有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”【第30回】
ユニクロで学んだこと(その3:一流プロ集団と素人役員)
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回、品質問題のために、ユニクロの生産部門が柳井正氏から叱られたことをお伝えしました。そして、メーカー育ちで「答えは現場にあり」と教え込まれていた私は、仲間と一緒に中国の工場へ向かったのです。
全量検品!
洋服の縫製工場ではミシンが何千台も並び、工員が懸命に作業をしていました。さぼっている人間などいません。工場全体を見て回りましたが、ド素人の私には、どこに問題があるのかがわかりませんでした。当然のことではあります。私はスタッフに謝りました。
「ごめん。どこが悪いのか、俺にはまったくわからない」
その上で、配下の部長にこのように聞いたのです。
「でもさ、工場の最終工程で抜き取り検査(サンプリング)をやっているよね? あれ、抜き取りではなく、全量やったらどうなる?」
「不良品が漏れなく発見できるでしょうね。でも、コスト(検査会社の人件費)がかかりますよ」
「構わない。やってみよう!」
そして早速、検査会社と契約をして、全量検品を始めたのでした。
2ヵ月後、お客さまや店舗から上がる品質クレームはなくなりました。品質不良が、ゼロになったのです。ある意味、当たり前のことではあります。工場の最終工程で全量を検査し、不良品はそこではねているのですから。
コストをかけたこの施策には、大きな副次効果もありました。通常、日本のお客さまから品質についてクレームを頂戴した場合、当該商品の中国工場での生産活動はすでに終了しているケースがほとんどです。ところが、検品工程を通して工場内で発見できると、その商品の生産プロセス自体を改善できることになるのです。
社内で「品質不良なくなったねぇ!」と言われれば、生産部門の士気が高まらないはずがありません。職場には明るさが見え始めました。
納期達成率を改善
品質問題と並んで、生産部門が叱られていた大きな理由が納期遅れです。
洋服は、店舗に商品を投入する日から10日ほど前に倉庫に納入し、仕分け作業を行います。「●●店にはポロシャツ白を500着、黒を250着、グレーを150着……」といった感じです。商品を倉庫に届けるべき予定日が生産部門にとっての「納期」となります。しかし、当時の納期達成率は約70%でした。仕分け作業に必要な時間を圧迫していたのです。
またまた、「答えは現場にあり」です。中国へ赴き、工場長に尋ねました。
「どうして納期を守れないのですか?」
工場長は言いました。
「だって有賀さん、〇月〇日が納期ですよね。そこから標準工期で逆算をすると、△月△日までに仕様を決めて発注してくれないと、うちとしては材料の手配や生産準備ができません。しかし、標準発注予定日までに投入されているオーダーは、100%ではないんですよ」
何と、生産プロセスのスタートを遅らせていたのは、ユニクロ本社の企画部門(マーチャンダイザー)だったのです。そこで、標準発注予定日におけるオーダー投入率をレポートにして毎月の部長会で報告しました。当然、会社をあげてその改善に取り組むこととなりました。
そして3ヵ月後には、予定日通りのオーダー投入率は95%にまで上がりました。あとは、工場は標準工期通りに生産プロセスを進めるだけで、商品を倉庫に納める納期達成率も95%にまで大幅に改善したのです。
超一流のプロでも
品質問題と納期問題が解決されたことで、生産部門に対する社内での評価も高まり、職場の雰囲気は劇的に改善しました。とにかく明るくなったのです。
しかし、私は不思議でした。ユニクロは業界のトップ企業です。当然、生産部門にも、この分野のトップクラスの人材が集まっています。一方、私は洋服づくりのド素人。その私が思いつくような品質や納期の改善施策に、超一流のプロがどうして気がつかなかったのでしょうか。
思い当たった答えは、「職場が暗かったから」です。メンバーが下を向いている、会話が少ない中では、「やってやる!」という問題解決に向けての元気や、知恵を寄せ合って相談をするチームワークは生まれません。
そこに思い至った私は、ユニクロの組織体質とは真逆のことをやろうと決めました。何か問題が起こったとき、通常は怒鳴りたくなるような場面でも、自分はガッハッハ!と笑おうと。そして、問題が大きければ大きいほど、大きな声で笑うように努めました。
担当者は、叱られるのではないかと恐れながら、縮こまるようにして報告にくるわけです。そこでリーダーがガッハッハ!と笑うことで、その担当者は緊張とストレスから解放され、問題解決に向けて前向きな気持ちになれます。また、リーダーが大きく笑うことで、「なになに!」と人々が寄ってきます。結果的に、一人が抱えていた問題に対して複数の知恵が集結することになるわけで、解決に向けての近道にもなりました。
この体験から、一流のプロを集め、彼らが仕事をしやすい環境を作ることができれば、自分が素人だとしてもファッション・ブランドの経営ができるのだと思い上がってしまいました。後に、大きなしっぺ返しを食らうことになります。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
リーダーの言動が組織の体質を決めるんだぜ!
さあ、怒鳴るか、それとも笑うか
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。