「入社辞退されても大丈夫」という会社
はたしてその真意は…
人材紹介会社の紹介手数料は、多くの場合、入社して初めて費用が発生する「完全成功報酬制」である。したがって内定後に辞退されても、企業側には金銭的負担が一切ない。とはいえ、企業も書類選考や面接などでさまざまな手間をかけている。採用が遅れれば事業計画への影響も考えられるため、内定辞退は嫌がられる。ただ、例外的に「辞退されてもいい。とにかくどんどん紹介してほしい」という企業もある。
ある技術系商社の求人
「募集要項のスペックを満たしている人がいたら、とにかく紹介してもらえませんか。仮に弊社を希望していなくても、なんとか面接にまでこぎつけることができればいいんです。入社してくれるかどうかは、私たちが自社の魅力をアピールできるかどうかで決まるわけですから……」
そう言って私たち人材紹介会社に推薦の強化を訴えてきたのは、電子部品商社E社の人事部長だ。同社はセールスエンジニアやサポートエンジニアを常時募集している。
しかし、転職希望のエンジニアには、「研究開発」や「設計」を希望する人が圧倒的に多い。人材紹介会社は、基本的に人材の希望に沿って企業を紹介する。そのためE社には、これまであまり人材を推薦できていなかった。
「紹介人数を増やしていきたいとは思っています。ただ、その人が強く希望していない職種の場合、内定しても最終的に入社を辞退されてしまう可能性が高いと思います。以前ご紹介した方も、そうだったと記憶しています」
E社が採用に力を入れだしたのは、昨日今日のことではない。東証一部上場・好業績・比較的高い給与水準という点を強調して面接のセッティングにこぎつけたケースはたしかにあった。だが結果的に、本来の希望である開発の仕事に挑戦したいという理由で、内定後に候補者が辞退してしまった。
「いいんです。そういうのも織り込み済みですから。あのときも私は怒らなかったでしょう。相手は人間なので、無理やり入社させることはできません。辞退されても、次のチャンスに向かうだけです。何度でも新しい人を紹介してほしいのです」
とにかく自社を直接知ってもらう機会を増やす。どうやら、それがE社の「採用哲学」らしかった。
そもそも、エンジニアの間では、セールスエンジニアやサポートエンジニアの仕事が正しく理解されていないのが現状だ。知識がないから、イメージしやすい研究開発や設計を希望する人が多くなる。E社は人材に直接、自社の仕事のおもしろみをプレゼンテーションする場を得るために人材紹介会社を利用しているようだった。