“2枚目の名刺”が若手を育て、シニアを活性化
楽しく学ぶ「パラレルキャリア」の人材育成効果とは(前編)
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山 恒貴さん
いま、“2枚目の名刺”を持つビジネスパーソンが増えています。本業をしっかりと持ちながら、同時にNPOやプロボノなど本業以外の社外活動に取り組み、複数のキャリアを実践する――「パラレルキャリア」という新しい潮流です。注目を集めている理由は、本業と社会活動による学びの相乗効果で自己成長が促され、本業でもさらに輝けるようになるから。「実際、政府系金融の30代の社員がパラレルキャリアの学びで得た経験を活かしてメーカーの経営支援を行い、社長賞を獲ったという例があります。一部の企業もその人材育成効果に注目し、研修として活用し始めています」と語るのは、書籍『パラレルキャリアを始めよう!』の著者で、法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴先生です。“経営の神様”ドラッカーが予言したパラレルキャリアの概念をより広くとらえ直し、働き方やキャリア観の柔軟化を推奨する石山先生に、パラレルキャリアとは何か、なぜ求められているのかなど、基本的な考え方についてじっくりとうかがいました。
いしやま・のぶたか●一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GEにおいて、一貫して人事労務関係を担当、米系ヘルスケア会社執行役員人事総務部長を経て、現職。人的資源管理と雇用が研究領域。ATDインターナショナルネットワークジャパン理事、タレントマネジメント委員会委員長。NPOキャリア権推進ネットワーク研究部会所属。主要著書は『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、『組織内専門人材のキャリアと学習』(日本生産性本部生産性労働情報センター)
本業と本業以外の社会活動の複数キャリアを同時並行で実践
最初に、石山先生のキャリアについてお聞かせいただけますか。
もともとは『日本の人事部』読者のみなさんと同じ、企業の人事パーソンでした。NECをはじめ国内・外の数社に勤めましたが、一貫して人事畑です。自分でもそのままずっと人事畑で行くのだろうと思っていたのですが、働きながら社会人大学に通って勉強を続けているうちに、アカデミックな方向もいいかなと。学位も取ったので、思い切ってチャレンジしてみました。会社時代の同僚とは今でもすごくいい関係で、しょっちゅう飲みに行ったり、テニスをしたりしています。
ご自身も会社員時代から、本業とは別に社会人大学という学びの場をもって、「パラレルキャリア」を実行されていたわけですね。
それ以外にも人事は仕事柄、いろいろな勉強会や交流会などに参加する機会が多いんです。私自身は決して社交的な人間じゃないし、どちらかというと人見知りするほうなのですが、勉強会だったり、社会人大学だったり、パラレルキャリア的な集まりだと大丈夫なんです。むしろ、そこで学ぶことがすごく楽しくて。人見知りの私でも、いろいろな人たちと付き合えて刺激をもらえたし、それが仕事に活きることも多々ありました。そして何より、家庭でも職場でもない第三の場所――レイ・オルデンバーグのいう「サードプレイス」のような場に身を置くこと自体が、単純に居心地がよかったんですね。そうした自分自身の体験が、「パラレルキャリア」の本を書く動機の一つになったことは間違いありません。
あらためて「パラレルキャリア」とはどういう考え方なのか、ご紹介ください。
そもそもパラレルキャリアとは、P・F・ドラッカーが著書『明日を支配するもの』の中で提唱した新概念で、会社勤めなどの本業をしっかりと持ちながら、それ以外の社会活動に取り組み、その相互の学びを活かして自己成長していく新しい生き方のことです。同書では、教会の運営やガールスカウトのリーダー、教育委員会の委員といった地元での社会活動を引き受けることが例としてあげられています。ここでドラッカーが想定しているのは、知識労働者。知識労働者には、何歳になっても終わりがありません。体力が多少衰えても、働こうと思えば働けますからね。社会の進歩で長命になった知識労働者が会社の定年などに縛られることなく、いきいきと活躍し続けるための方法論として、ドラッカーはこの概念を提唱したのです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。