日本の人事部「HRアワード2022」受賞者インタビュー
企業人事部門 最優秀個人賞 受賞
「四つのE」を大切に。事業起点で進める
日立の人事制度改革10年の軌跡
株式会社日立製作所 代表執行役 執行役専務
CHRO 人財統括本部長 コーポレートコミュニケーション責任者
中畑 英信さん
日本の人事部「HRアワード2022」企業人事部門 最優秀個人賞に輝いた、日立製作所CHROの中畑英信さん。日立製作所の抜本的な経営改革に伴い、人事制度や組織、雇用体系の世界標準化を同時並行で実現し、注目を集めています。大胆なビジネストランスフォーメーションとグローバル人材戦略を推進してきた中畑さんに、これまでの取り組みやリーダーとしての姿勢、今後の戦略や人事のあり方についてお話をうかがいました。
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- 中畑 英信さん
- 株式会社日立製作所 代表執行役 執行役専務
CHRO 人財統括本部長 コーポレートコミュニケーション責任者
なかはた・ひでのぶ/1983年株式会社日立製作所入社。2000年日立アジアLtd.(シンガポール)出向。2008年グローバル事業本部経営企画部長、2011年10月国際事業戦略本部担当本部長、2012年7月インフラシステム社総務本部長。2014年4月執行役常務兼CHRO、2019年4月より代表執行役 執行役専務(現任)。
事業から人のあり方を考え道筋を立てるのが私の仕事
このたびは「HRアワード」企業人事部門 最優秀個人賞の受賞、おめでとうございます。どのようなお気持ちですか。
ありがとうございます。実は9年前、当時の私の上司にあたる山口(岳男氏 人財統括本部 副統括本部長〈グローバル人財戦略担当〉、受賞当時)が、「HRアワード」で表彰を受けています。
当社は2009年に、7873億円もの損失を出しました。それを受けて、中西(宏明氏 元執行役会長)が、抜本的な立て直しに着手しました。中西が特に懸念を抱いていたのが人事力、特にマネジメント力の不足でした。そこで米国の日立グローバルストレージテクノロジーズでも共に働いていた山口氏と二人が中心となり、HRトランスフォーメーションに着手しました。これらの改革を2、3年進めたところで当時のHRアワードの受賞につながりました。
それから10年近く経ち、同じ会社の私が受賞したということで、大変光栄です。前任の山口が示した方向性のもと、実行の部分で認めてもらえたのであれば、とてもうれしいことです。個人賞ですが、全世界にいる日立のHRメンバー6000人が、一生懸命やってくれたから今があります。実質的にはみんなで獲得したものだと捉えています。
日本中心、製品・システムの提供会社という立ち位置でやっていけるのなら、高度成長期の延長上のまま、何も変える必要はなかったでしょう。しかし、高齢化と人口減少を迎えた日本の市場はこの先拡大することが難しくなっていることが明らかであり、製品をつくるだけなら韓国・中国・東南アジアとの差別化を図ることが難しくなっていました。
そこで打ち出したのが、社会やお客さまの中長期的、また将来的な課題を見出し、IoTの駆使によって解決に導き、人をつなげて快適で幸せな社会をつくろうという「社会イノベーション事業」というビジネスでした。これは、日立が長らく培ってきたモノをつくる技術およびオペレーション技術、IT技術を融合させて実現できるものです。そしてもうひとつの改革のカギは、グローバル化でした。世界中のありとあらゆる課題に目を向け、新たな発想と日立の技術で勝負する。これを実現するには、組織の抜本的な改革が必須でした。
どのような観点で取り組んできたのでしょうか。
四つあります。一つ目はダイバーシティ&インクルージョンの推進です。世界中の社会課題、顧客課題を探し出すことは、日本人、かつ男性だけの同質的な組織では無理です。国籍、ジェンダー、年齢、日立以外の経歴の持ち主などの多様な属性、そして多様な見方を持つ人を、経営からプレイヤーまでそろえる必要がありました。二つ目は場所と時間を問わずに働ける環境です。多種多様な人たちでチームを組んで働くことになるので、いつでも、どこにいても仕事ができて、働きぶりをフェアに評価できる人事のシステムが必要でした。
三つ目はプロアクティブであること。かつての当社のビジネスは、日本の電力会社、鉄道会社、通信会社、金融機関が主な顧客層でした。クライアントが「こういうものをつくってくれ」と明確なオーダーを持っていて、ニーズに完璧に対応する姿勢が望まれていました。ある意味、受け身な態度でもよいとされていたのです。しかし今は自ら課題を探し、お客さまの目線に立って潜在的、近未来的な問題を共に解決していこうというスタンスで働くことを目指しています。そうした考えが浸透する文化や風土の醸成は急務でした。
そして四つ目はアジャイルです。社会インフラに関連することは失敗すると大変なことになるので、慎重さが問われる場面もあります。完璧を求めるのか迅速さを取るのか、状況に応じて適切な判断ができることが、社会イノベーション事業では重要だと考えました。
大幅な転換が求められましたね。
目指す姿を形にするには、人事の仕組みそのものを変えなければなりません。それが最初の5年間でした。大きく言えば、人事制度のグローバル化・共通化です。ポジションのグレーディング、パフォーマンス評価、エンプロイー・サーベイを世界共通のものに変更。並行して外国人および女性を積極的に役員へ登用しました。国内では管理職のジョブ型雇用を導入。タレントマネジメントシステムの整備も進め、2021年にはすべての職種をジョブ型雇用に転換しました。
この10年の間に、経営は大きく変わりました。事業再編を進めた結果、ポートフォリオの3分の1が変わり、売上比率の6割、それから従業員数の6割は海外が占めています。グループ会社は8割が海外の企業です。ちなみに本社グローバル人財部門は90人のうち、半数は外国籍のメンバーが占めています。
役員の顔ぶれも多様性を深めた結果10年前とは大きく変わってきています。2013年当時は全員が男性で、外国人は2人しかいませんでしたが、今では外国人が13人、女性は9人にまで増えています。それでもまだまだです。2030年までに外国人・女性ともに30%の比率にすることが目標です。
中畑さんご自身は、どういう思いで変革に臨んだのでしょうか。
中西がよく「CHROとは経営者だ」と話していました。経営や事業の方向から人や組織がどうあるべきかを考え、制度や施策に下ろしていくべきだということですね。その意味で言うと、社会イノベーション事業とグローバル化というビジネスモデルの転換に対して、どういう人が必要だろうか、どんな仕組みがあれば求める人財が活躍できるかとずっと考え続けてきた10年でしたね。
振り返れば、自分で手を挙げた2度の異動が大きく影響していると感じます。1回目の異動は、2000年から4年間滞在したシンガポールへの赴任です。HRマネジャーとして赴任して早々、25%という退職率の高さに驚きました。当時の日本の日立製作所の退職率は、わずか1.5%でしたから。
もともとジョブ型雇用が定着していて人材流動性が高く、転職自体がキャリアの証明になるような土地柄です。だから日本のような終身雇用と年功序列を前提として、みんな一律で評価し昇進、育成や投資も平等という方式は、まったく通用しません。好景気が後押ししていたこともあり、直属の部下ですらいつ辞めてしまうかわからない状況。いなくなると仕事が回らなくなってしまうので、どうしたら続けて働いてもらえるかと私も必死でした。
最初は戸惑いましたが、当たり前だと考え直しました。彼らは自分の市場価値を高めようと、仕事が終わると夜は勉強に励むんですね。自分のキャリアや人生を会社に依存しないので、ある意味健全に感じました。
2回目の異動は2008年からの4年間、国際事業戦略本部で新興国事業の経営企画に携わりました。この期間は、事業部の視点で人事を考える機会になりました。事業部側の人間になると、もっとグローバル人財を採ってほしい、人を動かしてほしいなどと、人事に対して思うことが出てくるわけです。人事と事業の乖離はこうして起こるのかと感じましたね。
この2回の経験がなければ、今でも保守的な考えをしていたのではないかと思います。今の日立の人事は、海外に行かなくてもグローバルを体感できる環境になりました。感慨深いものです。
時間をかけてでも対話と説明を繰り返さなければ理解は得られなかった
変革を推進する上で、現場では随分と反発もあったのではないでしょうか。
やろうとしていることは、従来の日本型企業のシステムの変革ですからね。反発があるのは当然のことです。しかし目指している方向は絶対に正しい、必ず実現しないといけないと思っていました。ガラパゴス化した人事システムでは、多様な人財が集まるはずがありません。世界中の誰もが働ける水準をつくらなければならない。とはいえ30万人の従業員がいますから、一筋縄ではいきません。
一人ひとりが腹落ちして動かない限りは機能しないので、時間をかける必要があると考えました。しかし、自分が旗振り役を担うようになって、周りからは「推進力が下がった」「こんなにのんきでいいのか」と言われることもありました。ただ、人は基本的に変化を嫌う生き物です。中でも日本人は慎重なところがある。その心理を無視しては、絶対にうまくいかないと思いました。だから腰を据えて取り組んだのです。
ジョブ型雇用の導入も、従業員の理解と準備に時間をかけました。労働組合とは2017年から調整を始め、その間に教育などのフォロー体制を整えました。従業員へ説明する際に意識したのは、経営や事業の方針からアプローチすることです。
日本のメンバーシップ型雇用は、ある種の信頼関係で成り立っていました。「どうしたら昇格できるのかわからないけれど、上司や人事が見てくれているはず。いつになるかわからないけれど、内示が出るまで待っていよう」などと、受け身の姿勢が基本でした。ビジネスモデル自体が受注型でしたから、それでも何とかなっていたんです。
しかし、自分たちで社会の課題を探すようにビジネスの立ち位置を変えた以上、そうはいきません。さまざまな場所で働くメンバーでチームを組むのだから、「見てくれている」「言わなくてもわかる」は通用しなくなる。「こういう仕事がしたい」「このポジションで働きたい」と主体的につかみにいくマインドが必要になるわけです。それにポジションごとに求められる能力が明確なら、育児、学び直しなどで仕事から一時的に離れていた人や、外部人材などもフェアに登用することができます。多様性を担保するうえで、ジョブ型雇用の導入は必然であることを粘り強く説明しました。
制度から説明しても、理解を得るのは難しいということでしょうか。
はい。制度や施策から説明するのは、人事の悪い癖だと思います。現場の人たちは「なぜやるのか」に納得できない限り、変わろうとはしません。実は私も責任者となって最初の頃に、同じ失敗をしました。グローバルのパフォーマンスマネジメントシステムを全社に導入するため、各地の事業所へ説明に出向いたのですが、現場の社員になかなか理解してもらえなかったのです。説明会の直後に「私、やりませんから」とはっきり言われることもありました。
しかし、それは当然なことでした。説明のときに制度からアプローチしてしまったからです。全社目標から個人目標へとカスケードダウンする、オンラインのマネジメントシステムを導入すると言っても、現場の社員にとっては今までのMBOから変える理由がわからない。この先グローバル化が進んで同じ場所に働いていない外国人がマネジメントする可能性がある、事業転換により評価軸が変わっていく、という背景が抜け落ちていたのです。私自身が説明の途中で「これではダメだ、伝わらない」と思うほどでした。自分が逆の立場なら、同じ反応をするはずだと。
中畑さんはそこからどのように変わっていったのでしょうか。
コミュニケーションを交わすことに注力しました。人財部門へのタウンホールミーティングを2016年から本格的に始めました。国内の事業所だけなく、海外の拠点も含めて年間で35回、2000人以上のHRスタッフと対話を交わすのが恒例です。毎回半日ほどかけ、事業や人事の全体像を説明した上で、質疑応答や10人程度のグループでのラウンドテーブルミーティングを実施。最後は立食形式での懇親会も行います。
私はすべてのテーブルを回って、参加者全員と顔を合わせることを自分に課してきました。お酒が入ると、本音も交えた話になります。それをコツコツとやり続けてきました。人は簡単に考えが変わるものではありません。あきらめずに、何度でも根気強く対話を繰り返し、お互いの理解を深め合っていきました。
また、社会イノベーションとグローバルが噛み合った事例も、理解を加速させました。特に鉄道事業の成功は大きかったですね。今春まで副社長を務めていたアリステア・ドーマーが中心となり、イギリスを主要拠点に各国へニーズを広げていくことができました。元は国内事業が中心で1500億円程度のビジネスが、5000億円規模に成長したのです。多様な人財を入れることで、事業がこれだけ伸びること、利益率も上がることを示してくれました。日本人で鉄道事業の経営リーダーを固めていたら、こうはいかなかったでしょう。
100年にわたって培ってきたものづくりとオペレーションの技術にITを掛け合わせることで、社会課題に広くアプローチできることを証明したのが、この鉄道ビジネスです。イギリスでは鉄道の遅延率が非常に高く、日本の何倍も起こっていることが課題でした。遅延によるペナルティーは、鉄道会社が支払わなければいけません。そこに日立のIoTによるオペレーションとメンテナンスシステムを導入したことで、定時運行が実現したのです。雪が降ったときも日立の列車だけは普通に走れたといった実績も生まれました。
たとえデジタル化が進んだとしても、やはりモノづくりは重要だと考えています。これからも世界中のあらゆる競合と、切磋琢磨していくことになるでしょう。しかし、IT企業やコンサルティングファームは、社内でのモノづくりが難しく、他社と組むことになります。一方、日立は社内でモノづくりができ、オペレーション設計もデジタルをすり合わせていくこともできる。これは非常に大きな強みです。
過去に中西は、「デジタルの時代は、日本企業にとってアドバンテージだ」と話していました。日本はモノづくりの技術を持っていて、擦り合わせるのもうまい。加えてこれから市場が成長するアジアは、距離的にも文化的にも近く、欧米とも良い関係にある。だから日本企業はIT革命では後塵を拝してきたけれど、IoTの時代は最大のチャンスだと。こういう話をすると、社員は「自分たちがつくる強いプロダクトも必要なんだ」と前向きになりますよね。
完璧にこだわらずコンフォートゾーンから抜け出す勇気を
日立における今後の人財領域の課題とは何でしょうか。
経営改革に取り組んだ当初、中西は「グローバル・メジャープレイヤーへの転換を成し遂げよう」と人財部門に語りかけました。それから10年経った今、現トップの小島(啓二氏 執行役社長兼CEO)も東原(敏昭氏 会長)も、「グローバル・リーダーを目指す」と言います。世界を率いる立場にならなければ、我々は生き残れないのです。
この4月に、当社は新たな中期経営計画を発表しました。これまでの10年が社会イノベーション事業を進める下地づくりだとしたら、次は成長の10年です。Lumada事業の売上比率は現状17%ですが、この3年で27%にする予定です。人については、大規模なM&Aを実施したことで、最近3年で10万人の新しい仲間が入ってきました。カルチャーやマインドセットの違いを踏まえ、どうマネジメントしていくかは、私たち人事が取り組むべき課題といえます。「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という理念や、「和・誠・開拓者精神」を新たな人財にどう伝えていくかによって、事業の成長曲線が変わってくるでしょう。
またデジタル人財の強化も急務です。現時点の6万7000人を、今後3年で9万8000人に増やします。全体像としては、2021年に買収したグローバル・ロジック社が核となります。同社には強い採用力や育成力があります。インド、東ヨーロッパ、南米エリアをターゲットに採用強化を図っていく計画です。国内は、育成に主眼を置いています。エンジニアを対象にデジタルスキルの習得プログラムを設け、年間6000人、3年後には1万8000人の履修を目指します。
これからの時代に問われるリーダーシップの開発も重要な課題です。チームワークの醸成や管理能力も重要ですが、グローバル化、デジタル化、不確かな状況の下で、自身の知識・経験だけではなく、周囲(社内外)の知見も得ながら、最終的には自身の責任で判断・決断し、実行する力が問われます。言うなれば洞察力と戦略性、そして多様性への適応力です。さまざまなことに関心を持ち、他者と交わることを恐れずに、価値観の異なる人を巻き込みながら共創できるリーダーが、今後より必要となってくるのは明らかです。
教わって身につくものではなさそうですね。
その通りです。座学もある程度必要ですが、リアルな課題に直面し、自分の頭で考え、手と足と人を動かした経験が血となり肉となります。現在社内では次世代経営人材候補を500人ほどプールしていて、そのうち4分の1が海外人財で既に事業部長やCEOなどシニアマネジメントを経験しています。しかしながら日本人は部長・課長クラスが多くいる状況です。社会人歴は同程度だし、日本人候補も優秀であることには変わりありませんが経験が違うがゆえに、同じ土俵に立ったときに議論が成り立たないこともありました。
そうした危機感から、候補となる人材を早期にピックアップし、一足飛びで厳しい現場や経営に近いポジションを経験させる「Future50」にも取り組んでいます。開始から5年が経ちましたが、日本人社員でも45歳で年間売上5000億円のグループ会社のトップに就任し、周りの役員は10歳以上年上の人ばかりというような場で指揮を執るなどのケースが徐々に見られるようになりました。
私自身の経験からも、グローバル・リーダーには本当にタフネスさが問われると感じます。社長室や役員室に閉じこもって説明を待っているようでは、とても務まりません。文字通り、世界中を飛び回る生活になります。現に今も、急速な円安や物価の高騰が起こっていますが、外に出て現場に触れなければ、実態はつかめません。
人事も同じです。自部署にこもっていても事業の実態はつかめないし、経営に沿った人事戦略はつくれません。日立もグローバル人財部門はまだしも、事業部になると日本人だけの同質的な組織であるところがいまだに少なくありません。今いる環境から少し離れてみることは、とても大事だと感じています。
不確実性の高い世の中だからこそ、一歩外に踏み出して俯瞰することが大事なのですね。
外に出るのはきついものです。私はマイクロソフトやシーメンスなど名だたるグローバル企業のCHROと積極的に交流を図っていますが、常にプレッシャーとストレスがつきまといます。自分の言動ひとつで、日立という会社がどの程度のものか判断されるので、いつも真剣勝負です。
リスクを冒してまで現状を失いたくないと思うのは自然なことです。しかし、居心地の良い場所から抜け出す勇気によって、見える景色は確実に変わります。私も世界のCHROとの対話を通じて、日立はようやく彼らと同じ土俵に立てたと理解することができました。今はこのポジションをどう生かし、ビジネスにつなげていくかという段階です。まさに「Out Of Comfort Zone」です。
中畑さんにとって、人事の仕事とは何でしょうか。
昔から人事は大事だと言われてきましたが、変化の激しい時代の中、ますます重要度が高まっていると感じています。かつては従業員をマスで捉えていたものが、今は個に寄り添う形に変わってきています。一人の社員への支援を通じて、本人が自己実現を遂げ、会社も成長するなんて最高ですよね。人財部門の仕事に就けることは、幸せなことだと思います。
昨年から中期経営計画に合わせて、若手のHR人財が中心となってグローバルでチームを組み、組織のビジョンと人事のあり方を議論してきました。そこで出てきたのは、従業員に選ばれる企業になるには、私たちがグローバルレベル、ワールドクラスのHRになることが求められる、ということです。
そのうえでCHROを定義すると、人や組織が成長することで、価値を生み出し事業に貢献することがミッションであり、描いたビジョンにもとづき、人事部門のリーダーとして何をいつまでにどうやるか、具体的なロードマップを示して組織を導く立場なのだと思います。
CHROとして、社内のHRの皆さんにはどのようなメッセージを意識していますか。
いつもタウンホールミーティングの最後に、人財部門の人たちに伝える言葉があります。「四つのE」と呼んでいて、一つ目は「Execution is the key!」。現状を変えるには計画や考えだけではだめで、実行が必要です。二つ目は「Embrace the change.」。タフでチャレンジングな環境にあるけれど、維持では我々は生き残れない。だから変化を享受しましょう、ということです。
三つ目は「Expand our Vision as One Hitachi & United HR.」。当社はいろんなビジネスを各国で展開する大きな組織ですから、視野を広げ全体を見て、人事が一体となろうというメッセージです。そして四つ目は、「Enjoy your work as Change Leader.」。ありたい姿を目指し、変革を“楽しもう”と呼び掛けています。
「四つのE」を実現するために求められる個人の意識や組織の文化とはどのようなものでしょうか。
私とともに働く、チーフダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンオフィサーの執行役常務ロレーナ・デッラジョバンナ(イタリア人女性)は、「日本人はパーフェクトを求め過ぎでは」と言います。特に女性にその傾向が強い、と。完璧も大事だけれど、それで身動きがとれなくなってはいけません。チャレンジに前向きな風土を醸成するには、失敗を許容する環境や文化も同時に築いていく必要があります。
以前、サイバーエージェントの常務執行役員 CHOの曽山哲人さんと対談したことがありますが、同社はチャレンジによる失敗に寛容で、若いうち、早いうちから、難しいことに果敢に挑むことを歓迎する風土が根付いています。その方針は私も大賛成で、社内の若手経営人財にもよく言っています。「あなたたちのポテンシャルを見込んでの抜てきだ。失敗するかもしれない。2、3年トライしてうまくいかなかったら、その時は前のポジションに戻ればいい。そしてまた次のチャンスに向けて、準備をしてほしい」と。
難しい仕事に取り組みながらも、楽しさを感じるにはどうすればいいのでしょうか。
私自身は、自分がやっていきたいと思った方向へなされていく、形が見えていくときに、楽しさを感じますね。その過程では、正直きついと感じることのほうが多いかもしれません。でも自分が関わることで何かを変えられたと思えたときが、まさにEnjoyの瞬間。それにはやはり、“どうなりたいか”がなければ難しい。5年後、10年後に日立がどうなっているといいのか、自分はどうなっていたいかと思いを馳せながら、人事という仕事に臨んでいます。
(取材日:2022年9月30日)
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。