトリアム志向」とネガティブに捉えてしまうところさえあるのだ。教育機関での学びを積極的に評価しないという日本の企業社会の傾向はまだまだ変わってないのが現状だ。このあたりは欧米を中心とする海外の事情との大きく違う。