企業における「新型インフルエンザ対策」の実態
労務行政研究所では、急速に患者数が増え、企業経営にも多大な影響を及ぼす新型インフルエンザA(H1N1)について、企業がどのような対策を講じているのか、緊急調査を行いました。
※『労政時報』は1930年に創刊。80年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌です。ここでは、同誌記事の一部抜粋を掲載しています。
流行時の感染予防策の義務づけ
新型インフルエンザ流行時の感染予防策として、各企業が義務づけたもの(推奨を含む)を尋ねました(複数回答)。
これによると、義務づけた企業の多い順に、
(2)出社時や外出先から帰社時の手洗い(アルコール消毒を含む)……93.6%
(1)通勤・外出時のマスクの着用……85.3%
(7)海外出張の自粛(回数抑制を含む)……73.1%
(6)国内出張の自粛(回数抑制を含む)……62.8%
となっており、ここまでが6割を超えます。
従業員に感染が確認され、本人を自宅待機とした場合の賃金等の取り扱い
従業員に感染が確認された場合、職場に感染を広げるリスクがあるため、自宅療養を求めることになります。そこで、このように、自宅待機とする場合の賃金等の取り扱いについて尋ねました。
企業の取り扱いの実態をみると、多い順に
(3)賃金を通常どおり支払う(欠勤しても控除がない)……33.1%
(4)分からない・未定……27.2%
(1)賃金や休業手当等は支払わない……22.2%
(2)賃金は支払わず、休業手当を支払う……8.6%
――でした。
(3)が多いのは、欠勤しても賃金を控除しない“完全月給制”の企業が少なくないためでしょう。
なお、上記で(1)(2)と答えた企業のうち98.2%は、「年休の取得を認める」としており、「(6)原則として年休取得で対応」とした5.0%の企業と合わせると、全体の約35%の企業が実際の休業に際して年休取得により賃金を支払う運用になるものとみられます。
同居家族に感染が確認された場合の、従業員の自宅待機
従業員の同居家族に感染が確認された場合、従業員は「濃厚接触者」として感染の可能性が高い者とみなされ、本人が罹患した場合と同様に職場に感染を広げるリスクがあります。そこで、このような者に対して、出勤制限を行うかどうかについて尋ねました。
これによると、「(2)保健所から『濃厚接触者』として外出の自粛要請が出された場合は、自宅待機とする」が43.1%と多くなっています。「(1)保健所の判断を待たず、原則として自宅待機とする」は33.9%でしたが、大企業では40.7%に上ります。
なお、同居家族が罹患し保健所等行政から外出自粛など感染症予防法に基づく要請が出された場合は、企業が自宅待機にするまでもなく、休務せざるを得ません。しかし、現時点では、同法に基づくこうした要請は出されておらず、本年6月19日の運用指針改定以降は、「新型インフルエンザ判定のためのPCR(遺伝子)検査」もすべての患者に対しては行われていません。つまり、多くのケースで、新型インフルエンザかどうかは確認されず、行政からの外出自粛等の要請も明確には行われない状況にあります。
(法令の定め)感染症予防法44条の3第2項では、家族が新型インフルエンザにかかっている者などについて保健所等で調査を行い、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」と判断された場合については、都道府県知事が外出自粛等の要請を行うこととしている。ただし、現時点では同法に基づく上記の要請は出されていない。
同居家族に感染が確認され従業員を自宅待機とする場合の、賃金等の取り扱い
[図表3]で「(1)保健所の判断を待たず、原則として自宅待機とする」「(2)保健所から『濃厚接触者』として外出の自粛要請が出された場合は、自宅待機とする」と答えた企業に、自宅待機中の賃金等の取り扱いについても尋ねました。
(1)(2)のいずれも「賃金を通常どおり支払う(欠勤しても控除がない)」とする企業が最も多く、「(1)保健所の判断を待たず、原則として自宅待機とする」企業で50.8%、「(2)保健所から『濃厚接触者』として外出の自粛要請が出された場合は、自宅待機とする」企業でも37.7%に達しました。これは、先にみた[図表2]での割合(33.1%)より多く、理由として、欠勤しても賃金を控除しない“完全月給制”の企業があることに加え、“特別有給休暇”とする企業があるためと考えられます。
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